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bdqp  作者: 山本さん
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飛んで火に入る虫の母⑮



 デカい風船のように膨らんだ裏還りの薄い皮が近くの木の枝に引き千切られると、黒いヘドロ状の中身が溢れ出した。

それらは日光に当たった瞬間に蒸気を発して消し炭になっていくが、僅かに陰に隠れられたそれらはすぐさま草木に侵食し、それらを化けの皮にして、ボコボコと内側から膨らんでいく。

 誰も止めなければ、あっという間に近隣の森は裏還りに呑み込まれてしまうし、夜にまでもつれ込めば、まず手が付けられない。


「裏返りを相手にするコツ?

 触れない

近付かない

近づけさせない

薄皮剥いで中身を天日に干す、だね。」


 イヴァルノンはそう言って地面に杖を突き刺す。すると、ぐにゃぐにゃと地面が歪み始め、彼女が立つ場所が盛り上がっていく。魔性の効果が及ばなかった小石がコロコロと鱗の様に剥がれて落ちていく。川が逆流して小さく氾濫し、木々が根元から引っ繰り返る。

「俺の魔性を俺より先に使うとは、失礼だぞ、無倣者」

 ビウゼンはそうぼやいた口の中から三又の鎗を取り出すと、彼女と同様に地面へ突き刺した。柔らかくなった地面を三又で巻き取る様に引っ張りあげ、草木を捩じ切り、裏還りを何もない地面の器の中に、日当たり良く閉じ込めていく。


「よしよし、それじゃ―――あ」


 ズガンッ!! 小さな衝撃波でイヴァルノンは少しよろめき、爆散して蒸気を発する裏還りに呆れた笑みを浮かべた。

 しっかりとした魔性を使える御守りの獣人二人が裏還りからバックアーを遠ざけており、当のバックアーは対人用ではない自動追尾や視界と照準を合わせる補助装置を搭載している銃火器装備を身に纏って、コポの背に乗りながら精確に裏還りを蜂の巣にしている。

「・・・あんな贅沢装備なんてどっから出したのよ、あいつ

 4次元バックパック持ってんの?」

「よそ見してんじゃないわよ」

 モヒートの羽音に痒そうに耳を掻く飛べないイヴァルノンを持ち上げて、足下を掠める裏還りから遠ざける。

「ちょうどいいや。そのまま上げといて。

 下準備するから」

 イヴァルノンは両手を合わせ、目を瞑った。じりじりと高濃度の魔力が両手に貯まり始めていく。

「・・・イノン。

左手と右目を改造した機人、あんたは知ってる?」

 今話しかける?とイヴァルノンはぼやいたが、モヒートの言葉に応えた。

「そんな特徴だけならごまんといるよ。

・・・そいつが君の羽根を奪った奴?」

「そう・・・そして、私の子も殺した。

 生理的に嫌いなんですって。

聞こえて来た理由はそれだけだったわ。」

 モヒートは比較的、淡々と、声を荒げることなく言った。

「奴らは当然、私たちを食べる訳でもない。飛び散った残骸に何言う事もなく帰って行くだけだった。私が魔協会員だって事さえもわざわざ確認もしなかった。金目当てでさえもなかったのね。

 ただ、奴が不快に感じたから・・・私たちは道端で襲われた。」

「・・・・・」

「ロトルを同じように殺してやったら、私の煮えくり返ったままの気が晴れるんじゃないかって思ってダゴの戯言に乗ったけど、アイツはロトルの候補たちを殺せって言って来た。

 最初はそれでもいい、って思っていたのに、相手がまだ善悪の区別も大して出来ちゃいない子供だって、この目で見た途端・・・躊躇い出した。

 意味も分からず泣けて来たの。煙が目に入ったみたいに、目も開けられなくて。

 恥ずかしくて、情けない話ね・・・。結局、誘い出したロトルも仕留め損なったし、そんな醜態を知人に晒すし・・・。」

 蜂の巣にされた裏還りはどぼどぼと黒いヘドロと蒸気を吐き出しながら、唸る様な声を漏らした。穴の開いた無数の目が煌々と照っている日を、蒸気のカーテン越しに見上げる。

 そして、その目の瞳孔が口の様に割れ、くちゃくちゃ、と音を立て始め「!?」自分に撃ち込まれた鉛弾を一塊にしてバックアーたちへ吐き飛ばした。

 それを彼らは容易に避けたが、イヴァルノンとビウゼンが作った地面の壁が壊れ、裏還りがそこから逃げ出そうと動き出した。


「おいイノン!寝てないで働け!」

「ひどいなぁ、ちゃんと働いてるよ。もうすぐなんだから粘ってよ」

 ビウゼンが急いで囲いを作ろうとするが、裏還りは盛り上がる地面を器用に避けながら近くの森へ逃げ込もうと濁流の様に流れ込んでいく。

「モヒート、私はね、ひどく無責任な人間だから、君たちが勝手に点けた火種に水を引っかけたら、後始末もせずに出ていくよ。」

「ああ、そう」

「溜息吐き付けられるぐらい無神経でもこうして生きていられるんだから、どこへでも好きに飛んでいっちまいなよ。

『名付きの悪』がウジ虫みたいに地面這ってちゃ格好悪いじゃん。」

「・・・・」


 イヴァルノンは貯め込んだ高濃度の魔力を球状に圧縮すると、それを魔力の矢尻として組み合わせた。

 杖を弓に変形させ、圧縮された魔力を括りつけた矢を番え、今にも森に流れ込もうとしている裏還りの濁流に向けて――――放った。


 ッン――――  。


 音を切り裂いてすっ飛んだ矢は濁流に突っ込み


 パッヂヂヂ―――――ィ!!!


 激しい閃光が裏還りを飲み込んで裏還りの皮を焼き尽し、中の黒いヘドロが瞬間的に分解された。

 十数メートルに及んで肥大化していた裏還りは視認できない塵となり、呆気ないぐらい風に消えて行った。


「相、変わらず・・さっぱり訳が分からん驚異的な威力だな・・・何の魔性だよ」

「とある木人の光を集める魔性。光合成用だった奴」

「お前の魔性の引き出しが多すぎて恐ろしいわ」

 イヴァルノンが放った攻撃で未だに空気がジリジリと震えている。

ビウゼンは大きな溜息を吐き、ぐちゃぐちゃにした地面を元通りの形に戻し始めた。その頃、相性が悪くてずっと分身だけ寄越していたモヒートが姿を現し、ビウゼンと同じ様に大きな溜息を吐いた。

「裏還りを雑魚の様に弾き飛ばしてくれてどうも、イノン。

 迷惑かけてごめんなさい、ビウゼン。あなたまで巻き込むつもりはなかったのに」

「露骨な温度差」

「まあ・・・なんだ、後始末が色々と、考えるだけで悲鳴が上がるが、一先ずはお互いに無事で良かった。」

 

 

 

    パンッ。




 破裂音がした方に、イヴァルノンは顔を向けた。


「僕は優先順位を弁えている。そう言った筈だ」


 照準補正を自動小銃から拳銃に付け替えられていて、銃口から白煙が上がっている。

「次はお前らだ」


 蹲る様にモヒートが倒れて、彼女の血が広がるのを見て

 イヴァルノンは怒気の籠った溜息を吐いた。


「どういう了見で引き金を引いたんだ、お前」

「僕はそいつに一度殺された。殺し返して何が悪い?

 それとも何か? 今この時点で僕が生きているからそれは過ぎたことだと許せってか?

 殺された痛みも苦しみも、僕はずっと覚えている。お前らが僕らをゴミの様に殺し、見下し、唾を吐きかける様を、僕はずっっと忘れられない」


 放たれた精確無比な銃弾がイヴァルノンの頬を掠る。


「魔女、お前が三人目の三段名なら当然、同じ三段名の奴の事を知っている筈だ。

 時空を操る木人、パウロ―――魔協会過激派の総統だ―――そいつが大量の古人を実験の為に誘拐しやがった事も知っているよな


 僕が その 一人だ ―――――  こ れ は  復讐だ  」


 照準補正が効かなくなる程にバックアーの手が怒りで震え始め、彼は拳銃を両手で握りしめる。


「僕に善悪の了見なんざ残っちゃいないんだよ!!

 お前らが全部奪ったんだからなッ!!!」





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