御託はいいから建て直そう②
【精霊】と【精霊種】は違う。
精霊は、火や水、風や大地などの属性エネルギー、自然、魔力の流れなどと同義である。
したがって精霊には自我などなく、あくまで便宜上の、天災や天啓の主語に値する。
その一方で精霊種とは
『人種族の中で属性を取り込んでいる』者を指し
これは先天的で身体的な唯一無二の特徴となる。
魔性は魔力を用いて使う『個性』であり、一般的に属性を持たないが
精霊種の魔性は自ずと属性に由来するものに派生していき、魔力の流れによる影響を受け易――――――
「イノン、後天的に精霊種になる奴っていねぇのか?」
教科書的なイヴァルノンの説明に飽きたのだろうオセットは、彼女の言葉を遮った。
魔女はその問いに対し、しばらく考えた後でこう答えた。
「精霊が魂を選り好みするのか否かという話なら、私は聞いた事ない」
火山帯である皇国の道路は温度の管理に敏感だ。
見える位置のほとんどにある石柱は、どうやら温度によって色が変わるようだ。50℃を超える酷暑地帯は赤色に。30℃~40℃辺りは黄色に。30℃以下なら青色に。
それが分かれば、自分の身の丈に合った温度の道を選べるのだ。例え大きな迂回をするとしても火傷をしてまで近道をしたくはない。
「サングリア・・・此処、みたい・・?」
出店の店主に聞いた道―――マグマ流れる川に沿って北上、コロシアム街に渡る橋に続く通りにある―――
『サングリア』とある錆びた看板が突き刺さっている・・・溶けかけの建物の前にイヴァルノンは立ち止まった。
「老舗ギルドとは言ってたけどよ、想像の斜め上をいく古さだな」
「建物が溶けるってどういう状況?」
ぼすっ。
「アアアアアアアアアアアア!?!」
「???」
イヴァルノンの横で同じく建物を見上げるもう一人、赤いバンダナをしている巨躯な竜人が、手にしていた荷物をその場に落とした。
「なんで!?どうして溶けているんだ!?耐熱材を塗るのを忘れていたのか!?」
その竜人は裏返った悲鳴と共にあたふたあたふた。
「ロロム!?パウンディー!?レッカ!?!シザー!?グンダ!?みんないるか!?!どういう事なんだコレはあああ!!!!」
彼は何人かの名前を呼びながら建物の中に駆け込んでいった。
「・・・・・。今、入るべきだと思う?」
「・・・ちょっと待とうぜ」
数分後、まるで世界の終焉を前に呆然とする様な竜人が力なく外に出てきた。魂此処に在らず、落としたまま放置されていた荷物を取り、口を半開きにしたまま溶けた建物を見上げる。
「あの・・・・」
タイミングが分からず声を掛けてみると、竜人は途方に暮れているのだろう顔を向けて来た。
「依頼かい・・・?
ごめんよ・・・今は、それどころじゃなくて・・・。」
「建物が溶けたから?」
「ギルド長が・・・ケビンが・・・あのバカオヤジがッ!!
ギルドの資金を全部持って行きやがったんだああああ!!!!!」
「・・・はい?」
地べたで事情を聞く訳にもいかず、溶け落ちそうな危険なギルドの中にも入れず、結局来た道を戻り、同じ公園の岩ベンチに三人は腰掛けた。
「ごめんよ・・・いきなり醜態をさらしてしまって・・・。
俺はクインル。サングリアの一人・・・だ。」
クインルと名乗った竜人の青年は見えていないのだろう右目の傷痕を掻き、言い辛そうに事情を話した。
「ケビンっていう・・・バカオヤジなギルド長がいて・・・これまでもギルドの備蓄資金やメンバーの給料にまで手を出してきたことはあった・・・ただ、ここまでやるなんて・・・。」
「なんてやつだ」
「・・・・それで、建物に塗る耐熱材を購入できないまま数日が経ち、遂に建物が溶けた」
「ただでさえメンバーの大半が他のギルドに引き抜かれて、人員不足だったんだ。
俺もつい昨日に盆国から帰って来たばかりで、関所の人から半笑いにギルドがやべぇぞって言われて走って来たら・・・あの様で」
「そりゃあ怒るわ」
「怒りを通り越して呆れるよ」
「クインル以外のギルドメンバーは?みんな辞めちまったのか?」
「残っていたメンバーは多分、掛け持ちの仕事でいないだけだと思う、けど・・・。
たった一人の事務員のロロムが、遂に彼女が―――他のギルドの面接に行ってたみたいでッ!受かったって手紙がッ!そんなの―――おめでとう!としか言えないだろ!?」
その後もしばらくクインルの愚痴を聞いていたのだが、遂には涙さえ浮かべてしまった。
「俺も他のギルドに拾って貰おうかな」
そこまで言い始めたところで、ようやく彼は自分の愚痴を聞いてくれているイヴァルノンたちの事を聞いて来た。
「君たち、何の依頼を出したかったんだい?
良ければおすすめのギルドを紹介するよ?」
「いや、件のギルド長に会いたかったんだよね」
「・・・・借金取りの方ですか?」
「あー・・・いや、個人的に聞きたいことがあって」
クインルは大きな溜息に重苦しい謝罪の意を込めて吐いた。
「蒸発したギルド長の行方なんて・・・分かるわけないよね」
「・・・・当てはあるよ」
そう言うと、溶けた建物の中にあったのだろうか、べとべとに汚れている手紙を取り出した。
そこには、『悪い、盆国の古い友人との約束を思い出したから旅費を貰って行く。後で倍にして返すってホントホント』と汚い字で殴り書きされていた。
「ひでぇおやじを追って行ったりしねぇのか?」
「わざわざ行かないよ・・・行って見つけたところで胸座を掴むぐらいしかやれる事がないし・・・・ギルドを・・・立て直さないと・・・先ずはロロムたちと連絡を取らなきゃ」
クインルはそう言うと腰を上げたが、また何を思い詰めたのやら、再び岩ベンチに腰掛けた。
「なあ、君たち・・・もし、良ければ、なんだけど・・・」
「うん?」
「盆国に行って来てくれないか?」
ん?と困った顔をする二人にクインルは慌てた様子で捲し立てた。
「いや、その、君たちが良ければって話なんだ!ほら、ケビンに用があるみたいだし、それになんかこう、ほら、えーっと、あのー」
「なんだよあんちゃん」
「うちのギルドに入らないかい!?」
「いや、ごめん、それは無理」
精一杯に振り絞ったリクルートが空振りで終わり、クインルは恥ずかしさからなのか、顔を真っ赤にして蹲った。
見ていてあまりに不憫に思えたのか、イヴァルノンは頭を掻いて口を開いた。
「・・・盆国に行って貰いたい理由と、ギルドに入るべき私のメリットがあれば考えてみるけど」
「ほんとかい!?!」
承諾する気があるように返事をしたイヴァルノンにオセットは耳打ちをした。
(いいのか?魔協会とのしがらみとかねぇのか?)
(一時的だって。抜ける口実ぐらいならこの人たち相手ならいつでも通せそうだし)
(まあ、確かにな)
拙い勧誘が取り敢えず成功した喜びで素直に拳を握り締めるクインルに、イヴァルノンは尋ねた。
「その前に一つ、聞いてみたいんだけど」
「え!?なんだい!?何でも聞いてくれ!」
「私、『並みの』古人だけど、分かっていてギルドに誘ってる?」
これは全くの嘘ではなかった。
魔女イヴァルノンの基本的なスペックは全人種族において最下位の古人と同じかそれ以下だからだ。
そのため、彼女は身体能力を高める魔性、何十種類とを使い分けている。しかし、訳あって人通りが多い場所や町中などでは魔性を使っていない。
それ故、クインルの目にイヴァルノンは『並みの』古人に映っているはずだ。
ド派手な肉体労働の依頼を引き受ける可能性があるのに、相手の素性どころか名前さえ教えていない段階で、古人を引き入れる真意とは、何か。
「俺、見る目だけは確かなんだ。」
クインルは、そこだけ確信があるかのように言い切った。
「君はきっと、只者じゃない」
自信の割に安っぽい口説き文句なもんで、イヴァルノンは鼻で笑い、肩を降ろした。
「そりゃあお目が高いね、あんちゃん。付属のペットもタダでつけちゃうぜ」
「おい、タダはおかしいだろ」




