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bdqp  作者: 山本さん
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後払いより先払い⑤


 三人は一度町に戻った。

「北の街道方面にあまり美味い飲食店はないんだ。

 焦げ臭い熱気がどうしても流れ込んできて、新鮮さが大事な食材をダメにしてしまうらしい。」

 カーティットは職業柄に定住はしていないのだと言った。

 各地を巡っているためか、各国の美味しいものや土産屋の話についてはとりわけ詳しかった。

「峡国の名物は乾物さ。この国は干物や乾物が非常に美味い。

 特に、此処から南にある海に面した木南国の海産物、そう、特に貝類の干物!これがたまらない!

 噛み締める度に口の中で涌き出る旨味!濃厚な海の香りが乾燥しても強く残っている!あれはヤバい!濾過酒と合わせたら饒舌も黙る絶品だ!

 この国に来たんだったら必ず食べるべきだな。日持ちもするし、旅をするならピッタリさ。」

 尽きる事のない美味い話に飽きる事なく耳を傾けていると

「此処だ。」

 大きな街道から二本ほど離れた小道にひっそり、『はしら』と書かれた看板の前でカーティットは立ち止まった。

「舌鼓を打つ、保障しよう。」

 ふふん、と鼻を鳴らした彼は古めかしい木ドアを開けた。

 いらっしゃい、と野太い声で歓迎されて中に入ると、食事盛りジャストの時間を過ぎているのにほとんどの席が埋まっていた。すぐ後続に現れた獣人たちは席が空いていなかった為に外で待ちぼうけ。路地にある割には大繁盛だ。

 席に座って食事を頼んだ後も、興味津々で店の様子を伺うイヴァルノンにカーティットは尋ねた。

「あんたたちも、各地を旅して回っているんだろう?」

「そうだけど」

「なあ、聞いた事ないか?

神出鬼没な黒い古人の店のこと」

「黒い古人?」

「皇国周辺では昔から噂になっててな。黒い肌で、白い短髪の、ちょっと人相が悪そうな古人がやっている飲食店があるんだ。」

「さあ・・・皇国辺りは初めてで。聞いた事ないや」

「そうか・・・残念だな。」

「美味しいの?」

「一度食べた奴が捜索隊を雇って一年間も探し回ったぐらいだ。

 しかも、噂では金払いじゃあないらしい。」

「え、そうなの?」

「あんたでもきっと、チャンスがある話だろうぜ」

 そりゃあ一度拝みたいねぇ、とイヴァルノンは御冷を飲み干した。

 カーティットの美味い話も程々に聞き飽きた頃合い、湯気を立てた食事が運ばれて来た。

「貝『柱』の煮付け

 蛸『柱』焼き

『脊椎』煮だしの鬼肩肉

 蟹『柱』湯

 負け犬の樹『柱』スモークです」

 イカしたネーミングセンスの、様々な『はしら』料理。目の前の料理にがっつきたい、と涎を呑み込むイヴァルノンの視線に、カーティットは笑ってパンパンな財布を叩いた。

「安心しなって。全部奢ってやる。」

「太っ腹!!いただきます!」


 柱料理の溢れ出る旨味が、保存食塗れであったイヴァルノンの胃袋を多幸感で満たした。

 口の中の最後の味を胃の中に落とし込むよう、再度御冷を飲み干してから、イヴァルノンは言葉を発した。

「大きな財布が満タンになるぐらい、タクシー業界って儲かるの?」

「お客さん次第かな」

「ふーん・・・空飛ぶエアタクシーなら、ちらほら聞いたことあったけど」

 ライバル業界の話が出てもカーティットは気を悪くすることなく、先端の鋭いやすりの様なもので牙を研いだ。

「安全快適なエアタクシーは、値段も高いけどな」

 空を見上げればちょくちょく飛んでいる大型な竜族や機人たち。彼らの多くは国渡りをしたい者たちを乗せて稼ぐ者が多い。

 大地を進むよりも空が安全な一番の理由は、上に行けば行くほどに尋常では堪えられない強い圧と薄い空気に晒されるからだろう。

 エアタクシーは、その領域を飛ぶのだ。

「だが、地上を這う様に走る、俺たちだからこそ出せる利点だってある。そいつで戦って行けば、儲けだって出せるのさ。」

「あんちゃんは仕事の鬼ですな」

 にっ、と口角を上げたカーティットは御冷を飲み干した。そして、改まったように咳払いをした。

「単刀直入に言わせて貰う。

 自治警からの依頼を放棄して欲しい。」

 カーティットはそう告げ、その理由を続けた。

 イヴァルノンはその話を拒絶することなく聞き届けた後、笑みを浮かべた。

「ただし、その場には居合わせるよ。」

 その言葉に一度顔をしかめたようだったが、カーティットは頷いて会計表に代金よりも少し多めを挟んでから、席を立った。

「イヴァルノン、ここの驕りと釣銭は俺からあんたへの依頼金だ。

 頼むぜ。」

「分かった。ありがたく頂戴するわ。」



 

「なあイノン、お前はどうしたいんだ?」

 店を出て腹ごなしに辺りを散歩した後、イヴァルノンは公共施設のベンチを占領した。

「どうって?」

「お前の考えている事が、よく分からなくなる時があるんだよ。

 とんとん拍子で話を進めて頷きやがったけどよ、自治警の依頼を放っぽり出して本当にいいのか?大金が得られるチャンスだって言うのに。」

 仰向けで寝転がり、頭上の観賞植物の葉を眺めたまましばらく、彼女はオセットの問いに答えなかった。

 数分経った頃、おもむろに口を開いた。

「自治警は、卑怯だけどこの町を守ろうとする意志があってのことだと思うよ。

 商館は、被害者だけどやっていることは後に戦いを生む可能性がある。

 どちらが正しいとか、どちらを推すかなんて、流れ者の私が介入すべきことじゃないから。

 どうしたいか、と言われれば、どちらに加担する事もなく、報酬だけ貰いたいの。」

「なんて怠惰な欲望だ。」

「オセット。

 後払いっていうのはね、『結果を出さない』と金を出してくれないんだよ。」

 イヴァルノンはあくびをかまして、鎖骨の上に立つオセットに答えた。

「後払いより、先払いさ。」

 


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