14話
「辛かったでしょう?」
玉座に座るエンヤが、包み込むような優しげな声で言った。
「……分かって、いただけますか?」
フリードはローブの袖で顔を覆ったまま、震える声で応じた。もちろん、これも「救いを求める弱者」を演じるための芝居だ。
「もちろんです。私の元には、医師からも見放された深い病に苦しむ人々が、救いを求めて毎日やってきます」
エンヤは深く頷き、慈愛に満ちた溜息をついた。
「この世の医学では解明できない苦しみがある。それは肉体の不調ではなく、魂の叫びなのです。フリード様、あなたが今そのお姿でいるのも、決して偶然ではありませんのよ」
「治してくれるんですよね? 金なら一億でも二億でも用意します。だから一刻も早く治してください。あなたが本物なら治せるはずだ!」
フリードは身を乗り出し、縋り付くような勢いで叫んだ。その声は焦燥に震え、金に糸目をつけない「甘やかされた富豪の息子」そのものだった。
「落ち着いて、まずは私の話を聞いてください」
エンヤが静かに宥めるが、フリードの激情は止まらない。
「落ち着けるわけがないじゃないですか! 僕がこんな姿になってどれだけ苦しんでいるか、恥ずかしい思いをしているか。屋敷の誰もが僕を見るたびに、陰でクスクス笑っているのは分かっているんです。部屋の鏡はすべて片付けました。それでも、窓に映るんですよ、この醜い姿が……! 目に入るんですよ、この醜い体が!」
それは、演技を超えたフリードの「魂の叫び」だった。
(こいつらがインチキであることは分かっている。それでも……それでももし、本当に元の姿に戻れるかもしれない。そんなこと、あるわけないと分かっていても、心のどこかで期待してしまうんだ……!)
声を張り上げつつも泣きだしそうなフリードの様子を、ベールの奥のエンヤは「獲物がかかった」と確信したような、冷酷な充足感を湛えた目で見つめていた。
「治すことはできます。しかし、それは一朝一夕にできるようなことではありません。人間の怨念というのは、それほど容易いものではないのです」
「怨念……?」
フリードは震える声で聞き返した。エンヤは芝居がかった仕草で空を仰ぎ、悲しげに首を振る。
「ああ……見えるわ。あなたの魂の周りに、ドロドロとした黒い澱がまとわりついている。それはあなた一人のものではありません。バンディック家が代々積み上げてきた『強欲という名の業』……。多くの者から富を奪ってきた家系のツケが、今、あなたという器に『醜い姿』となって溢れ出したのよ」
「どうして僕なんだ! 僕が何をしたっていうんだ! 業なんて、罪を犯した奴が背負うべきじゃないか! そんな理屈はどうでもいいから、僕を治せ! 今すぐ治せ!」
必死に食らいつくフリードの叫びを、エンヤは重苦しい沈黙をもって受け止めた。そして、冷徹な響きを孕んだ声で命じる。
「まずはそのフードを下ろして、顔を見せてください。話はそれからです」
「……っ、なんでそんなことをしなくちゃいけないんだ!」
「医師に対して傷口を見せない患者がいますか? あなたに降りかかった業がどれほど強いのか、この目で確認しなければなりません」
醜い姿を晒すことへの恐怖と、救いへの渇望。フリードは葛藤に身を震わせながら、鋭い視線でエンヤを射抜いた。
「本当に、治せるんだろうな……? もし冷やかしのつもりなら、タダじゃ済まないぞ」
「私の力は本物です。疑念という毒を捨て、私にすべてを委ねなさい」
エンヤの言葉に、室内にいた職員たちが一斉に低い祈りの声を唱え始める。その不気味な合唱に急かされるように、フリードは震える手でフードの縁を掴んだ。
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