表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
bdqp  作者: 山本さん
3/56

後払いより先払い③


この地域で生きるならば、柔肌を裂くような鋭い砂風から身を守らなければならない。

 多くの町並みは石造りの、よく磨かれた光沢ある丸みを持った建物群で埋め尽くされている。仰ぎ見る視界を塞ぐような高い建物はほとんどなく、皆々低く収まっているため、町の外からでも一際高く見える塔が映えてくる。

 三国の国境地帯である町を守護する自治警、その本拠地であるバートン自治塔だ。


「違うダメだそうじゃない!!」


 濁声が今日も響く。


 塔にある廊下のほとんどは螺旋階段で、部屋の入り口は必ず二つ存在する。二重螺旋構造の階段を繋げるように部屋が作られているためだ。


「何度言ったら分かる!お前の脳味噌に身は詰まっているのか!?あ!?」


 書類の束を入れている箱を抱えた細身な獣人は、カツカツと踵の音を大きく立てて階段を登っていた。そして、部屋から慌てて飛び出るやつれた獣人と入れ替わりに、ノックをせずに部屋へ入った。


「失礼します」

「ノックをしろボッケ!」


 怒号を飛ばし続けている竜人が風船の様に顔をパンパンに膨らませて、口先を萎ませた。短く刈られた鱗髪を後ろで束ね、細く絞られた鋭い瞳孔がボッケを睨みつける。


「両手が塞がっておりますので」


 しかし、ボッケは飄々としたまま机に箱を置き、中の書類を取り出した。


「ギルドの機人から今しがた連絡が。

 あの依頼を受けてくださった方が現れたそうです」

「はあ、どうせダメだ。どうせ使い物にならない。

 所詮は危機意識の薄い乞食共だ、名誉も大義もチリ紙に包んで捨てた流れ者だ、そもそも国のしがらみに縛られたくないような自由思考だ、進もうとするベクトルが違うのだ、どうせ話にならない!

 もういい・・・くそ・・・峡警隊に、国に依頼を――恥を忍んで出し直すしかない!そいつは門前払いをしておけ!」

「いえ、ドンド隊長、彼らもう塔に」

「門前払いを」

「いや、既に門を通っています」

「―――ッ!外に出して来い!」


 ドンドが声を荒げた数秒後、扉を叩くノックがする。


「失礼しまーす」

「誰が上に通していいと!」

「私です」

「馬鹿者!!!」

「失礼しまーす」

「失礼はいい!出ていけ!帰れ!!」

「えー、帰りまーす」


 あまりに素直に帰ろうとする声にボッケがドンドに目配せをする。


「隊長、せめて会うだけでも」「ぐんうぬぬぬぬ」「隊長」

「ああ!分かった!会おう!

 君!戻ってきたまえ!君!!」

「ハーイ」


 呼び戻され、イヴァルノンは無礼に大胆に突入してきた。

 第一印象として貧弱で、話にならなそうな古人女の登場で、ドンドは顔を赤く膨らませた。それが弾けない様に口を窄めて、ゆっくりひゅーっと息を吐いて顔を萎ませていく。


「一応基本情報をお尋ねします。

 名前と、今の仕事、所属。経歴と、出来れば『魔性』についてお応えして頂けますか?」


 萎むことに専念している隊長に代わってボッケが淡々と話した。


「名前はイヴァルノン。

 定職はなし。

 経歴特になし。

 魔性はコピペ。」

「それが雇われに来た者の態度か!?我慢ならん!よくおめおめと公共施設に足を踏み入れおったな!!お前の様な奴が利用していい場所ではない!今すぐ帰れ低能古人め!帰れ帰れ!!」


 適当な物言いに堪えかねた短気の塊が、怒気の籠った空気を吐きつけた。数歩で届く位置から聴かされるとなると、なんとも鼓膜が嫌がる暴力的な音だ。


「みんなこの声を聞きながら仕事しているの?

 嫌にならない?」

「上に言っても対応してくれないんですよね」「最悪だわ」

「ふざけたことをぬかすな!いいからさっさと俺の目の前から消え失せろ!!仕事の邪魔だ!!」


 ドンドは椅子へどっかんと腰を降ろし、ボッケが運んで来た書類の一部をイヴァルノンへ「あ」丸めて投げつけた。

 流石にその暴挙にボッケもムスッと細めた目でイヴァルノンに目配せをした。


「すみませんね、せっかく来ていただいたのに」


 そう言いながら下を指差していた。ボッケの意図をなんとなしに察して「はいはい、分かりました、ちんたら下って帰りまーす」イヴァルノンはそそくさと部屋から出た。

 そのままゆっくりとした足取りで階段を降りていると、先回りをしてくれていたボッケが階段下から申し訳なさそうに会釈して登って来た。


「虫の居所が悪いとすぐに吼えるんですよ。全く、図体のデカい竜人は怒鳴らないと気が済まない性分なんですかね」


 愚痴に相槌は打たない性分でね、とイヴァルノンは肩を竦めてから顎で小部屋の方を差した。


「こんな場所で申し訳ありません。隊長はあの調子だし、他のオフィスや隊員たちの前ではあまり話せない事なので」


 うるさい隊長のいる部屋の一階下は倉庫だった。うるさい貧乏ゆすりや怒号を遠のけるためのクッション的な役割なのだろう、と勝手に想像しながら床に広がる砂粒を足先で転がした。


「この事件そのものが公にしたくないの?

 それとも流れ者を雇う事自体が煙たがられているのかな?」

「両方ですね。

 国同士の外交が関わる部分もあるので、出来る限り内密にしておきたいのです。」


 そう言って、ボッケは抱えている箱の中から書類を取り出した。


「この町を出入りする貿易隊は三つの街道を通ります。

 皇国へ向かう北の街道、砂国へ向かう東と、峡国中心へ向かう北西の三方向。そのうちの北、皇国へ向かう貿易隊だけが被害に遭っています。」

「皇国から愚痴でも言われた?」

「ええ、そりゃあもう恐ろしいぐらいに。

 ただでさえ皇国は皇が代替わりして緊張状態が続いていますから。

 もし、このまま事態を野放しにしていたら『声帝』が動くかもしれない、と。

 ああ、声帝がアイリ王の様に他国への侵略を推し進めるような政策指針を持っているとしたら・・・考えるだけでもおぞましいです。」

「そんなに不安だったら国に応援を頼めばいいのに」


 ボッケは頭を掻いた。


「そう簡単にはいきません。

 この町の政権は確かに自治警が担っています。ただ、あくまでも私たちが『有能』であるからこそ成り立っているのですよ。

 このまま失態を晒していれば、国は私たちに見切りをつけてしまうでしょう。そうなればこの町の在り方が変わってしまいます。」

「お国はこの町の自治制度を廃止にしたいの?」

「ええ、私たちが汚職やブラックな取引をしているという理由で。」

「実際しているの?」

「ええ、していますよ」


 目を丸めるイヴァルノンにボッケは何躊躇うことなくそう言った。何か悪い事がありますか?とでも訊いて来そうだった。


「ただ、峡国が実際に手を出して来たことはありませんでした。この町がもたらす利益もバカには出来ないですしね。

 しかし、赤砂魔人の一件は国際問題です。国が表に出てくるのは当然の事。

 戦争にまでならずとも、皇国から責任を取れと言われれば、国が我々を見捨てるのも当然の成り行きでしょう。

 つまり、この機に自治制度の廃止に追い込む強力な一手となり得えてしまうのです。」

「ふーん、なるほど、オーケー、ややこしくてもう沢山だわ。

 結局のところ、犯人を捕まえればいいんでしょう?私がすることは」


 ボッケは口と眉間をへの字に捻り曲げた。大丈夫か?この流れ者・・・と顔に出てきた不安と疑念に対して、『隊長とあまり変わらない反応だな』と、イヴァルノンは笑みを作った。


「被害や現場の情報に関しては貿易商館を訪れるとよいでしょう。」

「此処で被害情報の管理はしていないの?」

「自治警で所有している情報は全て、商館から聴取した内容ですから。被害側に直接状況を確認しに行った方が宜しいかと。

 一応、聴取した内容をまとめた書類も作りました・・・ええ、隊長がゴミの様に投げた、丸まった・・・そう、それです。そこに書いてあることが、うちで把握している被害情報です。」


 くしゃくしゃになった紙を元に戻すと、情報は箇条書きに示されていた。


 ・被害 3隊商(被害に遭った日付) 12人(名前あり)

 ・現場 北の街道(国境地点の第一関所には通過した記録なし)

 ・商館からの通報で発覚 目撃者なし

 ・警備を敷いた日には襲撃なし

 ・商館は反皇国派


 ギルドから連絡が届いてすぐに作った物なのだろうか、誤字がちらほらと見受けられた。


「わざわざ商館を反皇国派って書くって事は、自治警は皇国派なの?」

「そうです。」


 ボッケは頷いた。


「先程、ブラックな取引をしている、と言いましたが精確に言えば『峡国にとって』と形容されます。

 峡国は反皇国派です。商館もまたしかり。

 アイリ王の時代、峡国の半分以上は侵略されました。その名残とでも言いましょうかね。

 クリミアは皇国侵略時、真っ先に占領下に置かれました。実のところうちの隊員は、私を含めて半分近くが皇国出身の者です。」


 イヴァルノンは口を尖らせて、くしゃくしゃの紙に目を落とした。


(ややこしい政治話からは逃げられそうにないね)


 頭から肩に滑り降りたオセットがイヴァルノンの耳に呟いた。


(自治警は反皇国派が事件に関係していると先入観を持っているようだぜ。あんまり鵜呑みにすんなよ)

(この事件を起こして一番メリットがあるとしたら誰だと思う?)

(そりゃあお前、それをこれから調べるんだろ?)


 イヴァルノンは肩を竦めてオセットを頭に移した。


「次に皇国の貿易隊が北の街道を渡るのは、次の夜が明けてから8時間後の予定です。

 それまでに赤砂魔人の討伐をお願いしたい。

 報酬に関しては、その後で」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ