4話 ~母親と言う暴力~
山の頂に立つ荘厳な城に、朝日が昇る。麓は深い樹海に沈み、その外周を巨大な城壁が取り囲んでいる。ここが、冷徹な投資家として隣国にまでその名を轟かせる、バンディック家の中枢だ。
その城内、一室の扉が勢いよく開いた。
「いつまで寝ているのよ、フリード! さっさと起きなさい!」
大股で部屋に踏み込んできたのは、金色の髪をなびかせた貴婦人、ロゼッタだ。彼女は芸術品のような深紅の絨毯を迷いなく踏みしめると、窓際のカーテンを一気に引き開けた。
「ぎゃぎゃぎゃ!?」
容赦のない日光が差し込んだ枕元から、奇怪な悲鳴が響く。その声の主は、あられもない姿で丸まった桃色のゴブリンだった。
「勘弁してよ母さん……。僕はもう、まともに朝起きられるような体質じゃないんだ。ゴブリンは夜行性なんだよ!」
「『母さん』ではなく『お母様』と言いなさい! 前世がどうたらという言い訳は私には通用しませんよ!」
「……勘弁してくださいよ、お母様」
「よろしい。だが勘弁はしません!」
ロゼッタは、フリードが頭から被っていた毛布を力任せに剥ぎ取った。
「ぎゃぎゃっ!?」
「そのゴブリンみたいな奇声を止めなさい!」
「僕だって言いたくないよ! でも、びっくりした時には自然に出ちゃうんだよ、構造上の問題で!」
「いいから起きる!」
「げぎゃっ!?」
尻をひっぱたかれた衝撃で、フリードはベッドから跳び上がった。
「痛った!……なんなんだよぉ、勘弁してよぉ……」
情けない顔でうずくまる息子に、母ロゼッタは極上の笑みを向けて言い放つ。
「今日は、貴方の婚約者と会う日でしょう?」
「あ……」
フリードの動きが止まる。その様子に、ロゼッタは腰を据えてまくし立てた。
「思い出しましたか? 寝ぼけている時間なんてありません。食事を済ませ、マナーの復習をして、お風呂に入り、着替える……やることは山ほどあるんですからね!」
「ちょっと待ってよ。だって、僕はゴブリンなんだよ……? 見ての通り」
「ゴブリンだからといって、婚約者との約束を破っていい理由にはなりません!」
「それは、そうだけど……」
「ほら! 分かったらちゃっちゃと動く!」
「でも、でも、でもでも……!」
「うるさい!」
ロゼッタはもう一度、息子の尻を勢いよくひっぱたいた。
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