勇者バックアー③
「母さん、なんか魔性が使えなくなったんだけど」
「サボってないでさっさとやるの」
「えー・・・あれ?なんかデジャヴ」
全く同じ光景、ベタベタになる靴裏。多少時間の誤差はあれど、デジャヴの中を再びに進むのは不快な感覚だ。
自ら死に向かって歩いていく感覚。
そこに危険があると分かっていながら、何故逃げないのかを幾度も考え直す。
しかしながらやはりこの目は、綻びを見つけるのだ。
前よりも大きく捲れた痕。自分が殺され、その一瞬で時空が歪んだ痕跡を。
(不愉快だ・・)
平和に日常を謳歌する周りの人々が驚いたように目を丸める、金属の武器。胸元から取り出した『銃』はさぞかし珍しいのだろう、好奇心と興味の視線が集まっていく。
この空気中に漂う魔力は様々な流れで形作られる。感知能力が高くなくても、これだけの意識が向けられれば、空気からある程度の情報を読み取ることは出来るだろう。
だが、十字路の前、まだ痕跡に近付いていない時点では動きがない。
奴は勘付いている。建物の裏で見えない十字路の右側にいる。
(あくまでこっちから来いってか・・・)
見えなければ、知らなければ恐怖などは感じない。
息を吸う度に灼熱の空気が入ってくるはずなのに、今はずっと寒い。鳥肌が立っている。
「ね、お兄ちゃん」
小さい子の呼びかけ。
この不意が合図だったとは思わないが、経験的に、魔女魔男共に殺されて来た回数分、嫌という程積み上げてきた経験が知覚より早く、何かを感知した。
十字路の曲がり角、そこからこっちを覗き込む、目。
「ロトルだな、お前」
痕跡通りの黒い粒子、黄色の目、気体状。申し訳程度の服。
「離れてろ」
「え?」
「ここにいるんじゃない」
バックアーは銃を抜きながら小さい子を睨みつけた。その視線に怯えたよう、小さい子はそそくさと泣きべそをかきながら離れていった。
「ここはひとつ、お互い見なかったことにしないか?」
粒子の濃淡で見える口から発せられる少し高めの声。
「俺はこの国では誰にも手を出しちゃいない。ただ観光をしていただけだ。
新しい皇を少し拝みたくなってな。分かるだろう?好奇心だよ」
「魔協会に所属しているようだな」
服につけられた証。
「俺が何をしでかしたとも確証も実証もないのに
魔男というだけで殺すのか?」
「『お前は既に俺を殺している。』十二分に公務執行対象だ」
気でも触れたか?と鼻で笑うよう、まさに透かした顔を浮かべた。
「頼むよ、その物騒な金属を下げてくれ。
分かるだろ?人の血を持たない者にとっては、純金属は毒なんだ。」
「分かっているから向けている」
「はあ・・これが最後の、紳士たる俺が出してやる親切心だ、ロトル。
失せろ」
奴の嘲笑う親切心は、反射的に捩った襟を掠る―――先制攻撃だった。




