2話 ~一発屋芸人なゴブリン~
姿見を前にして、フリードは己の変貌に絶望した。
「……なんだよ、これ……っ!」
鏡に映っているのは、凶悪極まる人相、不自然に巨大な耳、つり上がった目、そして隙間から覗く鋭い牙。何より耐えがたかったのは、それらすべてを包み込む毒々しいまでのピンク色の肌だった。
「どうして……どうして僕が、桃色のゴブリンになってるんだよーーーっ!?」
叫び、顔を歪めると、鏡の中の化け物も同じように醜く顔を歪めた。そのあまりに見るに堪えない光景から逃れるように、フリードは姿見に背を向けた。
「原因は不明です。しかし、命が失われなかっただけでも幸運だった……そう考えることもできますよ」
専従医師のエリトンが、優しく肩に手を置いて慰めてくれた。その温もりに、フリードの胸に小さな感動が宿る。
(ゴブリンになってしまった僕に、素手で触れてくれるなんて……)
だが、ふとした違和感に気づき、フリードの思考は止まった。見上げるエリトンの顔が、あまりにも遠いのだ。
「あの、エリトン。僕……縮んだ?」
「仰る通りです。これもまた理由は不明ですが………」
申し訳なさそうな顔をしているエリトンの腰の位置、その場所にフリードの頭はあった。元からエリトンの方が背は高かったが、それにしても身長差は大人と子供だった。
「ひどい、ひどすぎる……」
フリードはその場に膝をつき、大粒の涙をこぼした。かつての自分はどこへ行ったのか。混迷する頭で、彼は最も恐れていた疑問を口にする。
「家族は……父さんや母さんたちはどこだ?」
三か月も意識不明だったのだ。目覚めたと知れば、真っ先に駆けつけてくれるはずではないか。
(もしかして、見捨てられた……? 僕がゴブリンになったから、もう家族じゃないってことか……?)
不安に押しつぶされそうになりながらエリトンを見上げたが、彼は意味深な微笑を浮かべるだけで、何も答えない。それがかえってフリードの絶望を深めた。
「ご家族の方々なら、どうやら飽きてしまったようです」
冷や水を浴びせかけるような声が響いた。振り返ると、専属メイドのマリーゴールドが無表情で立っていた。
「飽きた……?」
「はい。フリード様は倒れられたその日から、徐々に今のお姿へと変化していきました。三週間前には完全にその姿になられ、それ以降は一切の変化がございませんでした」
「だからって、どうして……」
「ご家族の皆様にとっては、もうとっくに驚き終わっているのです」
「驚き終わっている!?」
人生で一度も聞いたことがない言葉に、フリードは耳を疑った。
「はい。ですから、フリード様がその姿であることは、我々を含め、この屋敷ではすでに『当たり前の光景』となってしまいました。初日などはこのお部屋で付きっきりで看病なさっていましたし、毎日のようにお見舞いに来ていましたが、その頻度は徐々に減っていきました」
「信じられない………」
「はっきり申し上げれば、皆様飽きられたのだと思います」
「飽きられただって!? 息子が桃色のゴブリンになったっていうのに!?」
「左様でございます」
マリーゴールドは淡々と、無慈悲な事実を突きつける。
「つまり……僕は一発屋芸人みたいなものってことか!?」
スギちゃん、ねずっち、ひょっこりはん………。様々な顔が頭の中に浮かび上がり消えていく。
「その言葉の定義は存じ上げませんが、恐らく、その通りかと」
マリーゴールドの容赦ない肯定に、フリードは底知れぬ絶望と、なぜか深い敗北感を感じ、再び床に伏して涙に暮れるしかなかった。
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