表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
bdqp  作者: 山本さん
PR
29/56

逃げ恥の爺③


「あーあ、泣かせた」

「ちょ、ちょっと、ちょっと待っ――待ってッ

 私のせい?!」

「じーさんのプライドを踏み抜いたんだよ。」

「ええ・・・会って数分の人の地雷なんて分かる訳ないじゃん・・・」

「アアアアアアアアアアアアアア!!!!」

 地べたに屈み込み、頭を抱えて泣き崩れたじーさんの前で、同じように屈んだイヴァルノンは眉をハの字に曲げて戸惑っていた。頭を掻き、気まずそうに下唇を甘噛みする。

「あー・・・その、ちょっと、言い過ぎた・・・かもしれないけど・・・。」

「もっと謝罪の意を込めて」

「申し訳ないけど私は間違っていないと思う」

「おぅ・・・お前って奴は」

「ぐぞぉおおおおががああああああああッッ!!!!」

 鼻水と涙と痰と低音ミックスの濁声を響かせ、じーさんは真っ赤な泣きっ面と共に立ち上がった。

 細く萎んでいた全身の筋肉は吹き上がる蒸気を纏って膨れ上がり、じーさんの体は全壊の酒場を粉々にしながら巨大化した。

「でめぇらに何がわがんだ!!!平和を当然だど思いやがっで!!

わじらが血を流じで守っでぎだんだぞ!!敬われる言わればあっでも!でめぇらがわじらをのげ者にずる資格なんでない!!」

「・・・・わぇぉ」

じーさんの気迫が思っていた以上だったのか、イヴァルノンは目を丸めて唖然とした様子で腰を上げた。

「うぇ!」

巨大化に伴って発生した熱が床に溢れていたワインを気化し、浮き上がるアルコール分がイヴァルノンの鼻腔を突き刺した。堪らず鼻をつまんで彼女はその場を離れた。

「酒くっさ」

「何やってんだよイノン!

 男の折れたプライドをけちょんけちょんに踏み砕きやがって!」

「荒療治は暴力と思いやりが9対1、ってポーが言ってたもん」

 ポーって誰だよ、とぼやくオセットを無視して、イヴァルノンはじーさんを仰ぎ見た。

「オセット、野次馬ってもう来てるの?」

 でっかいじーさんが奇声をあげながら巨大化し、建物を壊す爆音を響かせているのだから、誰も気にしない訳はないだろう。

「いるぜ。どいつも嫌そうな面だ」

 案の定、野次馬たちちらほらと現れている。だが、この事態を幾度も経験しているのだろう彼らは、恐怖よりも嫌悪と不安の目を寄越していた。

「離れてて」

飼い主の視界に入らないようオセットが後方に離れていくと、イヴァルノンは地面に杖をついた。

「怒ってでっかくなったくせに殴って来ないの?

私が貧弱な古人の女だから、もしかしたら殺してしまうかもしれないってビビってる?」

 図星にも思える沈黙が数秒続き、イヴァルノンは高圧的に鼻を鳴らした。

「英雄だの、強かっただのと幾人かに聞いていたから期待していたのに、筋肉ついて大きくなりました、だけとは。

 この程度が英雄視されるなんて、この国も大したことないねぇ」

「―――わじらば負げでねええ!!!!

負げでねぇええええええええええ!!!!」

堪えていた理性が不躾な挑発にはち切れると、じーさんは遂に深紅色に染まりきった。

 古人に近かった様相は鬼と呼ぶに相応しい無骨なものに変容し、溢れ出る魔力の圧は逃げ出していたオセットや野次馬たちを吹き飛ばした。

「ごの命知らずがッ!望み通りにじでやるわッッ!!!!!」

 そして、巨躯に見合わぬ素早さで振りかぶった拳がイヴァルノンの鼻先に触れたとき―――――――


 パッ!

 拳は空を切った。

「意地悪く煽ってごめんね」

 かつては地面を凹ませる威力があった拳の上に乗り、仄かに頬を赤らめた古人女は杖を肩にかけた。

「私の魔性は、相手のレベルに合わせた力しか出せない制限があるの。」

 触れている古人女の魔力が先程とは違う事に勘付き、咄嗟に突きだしていた手を引き寄せ―――ようとしたが、自分の手はピクリとも動かなかった。

 握った拳は開かず、身体を退こうにも今の態勢のまま身を捩る事も出来ない。

 視界も動かず瞬きも出来ない。しかし、見える範囲の視界の端にいた筈の野次馬たちは誰一人見えなくなっていた。

「ギルドの面々を追い返すぐらいだし、それなりに強いんだろうなって思っていたけど、予想外のタイミングで火が付いたから驚いたわ」

 古人女はズボンのポケットに片手を突っ込み、肩に掛けた杖を手元で回しながら不敵に笑みを浮かべた。

「分かる?じーさん。

これは夢だよ。

 白昼夢って奴だ。」

(なんだって?)

 そう訊き返そうにも口は開かず、言葉は響かなかった。

 きっと表情も動いていないのだろうが、古人女はさも分かっている様に続けた。

「意識を現実に残したまま夢の中に囚われているのさ。

 だから、私の目の前にいる現実のじーさんは目を開けたままゆっくりと横に倒れて動かない訳だ。

ああ、安心して、頭から倒れてないよ。痰が絡まって呼吸困難にもなってないし。」


――――――すーっと身体を吊っていた糸が切れたように、じーさんはゆっくりと倒れた。

 そのまま動かなくなったじーさんの顔の横にイヴァルノンは屈みこみ、独りでつらつらと話していた言葉をしめくくった。

「酔い覚ましには寝るのが一番」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ