表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鉄殻のケストレル ―灰に沈む世界、鉄に宿る季節―  作者: Studio SASAME
折れた天秤

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

102/151

|残殻《ざんかく》の軍人

格納庫の中に、工具の音が響いていた。

 カイは残殻(ざんかく)の足元に座り、リオンがコックピットに収まるのを見上げていた。トワの予備機。灰域(アッシュランド)残殻(ざんかく)銘殻(めいかく)とは何もかもが違う。規格外の部品が混在し、操縦桿の応答曲線が一定しない。ペダルの踏み込み量と脚部の動作の対応も、左右で微妙にずれている。


 リオンが操縦桿を握り、右腕を動かした。

 残殻(ざんかく)の右腕がゆっくりと持ち上がる。だが動きの途中で一瞬止まり、それから急に加速した。関節の遊びが大きすぎて、入力と動作の間にタイムラグがある。


「右肩の関節、遊びが0.3秒ほどある」

 リオンの声がコックピットから降ってきた。冷静な分析。だがその声の奥に、苛立ちの気配がある。

「左膝のアクチュエータも不安定だ。踏み込み量に対して出力が一定しない」


 ガルドが工具箱を抱えて歩いてきた。

「見せろ」

 ガルドは残殻(ざんかく)の肩部のカバーを外し、関節部を覗き込んだ。錆びたボルトと、擦り減ったベアリング。ガルドの目が一瞬で問題を捉えた。

「ベアリングの摩耗だ。交換部品がないから削り直すしかない。あとペダルの配線を引き直す。左右の応答差はそれで消える」


 ガルドはリオンのコックピットに頭を突っ込み、シートの位置とペダルの角度を確認した。

「お前、ポラリスのシート位置より2センチ前に座ってるな。残殻(ざんかく)の操縦桿はストロークが長い。もう少し後ろに下がれ」

 リオンが僅かに驚いた顔をした。

「なぜポラリスのシート位置を知っている」

「セルヴィスの銘殻(めいかく)のスペックは公開情報だ。操手(そうしゅ)の身長から逆算すれば分かる」

 ガルドは煙草を咥えたまま、レンチでシートのボルトを緩めた。

「お前、筋はいいな。銘殻(めいかく)に慣れた体で残殻(ざんかく)に乗れるのは、基本がしっかりしている証拠だ」


 リオンは何も言わなかった。だが、その沈黙は拒絶ではなかった。


 * * *


 2時間後。

 ガルドの調整を経た残殻(ざんかく)は、別物とまではいかないが、少なくとも操縦桿の応答が安定した。リオンが格納庫の外で試験歩行を行う。雪の上に残殻(ざんかく)の足跡が刻まれていく。歩行は安定している。旋回も問題ない。右腕の動作遅延は残っているが、許容範囲まで縮まった。


 カイはケストレルの前に立ち、リオンの残殻(ざんかく)を見ていた。

 鉄紺色の銘殻(めいかく)と、灰色の即席機。対照的な2機が、格納庫の前に並んでいる。


 トワが二人の後ろから近づいてきた。

「いい並びだ」

 カイは振り返った。

「何が」

「絵になるってことだよ。銘殻(めいかく)残殻(ざんかく)灰域(アッシュランド)操手(そうしゅ)とセルヴィスの軍人。話の種にはなる」

「うるさい」

 リオンがコックピットから降りてきた。残殻(ざんかく)の足元に立ち、見上げている。灰色の装甲には何の装飾もない。セルヴィスの紋章もない。ただの鉄の塊だ。

 だがリオンの目は、ポラリスを見る時と同じ真剣さだった。


 ガルドが煙草を消し、二人の前に立った。

「明日、ダリオの部隊がストーンクロスに到達する。遊肢(ゆうし)2基の鋳脈(ちゅうみゃく)者だ。お前たちだけで戦うわけじゃない。ボルトの部隊もリントもいる。だが、相手はコルヴァスだ。舐めるな」


 カイは操縦桿の感触を思い出しながら、頷いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ