11.ロテリアの兵器
割と大きな荷物だった。何かの機会の部品。馬車を使ってそれを指定された場所に運ぶと、そこには工場とかいう所だった。
「何でしょうね、これ」
「……兵器、だね。多分」
「え?」
火薬の匂いも微かにする。
それくらいしか分からないけれど、爆発する何かがあるということだ。
メリアちゃんは、辺りを見回して責任者を引っ張ってきた。
「確かにこれでいいですか」
「ええ、大丈夫です」
「これはなんですか」
何、口出してんのこの子は。
首を突っ込んでいい話ではない。なんせロテリアの武器で、あくまで俺らはシャルル国内にあるギルドの者だ。
「あぁ、これですか? 飛行機です」
「ヒコ、ウキ?」
彼も彼でなんで答える。
メリアちゃんは他にもいろいろ聞いてる。周りの視線が妙に痛い。
「メリアちゃん」
「はい?」
「すみません。仕事、頑張ってください」
そう言って彼女の手を掴むと工場を出てすぐ、木陰に隠れる。戸惑った様子のメリアちゃんも、一応察して黙っている。
奴らはすぐに工場から出てきた。
「さっきの二人組は?」
「まだ近くにいるだろ」
場所を知られたらまずいという事だ。つまり、戦争に関係あること。
そんでもっていろいろ聞くから。
俺らが隠れていると気付かずに通り過ぎてから、傍らのメリアちゃんを片腕で引き寄せる。
「な……」
「静かにして。俺が魔術で足止めするから、その間に車、確保して」
「クルマ」
「あれだよ。鍵もあの人からいただいてね」
「分かりました。任せて」
乗っているのは女性だ。メリアちゃんなら片目だけでもその辺の奴らよりは強いはずだ。
彼女はじっと車を見つめて、道のりを計算している。
「無理そうだったら、呼んで」
「そっちもね」
俺も、か。本当にかっこいい奴。
メリアちゃんはそっと車に近づいて行く。メモ帳を取り出すと、数枚破った。全てに魔方陣が書いてある。
力を込めろ、全力の一歩手前で放て。
紙は燃え、奴らに炎の球を浴びせる。ゼシカほどの威力はないけれど、俺だってそこそこ魔力はある。
「な、何処だ!?」
彼らの動揺が届く。
エルフの力を見せつけてやれ。いつでも敵になると、そんな力があると。
「汝舞い」
奴らは油の染み付いた服を纏っている。だったら選ぶは一つ。
「あそこだ!」
「撃て!」
炎だ。
「我が魂を前に灰と帰すだろう」
生まれた炎は、目の前の木と弾丸を巻き込んで、男たちに襲いかかった。
魔力が引き出される。搾り取られる感覚。無理やり魔術との接続を切ると、電気が身体を駆け抜ける。
気持ち悪い。
「アレクセイ様!」
「今行くよ!」
言いながら残りのメモで水をお見舞いする。火花が必要な武器ならこれで使えないはずだ。
メリアちゃんは車の運転席でたくさんのボタンに困惑していた。
「んー? これが?」
「そっち座って」
よく覚えていないけれど、確か足元の板を踏むと、
「むぎゃっ!」
下がった。あと、女らしからぬ変な悲鳴。
「むぎゃって、何?」
「う、うるさいっ」
違う、これじゃない。もう一つを踏むと止まった。ブレーキのようだ。
「確か、これを上げて……?」
ガチャガチャと弄っていると、伸びていた男共が起き上がってくる。
メリアちゃんが矢を放っているが、なかなか当たらない上に残りが少ない。
「! メリアちゃん、掴まって!」
勢い良く前進。なんとなく真っ直ぐを保ちつつ進む。取り敢えず離れたところに馬を一頭置いてきた。そこまで走ればなんとかなる。
風が目に当たる。砂埃が舞って、視界は最悪。ガタガタ音を鳴らして機械は不安を煽るような煙を後ろから吐いている。
車はこれだけだったのか、誰も追いかけてこない。
「なんとか、なった」
「あ、前から人来てますよ」
「え」
馬に乗った男がこっちを見ていた。なんとか避ける。
「本当に器用ですねぇ」
「何を呑気に言ってんのさ」
「ロテリアの道具も使っちゃうなんて」
「ギルドで前に話を聞いただけ。それより」
慣れて来たみたいで、真っ直ぐ進めるようになった。メリアちゃんは落ち着きなく後ろを見たり前を見たり、俺の手元をのぞきこんだり。
「危ないから落ち着いて」
もう、鏡の向こうに工場も人も見えない。
一応は逃げ切れたかもしれない。
××××××
慌しいことになってる。
僕は馬から降りると、近くの作業員に声をかけた。
「放っておいていいよ」
「は……? えっと、あなたは?」
「ロイゼン・ウィンドミル。ルドニーク・オーティアの使いみたいな感じ」
あ、顔が青くなった。
「こ、これは申し訳」
「いいから。それよりサクサク組み立てちゃって。そろそろ畳み掛けるよ」
「え、ですが、まだ」
そう、まだ準備は整っていない。
彼らは僕の言葉を聞いて忙しなく動き始めた。単純な奴らだ。あらかた手を抜いていたのだろう。
「いい駒が手に入ったんだよ」
「兵器ですか?」
「いや、英雄」
彼は不思議そうに首を傾げていた。
僕は頭に乗っていた綿花を下ろすと、身体に手紙を縛り付ける。
「ほら、行っておいで。危なかったら逃げるんだよ」
ここからなら近いはず。むしろ追い抜いているかもしれない。
「うん。じゃあ僕も手伝おうか?」
「いいいえ! どうぞ寛いでいてください!」
「どこで」
「………………」
オイルの匂い。弾丸の、火薬の匂い。
体に悪そうな匂いだ。
××××××
羊が来た。
いや、羊ではない気もする。なんか、丸い。それが持ってきた何かをアリスティは受け取って、難しい顔で読んでいる。
「ゼシカ、状況が変わった」
「はい?」
「引き続きお願いします」
「え?」
アリスティは手紙を見たまま呟く。
「帝都まで、行きたい」
これは、連れていくべきではない気がする。つまるところ、作戦の変更、もしくは対象の変更、そのあたりだ。
「あのですね、俺はシャルルの兵士ですよ?」
「大丈夫、なんか分からないけど呼ばれた」
見せられた手紙には簡潔に、
『帝都へ行け。何もせず待機しろ』
とだけ、書かれていた。
「と、言うわけです」
「はあ、まあ暗殺なしなら良いですよ」
そういうフェイクの可能性もあるが、なんとなく、アリスティは隠さない気がする。
つまり現状、アリスティは何も知らないだろう。
それに、俺が目を離さなければ良い。女の子一人でできる事なんて、たかが知れている。
「じゃあ、急ぎますか」
「なんで?」
「普通、急ぎますよね。それに、この羊、帝都方面から来たし」
いやいや、急ぐなよ俺。だったらなおさら、ゆっくり行くべきだ。
手紙を燃やして、アリスティは羊を帰した。すると羊はロテリアの方へと向かっていった。
俺はどうするべきだ。
公私混同するな。
俺は、どうするべきだ。みんなを守るためには、ロテリアを潰すしか無い筈なのに。
頭が痛い。
しかも想いを告げた相手と二人旅とか、きつい。
「アリスティ、俺はあなたを見張るために一緒にいるんですからね。全面的に信じるのはやめてください」
「ゼシカも。まあ、君のことだから問題はないだろうけど、もしかしたら私だって嘘ついてるかもしれないよ」
「信じてません」
「私も、信じない」
嘘だ。大嘘だ。真っ赤な嘘だ。
でも、線引きするのは大切な行為だった。言葉にして、自分を縛る鎖にする。鎖だらけで身動きが出来なくなっても、切ってはいけない。もう切ることは、できない。
自分は信じない。
信じてはいけない。
そして、二人で帝都を目指した。




