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『52歳の僕が、23歳の君に振られた理由』  作者: こうた


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2/10

第2話 男気



 つばさと知り合ってから、俺は少しだけ毎日が楽しくなった。


 仕事が終わると、スマートフォンを確認する。


 つばさから連絡が来ていないか。


 そんなことを気にする自分が、少し恥ずかしかった。


 52歳にもなって、23歳の女性からのメッセージを待っている。


 自分でも笑ってしまう。


 でも、嬉しかった。


 ある日の昼休み。


 つばさからメッセージが届いた。


『昨日教えてもらったお店、美味しそうですね』


『今度、一緒に行きますか?』


 俺は何度も文章を書き直した。


『もちろん。いつでもええよ』


 送信。


 すぐに返信が来る。


『ありがとうございます』


 たったそれだけ。


 それなのに、その日は一日中、機嫌がよかった。


 俺は思った。


 もしかしたら。


 もしかしたら、俺にもまだ恋愛ができるのかもしれない。


     ◇


 その週の金曜日。


 仕事を終えた俺のスマートフォンが鳴った。


「もしもし?」


『よしお、今から飲みに行くぞ』


「今日はちょっと……」


『なんや、予定あるんか?』


「いや、明日勉強せなあかんから」


『また資格かいな』


「試験近いからな」


『一日くらいええやろ』


 俺は黙った。


 一日くらい。


 その言葉には、何度も負けてきた。


「……何時から?」


『もう店取ってある』


「分かった」


 電話を切った。


 俺は車の中でため息をついた。


 本当は行きたくなかった。


 帰って勉強したかった。


 つばさとのことも、ちゃんと考えたかった。


 でも――。


 断ると、何を言われるか分かっている。


 付き合い悪い。


 ノリが悪い。


 仲間やろ。


 昔からそうだった。


     ◇


 店に入ると、すでに五人ほど集まっていた。


「おう、よしお!」


「待ってたで!」


「今日は飲めよ!」


「俺、酒弱いからな」


 そう言った瞬間、笑い声が起きた。


「また始まったで」


「よしおは酒弱いんやって」


「知ってる知ってる」


「ほな、余計飲ませたろ」


「やめろって」


 俺も笑った。


 最初は本気で断っていた。


「明日勉強するから」


「試験あるから」


「今日は早く帰るから」


 それでも酒は目の前に置かれた。


「一杯だけ」


「一杯ならええやろ」


「景気づけや」


 俺はグラスを持った。


「乾杯だけやぞ」


「おう!」


 グラスがぶつかった。


 そこから先は早かった。


 二杯目。


 三杯目。


 四杯目。


「よしお、まだいけるやろ!」


「もうええって」


「男やろ?」


「……」


「男気見せろや」


 俺は、その言葉に弱かった。


 男気。


 昔から、そう言われるのが嫌いではなかった。


 頼りになる男。


 仲間を裏切らない男。


 困っている人間を放っておかない男。


 そういう人間でありたいと思っていた。


 だから、断れなかった。


「……もう一杯だけや」


「さすがよしお!」


 また笑い声が起きる。


 俺も笑った。


 その夜、俺は酔いつぶれた。


     ◇


 翌朝。


 目が覚めたのは午前10時だった。


「……最悪や」


 頭が割れるように痛い。


 口の中は気持ち悪い。


 机を見る。


 参考書が置いてある。


 昨日、勉強するはずだった。


 俺は参考書を手に取った。


 開く。


 数ページ読んだ。


 だが、頭に入ってこない。


 結局、その日はほとんど勉強できなかった。


 夕方。


 スマートフォンを見る。


 つばさからメッセージが来ていた。


『今日はゆっくり休んでくださいね』


 俺は返信する。


『ありがとう。今度ご飯行こうな』


『はい』


 その一言だけで、少し元気になった。


 そして思った。


 俺は変わらなければならない。


 資格も取る。


 借金も返す。


 仕事も頑張る。


 そして――。


 いつか、つばさに自分のことを好きになってもらう。


 そう決めた。


 だが、その決意は長く続かなかった。


     ◇


 数日後。


 今度は麻雀の誘いが来た。


『よしお、今日空いてるやろ?』


「いや、勉強するから」


『ちょっとだけや』


「今日は無理や」


『なんや、付き合い悪いな』


「……」


『男なら逃げるなよ』


 俺は目を閉じた。


 そして、いつものように言った。


「……分かった」


 電話を切る。


 机の上には参考書。


 その隣には、つばさとの約束の日程を書いたカレンダー。


 俺はそれを見た。


「まあ、一日くらい……」


 そう呟いた。


 その一日が積み重なって、


 俺の人生を少しずつ変えていくことを、


 このときの俺はまだ知らなかった。

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