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13話

 


 花の装飾が施された重厚な両開きの白い扉が左右に開くと、それと同時に弦楽器が奏でる優雅な音が漏れ出してきた。


 ここまで一行を案内してきた無愛想な男は、無言のまま手の合図で中に入るよう指示した。


 一歩足を踏み出すと、まず感じたのは、むせ返るほどに強く、甘ったるいお香の臭いだった。


 そこは、薄暗く広大な空間だった。


 天井を支えるいくつもの円柱が、ゆらゆらと揺れる燭台の火に照らされて不気味な影を落としている。壁一面には、この教団特有の教義だろうか、びっしりと文字が書き込まれた紙が呪いのように貼り巡らされていた。


 部屋の隅では、黒いドレスに身を包んだ美しい女たちが、感情の読み取れない無機質な表情で楽器を操っている。


 ハープと弦楽器が奏でる緩やかで重厚な旋律は、柔らかな重圧を伴っていた。


 部屋の両脇には、体格のいい十数人の男たちが、壁に背を預けて微動だにせず立っている。その腰に提げられた武器と、こちらを値踏みするような鋭い視線が、癒しというよりはむしろ、威圧感を与えていた。


 視線を奥に向ければ、そこには一段高い場所——上座に、金装飾が施された玉座のような椅子が鎮座している。対して、こちら側の「下座」に用意されているのは、黒い三つの素っ気ない椅子。


 無言を強いる重い空間でしばらく待っていると、鈴の音が聞こえ、隅に控えている男の誰かが声を張り上げた。


「ファルセット・エンヤ代表、ご入室です」


 音楽隊の奏でる音は皮膚を震わせるほどに力強さを増していく。


 そして現れたのは、ゆったりとした黒のローブに身を包み、ベールの付いた帽子で顔を隠した人物だった。


(思っていたよりも大柄だな……)


「老婆」という事前のイメージとは異なり、その人物は背筋が真っ直ぐに伸び、しっかりとした足取りでこちらへ近づいてくる。


 一瞬だけ眩暈がした。


(……このお香にも何かが仕込まれているらしいな)


 フリードが両隣に目を向けると、マリーゴールドとエリトンは既に抜かりなくハンカチで鼻と口を覆っていた。


「しまった……」


 フリードは、自分の手元にハンカチがないことに気づき、心中で毒づいた。


 普段の服ならマリーゴールドが用意してくれているのだが、今着ている「ゴブリンの体格を隠すためのローブ」には、ポケットの一つも付いていなかったのだ。


 どうやら、この毒々しいお香をまともに吸い込んでいるのは自分だけのようだった。ふと見ると、エリトンの目元が愉快そうに細まっている。


(「日頃から毒物を積極的に摂取している」なんて言っていたあいつが吸わないようにしているってことは、このお香、相当ヤバい代物なんじゃないか……?)


 フリードは慌ててローブの袖を口元に押し当てたが、薄手の生地では心もとない。


(くそ、もうちょっと厚手のローブにしておけば良かった……!)


 老婆が玉座の前でが立ち止まると、呼応するように音楽が止まった。


「初めまして。『幸福に咲く天界の華』の代表、ファルセット・エンヤです」


 ベールの向こうから響いたのは、意外なほどに穏やかな声だった。






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