追撃隊
リオンは通信機の前に座っていた。
ストーンクロスの通信室は、旧世界の事務所を改修した小さな部屋だ。壁にタリアが構築した通信中継装置が据えつけられ、ケーブルが蜘蛛の巣のように天井を這っている。窓の外では雪が降り続けている。
暗号通信の受信音が鳴った。
リオンは暗号キーを入力し、音声を復号する。聞き慣れた声が、雑音越しに届いた。
「リオン。アイリスです」
アイリス・トレントの声は低く、早口だった。周囲に人がいる場で話しているのだろう。
「追撃隊がストーンクロス方面に向かっています。指揮はダリオ・メイス。コルヴァスの最古参です」
「ダリオ・メイス」
リオンはその名を反芻した。セルヴィスの中でも古参の鋳脈者。遊肢2基を操る堅実な戦術家として知られている。第三機装師団時代に報告書で名前を見たことがあった。
「リーヴは」
「本隊と共に後方にいます。ダリオは先鋒。目的はあなたの確保と、灰域抵抗勢力の偵察です」
通信が切れた。
リオンは椅子の背に体を預け、天井を見上げた。
自分を追って、セルヴィスが来る。
脱走兵の確保。それが名目だ。だがリオンは知っている。自分がストーンクロスにいることが、この集落を標的にしている。セルヴィスの追撃隊がストーンクロスに接近するのは、リオン・アスフォードがここにいるからだ。
足枷。
自分がここにいることが、灰域の人間を巻き込んでいる。
* * *
バートンの執務室に向かった。
バートンとカイが地図を広げていた。リオンが入ると、二人の視線が集まった。
「アイリスから通信があった。追撃隊の指揮はダリオ・メイス。遊肢2基の鋳脈者。コルヴァスの最古参だ」
バートンは地図の上に指を置いた。
「コルヴァスか。厄介だな」
「私がストーンクロスを離れれば、追撃隊の目標は私一人になる。集落に手は出さないはずだ」
リオンの声は静かだった。作戦報告のような口調。
カイが口を開いた。
「逃げるな」
短い言葉だった。
「一緒に戦え。お前が一人で走っても、セルヴィスはストーンクロスを見逃さない。お前がいなくなったら、次は集落そのものを浄化しに来る」
リオンはカイを見た。
「根拠は」
「勘だ」
リオンは言い返そうとした。勘で作戦を決めるな、と。だがカイの目を見て、やめた。あの目は勘で動く人間の目ではない。灰域で生き延びてきた人間の、肌で感じた判断だった。
バートンが頷いた。
「カイの言う通りだ。お前が離れても状況は変わらない。戦力は一人でも多い方がいい」
リオンは黙った。
数秒の沈黙の後、小さく頷いた。
「残る。だが、ポラリスはセルヴィスに置いてきた。今の私には機体がない」
カイが肩をすくめた。
「機体なら何とかする。トワの予備機がある」
「灰域の残殻に乗れと」
「残殻でも銘殻でも、乗る人間が同じなら同じだろ」
リオンは言い返そうとして、やめた。
同じなわけがない。残殻と銘殻では操縦感覚が根本から違う。計器の半分は死んでいるだろうし、関節の遊びは銘殻の3倍はある。
だが今、選んでいる場合ではなかった。




