第35話「チーズの匂いにつられて、腹ペコの『白狐の獣人(幼女)』が迷い込んできた。〜あったかいミルクを飲ませたら、妹として懐かれた件〜」
天空の牧場が完成し、チーズやバターといった乳製品がメニューに加わった翌日の夜。
俺がリビングでくつろいでいると、防犯システムではなく、俺自身が要塞全体に張り巡らせている『土の魔力感知』に微かな反応があった。
「ん……? 食料庫のあたりに、何か小さなものがいるな」
「えっ? もしかして、ネズミさんでしょうか……?」
クレアが少し怯えたように身を寄せてくる。
「いや、この魔力は……とりあえず捕まえてみるか」
俺は指先を動かし、食料庫の床(石板)を遠隔操作した。
【土魔法・落とし穴】。
初期の頃によく使っていた、対象を傷つけずに捕獲するための簡単なすり鉢状の穴だ。
『ひゃうっ!?』
食料庫から、可愛らしい悲鳴が聞こえた。
俺とクレアがランプを持って食料庫に向かうと、落とし穴の底で「それ」がブルブルと震えながら丸まっていた。
「……狐、か?」
真っ白でモフモフの毛並み。しかし、体は人間の子供(7〜8歳くらいの少女)の姿をしている。頭には大きな狐の耳、お尻には立派なシッポが生えた『獣人』の女の子だった。
彼女の両手には、昨日俺が作ったばかりの「神牛のチーズ」がしっかりと握りしめられている。
「ご、ごめんなさい……っ! 叩かないで……皮を剥がないで……っ!」
狐の少女は、俺たちの姿を見るなり耳をペタンと伏せ、大粒の涙を浮かべて土下座した。
どうやら、迷宮都市の裏路地かどこかで、迫害されながら過酷な生活を送ってきたらしい。ガリガリに痩せ細り、服もボロボロだ。
俺は落とし穴を解除して床を平らに戻すと、彼女の前にしゃがみ込んだ。
「叩かないし、皮も剥がないよ。お前、どこから来たんだ?」
「そ、空を飛ぶ銀色の箱の、屋根にしがみついて……。どうしても、すっごく美味しい匂いが我慢できなくて……っ」
なるほど。港町から帰還する時に、密航していたというわけか。
「レン様。この子、すごくお腹を空かせているみたいです。震えてますし……」
クレアが心配そうに少女を見る。
俺は狐の少女の頭をポンと撫でた。
「チーズは消化に時間がかかるから、最初はもっとお腹に優しいものにしよう。リビングにおいで」
◆ ◆ ◆
数分後。
温かいリビングのソファに、狐の少女を座らせた。
「ほら、まずはこれを飲んで胃を温めな」
「あ、あったかい……」
俺が差し出したのは、マグカップに注いだ『神牛のホットミルク』だ。少しだけハチミツを混ぜて、甘くしてある。
少女は恐る恐るマグカップに口をつけ、コクンと一口飲んだ。
「――っ!?」
その瞬間、少女の耳とシッポが「ポンッ!」と勢いよく跳ね上がった。
「あ、あまい! あったかい! なにこれ、すっごく美味しい……っ!」
少女は涙目になりながら、両手でマグカップを抱え込んでゴクゴクと飲み干した。Aランク魔獣のミルクの栄養が、彼女の冷え切った体を芯から温めていく。
「おかわりはあるぞ。あとは、この柔らかい白パンと、温かい野菜スープだ」
「ふぇぇ……っ、こんな美味しいご飯、生まれて初めて食べましたぁ……っ」
俺とクレアが優しく見守る中、少女は夢中になってご飯を平らげた。
初期の頃、追放されて硬いパンしか知らなかったクレアに、初めて俺の手料理を食べさせた時のことを思い出す。やっぱり、美味いものを食べて喜ぶ顔を見るのはスローライフの醍醐味だ。
「ふぅ……お腹いっぱいです……。あの、私、どうなるんでしょうか……?」
食事が終わり、落ち着きを取り戻した少女が、不安そうに俺を見上げた。
「帰る場所はあるのか?」
少女は悲しそうに首を横に振る。
「じゃあ、今日からここがお前の家だ。美味しいご飯も、ふかふかのベッドもあるぞ」
「えっ……? わ、私みたいな獣人が、こんないい匂いのする、綺麗なお家に住んでもいいの……?」
「もちろんですよ! 私にも、可愛い妹ができたみたいでとっても嬉しいです!」
クレアが満面の笑みで少女を抱きしめる。
狐の少女は信じられないというように目を瞬かせた後、ワッと声を上げて泣き出し、俺の腰にギュッと抱きついてきた。
「うわぁぁぁんっ……! ありがとう、ありがとう……! お兄ちゃん、お姉ちゃん……っ!」
よしよし、と背中を撫でてやる。
こうして、俺たちの要塞に『モフモフで可愛い妹』という新しい家族が加わった。
明日はさっそく、彼女の体に合わせて「専用のふかふかベッド」と「可愛い服」を作ってやるとしよう。
俺たちのスローライフは、また一つ賑やかで温かいものになったのだ。
お読みいただきありがとうございます!
「つまみ食い犯の正体は、腹ペコでモフモフな白狐の女の子でした」
王国とのゴタゴタも終わり、初期の頃のような「美味しいご飯で餌付け(?)する」というアットホームな展開に戻ってきました。
レンに新しい家族(妹)が増え、要塞はさらに賑やかになりそうです!
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引き続き、よろしくお願いいたします!
▼次回予告
新しい家族(妹)ができたレン。
服もボロボロなので、土魔法の繊維錬成で「可愛いお洋服」を作り、
さらに彼女専用の「ふかふかベッドルーム」を要塞の中にDIYします!
妹の愛らしさに、レンもクレアもガンダルもメロメロに!?




