断章.振り払えない
廊下を歩いていると、窓の外を眺める銀髪の男を見つける。黙っていれば絵になるのに、残念な奴だ。
「アレクセイ様」
呼び掛けると彼は静かに振り返った。いつもない、感傷的な雰囲気に息を呑む。
「メリアちゃん?」
小さな袋にいれたクッキーを差し出す。後で食べると言って、ソフィア様に貰ってきたものだ。
「俺に?」
「二人で食べれば良いと思いまして」
軽く目を見張った彼に、安心させるように笑みを浮かべる。最近気付いたが、アレクセイ様の表情は笑顔の時でも、いつもどこか不安げで寂しげなのだ。
だからだろうか。
リューリク様はまだ怖い。しかし、アレクセイ様は何故か怖いとは思わなくなっていた。
「……」
「どうしましたか? ソフィア様のクッキーだけど」
彼はクッキーの袋を受け取らずに、ただ見つめている。私は、彼の目を覗き込んでみた。どこか暗い色を秘めている。
「……もう、さ」
「ん?」
「俺に近付かないで」
「どうして?」
「……」
泣きそうな顔だ、と思った。
振り払えない、と思わせる顔だ。私に傷付きやすい印象を持たせた。
「どうかしたんですか?」
「……っ…」
引き寄せられたと思ったら、ぎゅっと抱き締められた。少し速い彼の心音が私の中に響く。
痣のある場所が痛い。
どうしてこうなるんだ。友達から、と言う言葉は、冗談なはずだ。何故なら彼は、アリスティ様が好きだから。
何故、仲良くもない、逆に気も合わないような私を抱き締めるのだろうか。
「ちょ、ちょっと……」
「少しだけ、このままで」
振り払えない、だなんて私もまだまだ甘い。
「女という女にこんな事してたら、アリスティ様には振り向いて貰えませんよ?」
「……だろうね」
薄ら寒い廊下で、彼の体は暖かい。
ずっと、アリスティ様ばかりが独りだと思っていた。だけどもしかしたら、リューリク様も、アレクセイ様も、ずっと独りだったのかもしれない。
孤独は辛い。
「あの」
「何?」
「気が向いたら、会話くらいいつでもします。なんならソフィア様のお菓子だって、持って行くし」
「……慰めてるつもり?」
アレクセイ様は私から離れると、私の目を見て噴き出しやがった。
「あのさぁ、せめて“手作りの”とか言えないわけ? 女子力低いな」
「じゃあ、もう良いっ、知らない」
全然元気ではないか。私の心配を返して欲しい。
ゼシカちゃんの部屋に戻ろうとした所、手首を摘まれた。
「何ですか」
「俺はクッキーより、話す時間の方が欲しいかな。母さんのクッキーは魅力的だけどさ」
「じゃあ、暇な時は相手してあげても良いですよ」
「全く、調子の良い奴」
振り払わない私はもう救えないな、なんて思う。




