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12話 ~急落のスクワット~

 



「何事だ?」


 フリードが反射的に立ち上がり、出口のドアへ手をかける。しかし、ノブはびくともしなかった。


「……鍵がかかっている。閉じ込められたな」


 フリードの眉間に深い皺が寄る。その間にも、外の騒ぎは大きくなっていく。マリーゴールドが音もなくフリードの前に進み出た。


「ご主人様、お下がりください。……失礼します」


 彼女が細い足を一閃させると、重厚な木製のドアは蝶番ちょうつがいごと吹き飛び、凄まじい音を立てて廊下へ転がった。一行が外へ飛び出すと、そこには異様な光景が広がっていた。


 廊下の先、さっきまで元気にスクワットをして「奇跡の回復」を誇示していたはずの老人が、床に倒れて激しく痙攣していた。


「あ、あ……あはは……!」


 老人は顔に不気味なほどの笑顔を張り付かせたまま、白目を剥いて手足をガクガクと震わせている。


「どけ! 道をあけろ!」


 奥から白装束に身を包んだ大勢の職員たちが駆け寄ってきた。彼らはいまだ痙攣を続けている老人を担ぎ上げようとしたが、手間取っていた。


「きぇーーーー!!」


 雄叫びと共に老人は痙攣を止め、ぐったりと横たわった。職員たちは一言も言葉を発すること無く、担架に乗った老人を奥の暗い通路へと足早に消えていった。


 一行は再び蒸し暑い部屋へと戻り、改めて向き合った。


「……あの老人。死んだか、それに近い状態でしょう」


「……やはり、救いようのないインチキだな。病気を治すどころか、壊している」


 フリードの声は、怒りよりも冷めた軽蔑に満ちていた。


「あの老人たちの『元気』は、魂の浄化などではなく、単なる化学反応に過ぎません。……おそらく、心臓や神経に過剰な負荷をかける興奮剤か何かを投与し、一時的に『動ける状態』を作り出しているだけです。先ほど私が飲んだ水にも、その『下地』となる成分が含まれていました」


 エリトンがコップに残った水を指差す。


「病を治したように見せかけて、その実、患者の寿命を前借りして使い潰しているわけだ。あの老人の笑顔の痙攣……あれは薬物による神経系の崩壊、いわば過剰摂取オーバードーズの末路ですよ」


「正義の味方を気取るつもりは毛頭ないが………」


 フリードは、ゴブリンの小さな拳を固く握りしめた。


「こいつらには、きついお仕置きが必要なようだな」


「ご主人様の仰る通りです」


「ふふ、面白くなりそうですね」


 マリーゴールドは深く頷き、エリトンは微笑んだ。


 一行の決意が固まったその時、ドアをノックする音がして、聞いたことのない男の声がした。


「エンヤ代表の準備ができました」







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