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転生したら村人だったので、世界一の村を作ったら大都市になった  作者: レモンティー


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12/13

■第十二話 アルバ、領主よりカイルの自治を認められる

 アルバの入口に、一台の豪華な馬車が到着した。

「領主様が来た?」

 カイルは水路工事の現場で固まった。

「はい」

「グランディス伯爵?」

「そうです」

「なんで?」

 役人は困ったような顔をした。

「……アルバをご覧になりたいそうです」

「視察?」

「おそらく」

 カイルは周囲を見回した。

 工事現場。

 作業員。

 掘り返された道路。

 積み上げられた石。

「今じゃなくてもいいだろ……」

「領主様ですから」

「そうだよな」

 カイルは服についた土を払った。

 そして領主一行を迎えるため、市場へ向かった。

 そこにはすでに、豪華な馬車が止まっていた。

「グランディス伯爵、ご到着!」

 門番の声が響く。

 馬車から、一人の男が降りてきた。

 グランディス伯爵。

 この地域を治める領主である。

 カイルと伯爵が直接顔を合わせるのは、これが初めてだった。

 カイルは頭を下げた。

「お初にお目にかかります」

「お前がカイル・アーベルか」

「はい」

 伯爵はカイルをじっと見た。

 しばらく何も言わない。

 そして。

「……お前が?」

「はい」

「このアルバを作ったのが?」

「作ったというほどでは……」

 カイルは苦笑した。

「みんなで作ったんです」

 伯爵はカイルから視線を外し、アルバの街を見た。

 整備された道路。

 大きな市場。

 数多くの工房。

 倉庫。

 学校。

 診療所。

 そして、大勢の人々。

「これが……アルバか」

 伯爵の脳裏に、以前の報告書がよみがえる。

 三十七人。

 貧しい村。

 税収は少ない。

 特産品もない。

 道路も悪い。

 商業もない。

 伯爵にとって、特に重要な村ではなかった。

 だが。

「……話が違うな」

 目の前にあるのは、かつての報告書に書かれていた村とはまるで違う場所だった。

 水路。

 排水設備。

 公共浴場。

 消防施設。

 大きな倉庫。

 そして、港へ続く道路。

 何より、人が多い。

「人口は本当に二千人なのか?」

「アルバだけで二千人を超えています」

「……」

 伯爵は言葉を失った。


「こちらが市場です」

 カイルが案内する。

 市場には、様々な商品が並んでいた。

 布。

 皮革。

 鉄製品。

 陶器。

 紙。

 蜂蜜。

 燻製肉。

 干し魚。

 干し果物。

 チーズ。

 乾燥豆。

 油。

「これらは、すべてアルバで作っているのか?」

「一部は輸入品です。アルバで作れるものは、できるだけ作っています」

「なるほど」

 伯爵は商品を一つ一つ眺めていく。

 そのとき。

 ふわりと香ばしい匂いが漂ってきた。

「……なんだ、この匂いは?」

「燻製肉です」

「燻製肉?」

「はい」

 カイルは食品加工所へ案内した。

 そこには大量の肉が並んでいた。

 燻製肉。

 塩漬け肉。

 干し肉。

 保存用のソーセージ。

 魚の燻製。

 干し魚。

 伯爵の目が輝いた。

「味見はできるか?」

「もちろんです」

 一切れの燻製肉を渡す。

 伯爵は口に入れた。

「……」

 しばらく噛む。

「……うまい」

 思わず言葉が漏れた。

「保存食というから、もっと固くて塩辛いものかと思った」

「塩の量を調整しています。燻煙時間も一定にしています」

「なるほど……」

 伯爵は、もう一切れ取った。

「これは酒にも合いそうだな」

「たぶん合います」

「たぶん?」

「酒はあまり作っていないので」

「そうか」

 伯爵は少し残念そうな顔をした。

 次に目に入ったのは、蜂蜜だった。

「これは?」

「蜂蜜です」

「養蜂か」

「はい」

 木匙に少量の蜂蜜を取る。

 伯爵は口に入れた。

「……甘い」

「蜂蜜ですから」

「いや、そういう意味ではない」

 伯爵は蜂蜜の香りを確かめる。

「花の香りがする」

「周辺の花畑や果樹園の近くで養蜂しています」

「蜂蜜を取るだけではないのだな」

「蜂が作物の受粉を助けてくれます」

「なるほど」

 伯爵は感心した。

 続いて、干し果物。

 チーズ。

 干し魚。

 乾燥豆。

 焼きたてのパン。

 どれも少しずつ味わっていく。

「……これもいい」

「ありがとうございます」

「この干し魚もいいな」

「塩分を調整して、しっかり乾燥させています」

「このチーズは?」

「牛と羊の乳から作っています」

「……」

 伯爵は市場を見回した。

「食べ物まで豊富なのか」

「食料がなければ、人は増えませんから」

「それはそうだが……」

 伯爵は再び燻製肉に手を伸ばした。

「これは持って帰ってもいいか?」

「もちろんです」

「蜂蜜も」

「はい」

「干し魚も」

「はい」

「干し果物も」

「はい」

「チーズも」

「……全部ですか?」

「全部だ」

 即答だった。

 カイルは思わず笑った。

「伯爵様、視察ですよね?」

「視察だ」

「食事会では?」

「視察だ」

 伯爵は真顔だった。

 カイルはさらに笑った。

 だが、伯爵はふと表情を引き締めた。

「……ただ、私はこの村を少し誤解していたようだ」

「?」

「三十七人の貧しい村だと思っていた」

 伯爵は市場を見た。

 工房を見る。

 倉庫を見る。

 道路を見る。

 そして、手に持った燻製肉を見る。

「だが、これは違う」

「……」

「ここには、生産する仕組みがある」


 その後、伯爵は工房を回った。

 鍛冶工房。

 織物工房。

 製紙工房。

 陶器工房。

 ガラス工房。

 革加工所。

 どこへ行っても、人が働いている。

「すべて住民なのか?」

「そうです」

「誰が指示を出している?」

「基本的には、それぞれの責任者が判断しています」

「カイル、お前が全部決めているのではないのか?」

「俺が全部決めていたら、俺が倒れますよ」

「それもそうか」

 そのとき。

 一人の農民がカイルへ近づいてきた。

「カイルさん」

「どうした?」

「今年の豆なんですが、去年の品種より、こちらの方が収穫量が多いようです」

「本当か?」

「記録も持ってきました」

「じゃあ農業担当にも見せよう。来年の種に回せるか確認してくれ」

「分かりました」

 農民が去っていく。

 今度は商人がやってきた。

「カイルさん、南方から新しい農具が入ってきました」

「見せてくれ」

「これです」

「これは便利そうだな。農業担当と鍛冶職人にも見せてくれ」

「はい」

 さらに作業員が来た。

「水路の工事ですが、予定より三日早く終わりそうです」

「なら、次の区画に人を回そう」

「了解しました」

 伯爵は黙って、その様子を見ていた。

 誰もカイルを恐れていない。

 誰も命令を待っていない。

 問題があれば相談する。

 良い案があれば持ってくる。

 担当者同士で話し合う。

 カイルはそれを聞き、必要なところへつないでいく。

 伯爵は、ようやく理解した。

「……人口が増えた理由が分かった」

「え?」

「人が増えているのではない」

 伯爵はアルバの街を見渡した。

「人が増え続けられる仕組みができている」

「……」

 カイルは少し考えた。

「そこまで考えてなかったです」

「本当に?」

「最初は、普通に暮らせる村にしたかっただけなので」

 伯爵は笑った。

「それで二千人か」

「……結果的に」

              ◇

 伯爵はカイルに尋ねた。

「お前は、これから何をしたい?」

「何を?」

「人口を増やしたいのか?」

「結果として増えるなら、それはいいです」

「領土を広げたい?」

「必要なら」

「軍隊を持ちたい?」

「できれば必要ない方がいいです」

「金を儲けたい?」

「儲かるのはいいことですが、それが目的ではありません」

 伯爵は眉を上げた。

「では、何が目的だ?」

 カイルは少し考えた。

「安心して暮らせる場所を作りたいんです」

「安心?」

「食べ物がある」

「うん」

「仕事がある」

「うん」

「病気になったら治療できる」

「うん」

「子供が学校へ行ける」

「うん」

「雨が降っても、道が泥だらけにならない」

「……」

「火事が起きても、すぐ消せる」

「……」

「商人も安心して商売できる」

 カイルは市場を見る。

「それだけです」

 伯爵はしばらく黙っていた。

「それだけで二千人か」

「……そうなりました」

「面白い男だな」

「よく分からない評価ですね」

 伯爵は笑った。

「お前は、まだ自分を村長だと思っている」

「はい」

「だが、もう村長の仕事ではない」

 伯爵はアルバの街を指した。

「周辺には農村がある」

「はい」

「漁村がある」

「はい」

「鉱山がある」

「はい」

「森林地帯がある」

「はい」

「そして、その中心にアルバがある」

 カイルは地図を広げた。

 確かに、その通りだった。

 農村から食料が来る。

 鉱山から鉱石が来る。

 森林から木材が来る。

 漁村から魚が来る。

 それらがアルバに集まり、加工される。

 商品は市場へ集まり、さらに港から外へ出ていく。

 人も商品も金も、アルバを中心に流れている。

「……全部つながっているな」

「そうだ」

 伯爵は頷いた。

「ならば、さらに整備するべきだ。このアルバをカイル・アーベルの自治領として認める」

「ありがとうございます。」

「さらに発展させてくれ。」

 カイルは地図を見る。

「まず農業地域を広げます」

「うん」

「港も大きくします」

「うん」

「鉱山からアルバまでの道路を整備します」

「鉄道は?」

「まだ早いです。まずは荷馬車用の道路で十分です」

「なるほど」

「倉庫も増やします」

「うん」

「学校も増やす」

「うん」

「診療所も大きくする」

「うん」

「住宅地も新しく作る」

 カイルは地図へ線を引いた。

「そして、周辺の集落を行政的にもつなげる」

 伯爵は満足そうに頷いた。

「それが領主というものだ」

「俺は村長です」

「まだ言うか」

「最初は本当に村だったんです」

「今は自治領だ」

「名前だけです」

 伯爵はアルバの街を見る。

 市場。

 工房。

 港。

 鉱山。

 学校。

 診療所。

 住宅。

 道路。

 倉庫。

 そして、歩き回る三千人近い人々。

「名前だけではない」

「……」

「人口は三千人に届こうとしている」

 カイルは苦笑した。

「三千人か……」

「周辺を合わせれば五千人規模だ」

「そう考えると、確かに村と言うには大きいですね」

「ようやく認めたか」

「でも、村から始まったことは変わりません」

 伯爵は笑った。

「そこだけは譲らないのだな」

「はい」

              ◇

 その後 アルバでは、新しい行政庁舎の建設が始まった。

 住民代表による評議会も作られた。

 農業。

 水利。

 道路。

 衛生。

 教育。

 医療。

 商業。

 鉱業。

 港湾。

 消防。

 治安。

 それぞれの担当部署が整えられていく。

 周辺の農村、漁村、鉱山、森林地帯も、少しずつ行政的につながっていった。

 道路が伸びる。

 倉庫が増える。

 港が広がる。

 学校が増える。

 診療所が拡張される。

 新しい住宅地が作られる。

 そして、人がまた増えた。

 三千人。

 やがて五千人。

 さらに、その先へ。

 カイルが作ったのは、ただの村ではなかった。

 食料を生産する場所。

 物を作る場所。

 人が働く場所。

 学ぶ場所。

 治療を受ける場所。

 商売をする場所。

 そして、人が安心して暮らせる場所。

 そのすべてがつながった、一つの大きな地域だった。

 それでもカイル本人だけは。

「まあ、まだ村だろ」

 そう言っていた。

 しかし。

 遠く離れた地域では、すでに別の噂が広がり始めていた。

「アルバという場所を知っているか?」

「ああ。南方の大国とも交易しているところだろ?」

「人口は?」

「三千人くらいらしい」

「……それ、本当に村なのか?」

 三十七人の小さな村から始まったアルバの物語は

 今、次の段階へ進もうとしていた。

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