抜け穴は通りにくい①
魔性というのは一般的に、魔力をエネルギーとして用いることで使える個性のことをいう。
生まれながらに持つ才能と
生まれてから積み上げる経験
その二つのバランスによって、個々それぞれに魔性の芽が生える。
芽吹くそれは一つだけとは限らず
無数に生える芽の中で一つを残して他を剪定することも、全ての芽を均等に咲かせることもその者次第だ。
故に、魔性は一つの指標になると言われている。
その者の生き様として
暑い。
熱せられた鉄板の上を歩かされる感覚。
肌が焼け爛れ、髪のキューティクルが溶け壊れ、肺が火傷し、足の肉はウェルダンに調理される。
皇国、という国の環境が、暑さに対応できない者に強烈な殺意を放っているのだ、地面から沸々と。
「此処でいいの?
オセット」
黒くゴツゴツとした岩々が連なり、針からコインサイズまでの穴が無数に開いている。その穴から脈を打つようリズミカルに蒸気が漏れ出してくる。火傷を承知で耳を大地につけてみれば、恐らくマグマの胎動が聞こえて来るに違いない。
汗を全身に纏いながら、古人女は崩れた洞窟の前で息を吐いた。
「違いねぇ。ウォルファロ兄貴から貰った座標はここだ」
古人女の頭上に居座る小さな竜人―――オセットは平べったい小石を掲げてそう言った。
脱いだ薄緑色の羽織を小脇に抱え、後ろに束ねた髪と似た色のニッカズボンを履いたTシャツ古人女は膝を曲げた。
「火傷必至な大地に四つん這いで進んでいけって話じゃないよね・・・」
洞窟の高さは、平均身長以下である古人女の半分ぐらいしかなかった。
「難なく通れるような抜け穴があるんだったら誰も関所なんて通らねぇだろ。
観念して通って行こうぜ、イヴァルノン」
古人女イヴァルノンの頭上に座っていた、白く小さな竜人は他人事のように言ってみせた。
「お前なら美味しく仕上がる前に抜けられるだろ?」
イヴァルノンはしばらく考えた後、良い『代案』が思い浮かばなかったのか、溜息を吐いた。
「はあ・・・『小さく』なるかぁ」
「皇国は火山の火口にある。」
新しい皇が即位した直後の――当然に警備の堅い――皇国へ行きたい。
身勝手と無謀の化身と化した、元魔女イヴァルノンはそう暴言を吐いた。
危うい力を持つ者として認定された魔女であった――彼女に、炭を塗した様な黒い古人、ウォルファロは気にする素振りもなく答えた。
「この地域にある大小様々な山脈が一同に衝突し、噴火と地震を繰り返して出来た巨大なクレーター状の火口、そこに皇国がある。」
「何だってそんな場所に国を作るかね。皇って四六時中サウナに居たいほどの物好きが即位するの?」
「勿論お前の言うとおり、今の環境に耐え得る肉体の者が即位する事に間違いはない。
だが、皇国が建国した当時のあそこは、今では見る影もない深緑に覆われた肥沃な大地だった。
大地の怒りに呑み込まれるまではな。」
ウォルファロは食事を終えた後の石皿を右手で加熱した。白を帯びる程に熱せられた皿の上のソースらは、細い黒煙を上げた後、一様に炭化した。
「大地を溶岩に呑み込まれたにもかかわらず、皇国はそのまま絶えなかった。
住める人種族こそ変わったものの、国の在り方は昔のままだ。良い意味でも悪い意味でも」
赤熱した皿を振って冷やすと同時に、炭となった汚れがパラパラと落ちる。その後もウォルファロは水一滴も使わずに『皿洗い』をした。
ゴトッ、と熱の抜けた石皿たちを棚に納めると、そのまま近くに置いてあった石板を取り出した。
「皇国は省と呼ばれる町ごとに区切られている。北省、東南省、西南省、そして登竜省の四つだ。
お前に教える抜け道は西南省に向かうものになる。」
ウォルファロが石板に魔力を込めるとピキピキと紋様が浮き上がり、西南省近辺を示す地図となった。そして、一つの白い点が点滅し始める。
「此処から通っていけば関所を通らずに町へ出られる。」
「国道から近い場所じゃねぇか」
「よくばれないね」
「知ってても試そうとする奴がいないだけだ。無謀だからな」
イヴァルノンは無言でウォルファロと目を合わせようとしたものの、彼は絶妙に視線を逸らした。
「皇国周辺の地形は同じ光景が続き、新来者は迷い易い。この石地図をやろう。
大地の鳴動とお前らの魔力に反応して地図を更新していくようにしてある。
今回は目的地の座標を示しておこう。石地図がお前らを目的地へと案内してくれる筈だ。」
「本当か!?そんな大層なもんをぽんっとくれるのか兄貴!?」
「兄貴?」
ウォルファロは誰の事だ?とでも言いたげに首を傾げてしばらくした後、鼻で笑った。
「なら、お前のサイズに合わせよう」
そう口を開くと、石地図がみるみるうちに、オセットが両手で持てる―――指一本ほどのサイズにまで縮んだ。
「おおおっ!!俺が持てるサイズだ!!」
「あらあらまあまあ、甘やかしてくれちゃって」
「お前はこの地図の『基』が何か分かっているだろう?
どうせすぐに置き忘れるに違いない。」
「失敬な。『石ころ』であっても厚意で貰ったものをポイと捨て置くようなことはしませんっ」
そう言いながらも視線が横を向く。
「まあいい。好きにしろ。
だが、最低限皇国に入るまでは持っておくことだ。そのせいで面倒な事になったとしても、しらないからな」
ウォルファロはそう―――言った。




