勇者バックアー①
魔女魔男とは、犯罪者やお尋ね者とは少し違う
彼らは罪を犯さずともそう呼ばれることがある
彼らの所業が、証明出来ないときだ
それは時として、空間や次元、時間や運命といった一般的には非干渉的なものにさえ触れるためだ
この呼び名は、非常に危険な魔性の扱いを体得してしまい、またそれを何かに使用した者につけられる
一つのコミュニティを消し去れる程の力、多くの国を落とせる力
余りある力を持ち、何処の手元にも属さない者、魔女魔男
彼らを取り締まり、また倒すことが出来るとすればそれは
失われた理を使い、神さえ地に引き摺り落とす、ロトルたちか
魔女魔男、その者たちだけだ
皇国、その国は皇と呼ばれる者が統治する国だ。
そして、その皇を監視する二人の王がいる。
俗の目に触れる事はない厳かで静かな、即位儀式の初日。
皇国初代が国を守護する為にその身と魂を捧げて作られたという不死の王の器へ、新たな一滴を投じられた波紋が空気を伝う。
その日、新たな皇は『声帝』という名で戴冠し
この国の行く末を担う者となった。
しかしながら声帝は、その厳正な儀式の最中でさえも
何かが面白おかしいかのよう、笑みを絶やす事はなかった。
「はあ・・・・。」
若い古人は重苦しい溜息を吐いた。
「ほんと・・・感性が違いすぎる」
悶々と空気が揺らめく暑さに当てられ、一人ベンチの縁に後頭部を置く。
〔気品ある空気に呑まれて吐くなんてだらしない〕
「・・・・・うるさいな」
〔ヒェッヒェッ、図星だな。だらしなーい〕
「やかましい」
若い古人は一人だった。
しかしながら、複数の声が何処からともなく響いてくる。
宮殿から降りた城下町の、大きな公園の端っこ。若い古人は腰に提げている日記の様な表紙の本を取り出した。
その中身は、文字が羅列してある項、図柄が並んでいる項、そして何も書かれていない項。
「なんだ、もう出て良かったのか?」
何一言の文字も絵も描かれていないページを開くと、その紙が波打ち、獣人の頭がにゅるりと飛び出てきた。
「構わないよ・・・社交辞令はじぃが一人でやるってさ」
溜息交じりにそう呟くと、獣人やら魔人やら虫人やら子供やら・・・が続々と本からぬるりと現れた。
体格のイイ黒白の毛並みを持つ犬獣人、同じくくらいの体格で金色毛並みの猫獣人。
壺のような帽子を被った青く太い小人に、六つ目六腕で羽ばたく虫人。
そして、小人よりも小さい子。
「邪魔者扱いでもされちまったのか?」
「吐瀉物の臭いを纏ったままうろつくな、無様だ・・・だそうで」
「ヒェー、相変わらず口が悪いねぇ~」
本から出てきた五人は、具合の悪そうにだらける若い古人の顔色を伺った。
「大丈夫か?
バックアー」
バックアーと呼ばれた若い古人は溜息を返した後、早口に捲し立てた。
「僕はね・・・元村人なの、ねぇ、こんな神々しくクソ暑い異世界へぶち込まないで欲しかったんだよ。古人の肌も機人の半金属も熱で溶け始める環境に呼びつけるって新しい皇様の性格悪さ尋常じゃないと思う」
「はいはい、先ずは落ち着けよバック」
「皇国へ行くにも前途多難だった」
「聞いてねぇし」
「安全なタクシーって聞いていたのになんかドリフトするし、外で爆音が響いているし、揺れで酔うし・・・災難を連れて来るじじぃの同伴なんかしていたらぼかぁ幾つ身体があっても堪えられないって何度・・・くそ、僕だって死にたかないんだよ、死にたくなんかないんだ」
三人掛けのベンチの中央で情けなく嘆くバックアーを挟んで獣人が座り、その小さい背を撫でてやる。
「・・・樹国に帰りたい・・」
「4日目は情緒不安定になるなぁ」
「コポ!あと2日だよ、2日!
最低だ。僕はまた限りある命を何にもならない時間で消費するんだ」
「まだ2日もあるんだって。」
「あと約38時間ですね」
「時間で言わないでくれ・・・・余計につらい・・・」
「じゃあ少しはやる気が出る話題をしてやろうか?ヒェヒェ」
多少の興味を示して怠そうな顔を上げるバックアーに、虫人は鉤爪の手先から糸を出して紡ぎ、情報誌の一面を作り出した。
「皇国との貿易道で一悶着あったクリミアでよ。ほら、タクシーと約束していたあの町。
先日のドンパチ、あれに魔女がいたって噂だ」
ピクっとバックアーの頬が引き攣り、青い顔に血の気が戻るのを見て虫人は口角から生える牙を左右に揺らした。
「珍しい古人型の魔女で、風変わりな杖を持っているって話だが、ベンニャーから借りた最新の魔協会員名簿にゃ、情報に合いそうな古人魔女はいなかった。」
「野良ってことか?」
「かもな。協会員じゃあないなら尚更、勧誘目的で他の魔女魔男を呼び寄せる可能性がある。
ヨロウズが外に出られねぇってならよ、多少暴れても大目に見られるんじゃあね?」
「・・・・魔協会が皇国へ差し向ける伏兵である可能性もあるしな」
「そういうこっちゃ。
仮に大ボスへ吶喊しようって奴でも、その手前で勇者様に出くわすなんて思いやしねぇ。思わねぇってことは、対策してないってことだ。それはつまり、勝機があるってことだ。」
「へへ、お前は悪い奴だなあ、ギュビ」
「ヒェ~コポに言われたくなーい」
「どういうこったよこのやろう」
「如何にせよ」
バチンッ、という強めの静電気が走った音が響いた。
そして、レンズのない眼鏡をかけて、バックアーは立ち上がった。
「魔女魔男を、誰一人逃しはしない」




