御託はいいから建て直そう①
「いくよ・・・いくぞ私・・・、・・次の呼吸で行くよ・・・そう、いくぞぉおおおおおおおおおおおおっっ!!!アアアアアアアアッッッ!!!!!」
ゴキィィイャァンンン。
「お客様?どうなされました?」
「ああ、気にすんなフロントマン。
骨格が戻った音だから。
まあせっかくだから水とタオルだけ貰えれば・・・え?別料金?しょっぺぇえなあ!」
皇国、西南省南端、ミゲ・ゲット。
それぞれの省には、皇に忠誠を誓う省将という政治力と戦闘力を持つ実力者が一軍隊を所有していて、彼らが省の治安を維持している。
そして、西南省の『前』省将は戦いが大好きだったらしく、ミゲ・ゲットの土地にコロシアム街を作った。
大小な諍い、賭け事、白黒をつける手段として国外からも多く押し寄せるほど大人気のコロシアムは常に大賑わいであり、またその客を狙った観光業や商業を主にミゲ・ゲットは発展していった。
コロシアム街とは、鉄柵とマグマ川に隔てられた外側、住宅街となっている場所の宿。そこで三人は寝るだけの一夜を過ごした。
「むぐむぐおっはーむぐむぐ」
一つ目の魔人アストンがフロントにくると、少し痩せた様に見える古人女イヴァルノンと、相変わらず太っているオセットが朝食をしこたま頬張っていた。
「・・・・・それを払う金は持っているんだろうな?」
こちらを卑下する様な視線を向けて来るアストンに対し、イヴァルノンは咀嚼を止めずに無言の視線を送り返した。
「魔性の中にはさ、むぐむぐ、魔力だけじゃなくて、むぐむぐ、体力を使うものも、むぐむぐ、ある訳よ、むぐむぐ。
身体を小さくするのも、むぐむぐ、怪我を治すのも、むぐむぐ、お腹が空く訳ですよ、むぐむぐ、食べるしかないじゃないの。」
「そんな事を聞いているんじゃない」
「まあまあそうカッカするなって、一緒に食べようぜ、美味いぞ」
「信じられない・・・払ってやるとも確約していない他人の財布任せに・・・なんなんだこの無礼な奴らは」
周りが退く程の食欲を披露し、結果的に予想以上の出費となったアストンは蒸気と思しき熱い溜息を吐いた。
「それで、御方が私に伝えたい事って何なの?」
宿から出てすぐの公園、マグマの噴炎から一番遠い岩のベンチに腰掛け、イヴァルノンは口を開いた。
「その前に訊く事がある」
怒りの感情が含まれているような声だった。
「お前、皇国に何しに来た」
「え、御方から聞いてないの?」
「お前自身の目的を聞いている」
イヴァルノンの表情が固まり、一度青い空を見上げた後、引き攣った笑みを作った。
「私『の』目的は特にないよ。目的があって旅をしている訳じゃない。
強いて言えば観光目的。有名な奴らを一目見てみたいなーって感覚しかない。
だけど、御方『には』目的がある訳ね。何?それに私を巻き込みたいの?」
「・・・・・。」
「一日二日の縁しかないけど、御方あれね、言って欲しい事を敢えて言ってくれないところあるよね。」
覚えがあるのだろうか、アストンは一つ目を閉じ、諦めた様に再び蒸気を吐いた。
「西南省の老舗ギルド、サングリアのギルド長ケビンに会え。
それが伝えるべきことだ」
「・・・ギルド、・・?」
引き攣っていた口角がぎこちなく下がる。
「あー、・・ほら、私、これでも昔は魔協会にいたの。元だけど。」
「つまり魔女ということだろう?」
「そう。魔女。元魔女。
言い換えれば前科者みたいなものよ。
そんでもってギルドって大抵、魔女魔男ぶっ殺す暴力合法教会【ロトル】と協定を結んでいてさ、『治安維持』活動も出来る立場なんだけど・・・。
私、門前払いされると思うよ?」
「皇国は昔から魔協会との繋がりがある。だから、この国のギルドの大半はロトルとの協定に同意していない。
・・・今の皇がロトルを内部に引き入れた事で、複雑化はしているがな。奴らとの交渉が上手くいくのならいずれ変わっていくかもしれないが、末端ギルドに影響が出てくる時まで、お前はこの国に長居などしないのだろう?」
「まあ、それもそうか・・・んで、そのギルド長に会ってどうするの?」
「ケビンは前皇のアイリと繋がりがあり、政府要人を除いて登竜省内部の事について最も知っている鬼人だ」
「・・・その人から情報を聞き出してお偉いさん方が御座す登竜省に行きましょうって手引きかな?
御方は『黒王を見てみたいだけの観光客』に随分と至れり尽くせりしてくれるのね」
アストンに特別な反応はなかった。御方の目的について探り入れるのは難しいかもしれない、とイヴァルノンは諦めて背もたれにもたれかかった。
「元ならば、今の魔協会員リストにお前は載っていない筈だ。
まあ、外見でお前程度を魔女とするにも無理があるし、あそこの錆びた門前に引っかかりあしらわれる事もないだろう。」
「アストン君、私に嫌悪感を抱いてる?」
「俺はお前を監視するだけの存在だ。お前の宿泊費や食費を払う財布ではないし、俺はお前よりも強い。」
「あらま、御免遊ばせ」
睨む一つ目がほくそ笑む魔女を映す。三度目の溜息は一際熱かった。
「・・・とにかく、ランドロムさんに伝えたいことがあるとき、だけ、呼べ。いいな」
そう言うとアストンは「わお」地面と一体化し、そしてそのまま吸い込まれるようにいなくなった。
「すげぇな!どんな魔性だ!?」
「・・・魔性、じゃないと思うよ」
「そうなのか?体質?」
「アストンは多分、精霊種」




