表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無音の魔術師  作者: 芹沢桐花
第三章 英雄
58/63

13.合流

 結局、俺たちは何も言わずに別れた。この場所に彼女を一人、置いていくのは心配でもあるが、この分なら仲間の一人や二人はすぐに見つけられるだろう。シャルルの軍人としては、すこぶる困った話だが。

 城の門をくぐると、見知った兵士がいた。数少ないハーフエルフの一人。

「身分証はお持ちですか」

「ありません。が、ライラックはいますか」

「えーっと、はい。一応あなたに会いに来ていますね」

「彼を呼べは大丈夫だと」

 そんなんで入れてもらえたらここの警備は甘いが、城下町でも軍がいるところもあるだろう。せめてそこへ入らればいい。

 癪だが、ライラックなら頼れる。

「まあ、自分もあなたはよく知っているのですけれど。すみません、呼んできます」

「お願いします」

 去っていく人と入れ替わりで別の兵が見張りに立った。俺を見る目は冷めていて、それどころか侮蔑すら含まれているのが分かる。

 俺は敢えてその人の視界に立ったまま、さっきの兵士を待った。

「ゼシカっ!」

「は?」

 何だこれは。まるで敵を見つけたかのような形相で勢い良く突っ込んでくる。俺は躊躇わずよけた。しかし、弾丸はそれを見越して軌道を変え、俺は壁に打ち付けられた。

「し、死ぬだろ! 馬鹿なんですかっ!?」

「……ヴィクトルが」

「え?」

「ヴィクトルが、ロテリアに」

 この喧しい猫の、こんな表情は初めて見たかもしれない。

 取り敢えず抱きついてきた猫は引きはがして、俺はハーフエルフの兵士を見た。

「嘘、だろ……」

 彼もまた苦い顔で、俺を見ていた。


×××××


 身分証はライラックが持っていて、俺はそのまま城内に入ることが出来た。そこで俺は詳しい話を聞いた。

 信じられない。

 あの先輩が、守るためだとしてもロテリアの捕虜になるなんて。一騎当千の戦士だと思ったのに、相手はそれを上回るというのか。

「戦場に、出るなと言われた。だけど、無理に決まってる」

 彼が向こうにいるのなら、暗殺は無しになるのは分かる。俺はそのまま殺すべきだったのだろうけれど。

「ゼシカさんと自分は、師団に入ることになっています」

「師団?」

「ロテリアが、新兵器を生み出したとの情報があります。魔術師ならば対抗できるだろうと」

「馬鹿だよなぁ。魔術と機械技術じゃ比べ物にならない」

 ライラックは吐き出すように言い捨てた。確かに、機械にエルフの魔術も組み合わせてきたら、半端な力ではどうにもならないと、思う。

 俺の銃は、ロテリア製の改造銃だ。並の魔術なら貫けるのは分かっている。魔術の種類には寄るけれど、魔術も最上級のものを使うしかない。それこそ、時間と人を掛けて陣魔術を使うくらいにはしなければ、無理だ。

「無謀ですね。誰かが成功すればいいと思っているのですか」

「それは……」

 彼は、近くにあった袋を俺に手渡してきた。その中には紙の束や、軍服、弾丸、筆記用のペン。

 紙の束には、大量の名前が記されていた。

 軍服は、前のものより階級が上のものだった。

 弾丸は、一つ一つに魔法陣が無数に彫り込んである。どれか残れば威力が発揮するのだろう。

 ペンは言うまでもない。陣魔術師の俺のための物。

「あなたが、成功すれば良いのです」

「はい? 俺って、ずっといなくて生きているかも分からなかったんですよ?」

「捜索隊が出ていました。ライラックさんがどこに連れていったか教えてくださらないので」

「ふざけているんですか」

 すると、温和そうな彼の表情が歪んだ。それは、怒りのような、憎しみのような、嫉妬のような。


「俺だって、あなたの盾になりたくない」


 その一言が、全てを教えてくれた。

 それが、俺に突き刺さる。

 怖くなった。

 この手に、この背に、この紙束に書かれた名前すべてが、重荷となって、枷となって、俺を縛り繋ぐ。

「どうして……、俺、なんですか」

 すると、嘲笑うかのように口元を歪ませて、彼は言った。

「あなたは、人を殺すのに相応しいんですよ」

 そうだよ。俺の手は、いや全身は血で染まっている。


××××××


 背中に彫られた大きな魔方陣は、荒っぽい俺の魔力を練り合わせる為のものだ。

 これが無ければ自由勝手気ままに暴れて制御なんてできやしない。

 あのおっさんが、話したらしい。

 この陣は、他人の魔力までも制御できると。

「反吐が出る」

「それは俺のほうだぞっ! なんであんたなんか守らなきゃならないんだよ!!」

「知りませんよ。嫌ならどっか言ってくださいよ。猫ちゃん」

 いつも通りの彼の態度は、実はホッとする。

 俺たちは最後の砦を背に、背水の陣を決め込むことになった。文字通り、後ろは水、大きな川がある。

 今は準備中だ。正直もう、逃げたい。みんなの視線が痛い。

「そこから南東方向に行くと、大地に巨大な魔方陣が掘りこんである。魔術師団はそこを目指し、そこで魔術を待機。合図後に、そっちに新兵器を連れてくから撃破だ」

「つまり、それまで俺は死ななければいいんですか」

「そうだ。他は魔力を出来るだけ多く魔方陣に送り込め」

 俺は、何処にいるのだろう。そして、どこに行くのだろう。

 これは、夢ではないのか。

 伝わってくる。何故、こんな魔術の下手な奴を守らなければいけないのか、と。

「では、時間までに準備しておけ」

 噂があった。皇族を見捨てれば、ロテリアの戦闘行為は中止し、シャルル帝国をロテリア王国の属国とする。それだけで済むと、軍の中ではそれが広がっている。

 今更、降伏したって遅い気もする。もし皇族を差し出したとして、その場合軍の上層部は死刑だろうし、シャルル軍で多くの戦果を得たものも然り。

「ゼシカ」

「何だ、まだ居たのですか」

「う、うるさい! いや、あの、さ、この戦い……」

 ここでは言いにくいのだろう。いや、言うべきではない。

「分かってますよ」

 ライラックの瞳に影が差した。それはあまりにも相応しくなくて、どこか気分が悪い。

 この戦いは、どう足掻いてもシャルルに勝利はない。その事実は、軍の士気にも影響していた。

「俺は、あんたを守るよ」

「結構です」

「なんだよ。良いんだよ。俺はヴィクトルが、ジノと引き換えにしてまで守ったあんたを守る。それはあんたのためじゃない」

 俺はきっと、戦争が終わると共に死ぬと思う。こんなにも、多くの人に助けられ、多くの人を殺した俺は、死んだ方がいい。


××××××


 目の前の城は、ロテリアのものとは違って、綺麗だった。

「わ、私はどうすればいいんですか」

 彼は近くのベンチに座ると、私にも座るように促した。こんなところで計画を話すのもどうかとは思うけど。

 戦争中で、軍はぴりぴりしていて、負けかけているのに、この帝都は楽しげな雰囲気に包まれていた。

「君は僕についてくれば大丈夫です」

 彼は笑って、それから作戦の話をした。話を聞く限り、到底無理な話だったが、この国が内部から崩壊しているというのなら可能性はある。

 私は、本当にこれでいいのだろうか。

 彼はフードの中からちらちら見える赤髪を隠しながら立ち上がる。

 私の仕事は、この城での異変に気づいた人達を足止めすること。

 彼は言った。これで戦争は終わる。これ以上は死なないと。

 ただ最後の戦いが始まった後の混乱に乗じるため、多少は犠牲が強いられるらしい。

 私たちは合図があるまで、この辺りで待機らしい。城が近いだけあって、人が多い。

 声が、聞こえる。たくさんの、声。

 私が殺した、たくさんの声。

 恐怖は風化して、今は罪悪感と焦燥感が私を包んでいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ