後払いより先払い⑦
「ようこそ皇国へ、『ロトル』」
タクシー業界では屈指の安全性を誇るという者の背から、厚い白布を開けて出て来たのは、杖だった。
そして、足、身体。白い髭。禿げた、頭。老いた古人だ。
「歓迎は不要だと言った筈だ。それでこの頭数か、よほどの暇なようだな」
登場早々に歓迎を受けぬ口振りの老古人は杖の先で地面を突きながら、糸目の横で同乗者の準備を待った。
「・・失礼ですが、何故エアタクシーをご利用なさらなかったのですか?
あちらの方が安全でしたでしょうに」
騎馬役を目の前にしてあからさまな一言に、老古人は舌打ちをした。
「痴れ者が」
流石に迎えの者たちが老古人の言いように痺れを切らし、誰もが息を呑む一触即発な雰囲気が漂った。
「すみません・・・準備が出来ました」
しかし、同乗者の若い古人の言葉で僅かに場の空気が解れ、老古人は本題を切り出した。
「皇候補に会わせろ。話はそれからだ」
「・・・こちらです」
警備の者たちが顔をしかめて毒舌な老古人を見送る中
「すみません、ここまでありがとうございました。」
若い古人は丁寧にタクシーを勤め上げた者へ礼を告げた。
「仕事ですから。」
「途中、物騒な事があったようですが・・・出ていかなくて、大丈夫でしたか?」
「ええ。大丈夫でしたよ。
頼もしい護衛がいましたからね。」
そう言うと「なら、良かったです」若い古人は強張っていたのだろう顔を少しだけ和らげた。
「ああ、報酬については・・・説明があったよう、後日皇国タクシー本部に送らせていた―――」
「何をチンタラしている!早く来い!!!」
「はいはい行きますはいはいはい」
杖を突くくせに足の速い老古人がかなり遠くの方からそう声を荒げた。若い古人は慌てた様子で荷物を担ぎ上げ、ペコペコと周りに頭を下げながら老古人を追っていった。
「また前科がつくとは」
イヴァルノンはそう呟きながら財布に丸め入れたお札を数えた。
「今回ばっかりは、金と引き換えにお前が引き受けた前科だぜ。指名手配されないだけマシだと思っとけよ」
ドンドはイヴァルノンの提案を聞き入れた。
いや、精確には自治警が描いていたシナリオの一つに協力した、というべきだろう。
昔から戦争による復讐を瀬戸際で止める為に存在していた赤砂魔人、その濡れ衣をイヴァルノンが被るシナリオだ。
赤砂魔人の一件は大きく紙面で取り上げられ、一般には――――流れ者が金銭目的で警備の薄い北の街道を通る隊商を襲撃していたが、今回自治警がその犯人を追い詰めた。ただ、隙を突いて流れ者は逃亡。
これを受けて自治警は犯人を取り逃がした件と犠牲になった隊商たちに対して謝罪し、今後危険な流れ者が入り込まないよう、関所等の警備や審査基準を強化することになった―――という流れになっている。
今まで素通りだった流れ者や不法入国者の多くを関所で抑えられるため、商館も容易く反皇国派を運び込むことが難しくなる。
だが、この段階で防ぐことが出来れば、赤砂魔人が血を浴びる必要もなくなる為、これ以上商館側に被害が出る事もきっとないだろう。
自治警は犯人をすぐさま『指名手配』した。しかし、その人相は全く関係のない架空の、赤色の魔人として描かれていた。
「書面に俺らの名前を書き残されちまったから、前科的な扱いには違いねぇけど」
結局、赤砂魔人討伐の達成報酬は貰えた。また、ドンドの便宜で峡国から出る通行証も貰った。
「上手くいった方じゃねぇか」
オセットは上から目線に笑みを浮かべ、小さく短い手でイヴァルノンの頭をポンポンと撫でた。
イヴァルノンは財布をしまい、杖を肩に掛けた。
そして。
ぐー。
「ねぇ、オセット。
カーティットが教えてくれた店、もう一回行ってみない?」
「そりゃいいな!イノンよ!
祝杯と行こうじゃねぇか!」




