お肉レス⑧
豪華絢爛の限りを尽くした古今東西の秘宝を敷き詰められた空間。
空気そのものが専門の魔性を持つ者によって浄化され、肌で呼吸出来そうなきめ細かい透明さを誇っていた。
そんな空間に鎮座する椅子の一つに座る老古人は、後ろでそわそわと立っている若古人に呟いた。
「じっとしていろ」
「すみません・・・落ち着かなくて」
「まだ『3日目』だろ」
「はい」
「無理そうなら退席しろ」
「・・・分かっています。
ただ・・・その、この・・あまりに、場違いな空気が・・・・骨身にまで染みると言いますか」
「次元の違う連中が住むところだ。同じ空気が漂っている方がおかしいだろ」
老古人が杖の先を指で撫で始めた頃、廊下からゆっくりと歩いて来る複数の足音が聞こえて来た。
「遠くまでご苦労であったな、ロトル」
異空間に住んでいる者は、実に碧かった。
翡翠色とでも言うのか、豪華絢爛な背景にはお世辞にも似合わない者は、不敵な笑みを顔に描いた。
「お主が新たな皇か」
「不服かね?」
「我々ロトルはこの国の政治に関与しない。
お主がどう国を作ろうともな」
その言葉が面白かったのか、新たな皇は笑った。
「そう無責任に放り投げないでくれ。
この国が犯した罪の重さはよく分かっている。
だからこそ私がアイリを討ったのだからな。」
そう言うと、背後にそびえる秘宝たちへ目を向ける。
「参考までに聞くのだが、ロストルールはこれらに如何な価値を付ける?」
「さあな。鑑定は専門ではない。
だがまあ、それなりには値を付けるだろう」
「そうか。欲しいかね?」
「貸し借りは作らん。
例え見返りのない善意としても受け取らんよ。」
「つくづく面白みがないな、そう言われないか?」
「知らん」
ロトルたちと向かい合う椅子の手すりに腰かけ、腕を組んだ皇はそわそわしている若古人に目をやると小首を傾げた。
「彼は護衛かね?」
「は?これが?」
「すみません」
半ギレする老古人に投げやりで心無い謝罪をぶつける若古人。先程から笑みを絶やさない皇はその様に子供のよう笑い飛ばした。
「前皇のアイリは魔協会と手を組み、隣国へ侵攻していった。今更我々と手を差し伸ばしたところで他国からの信頼を得られると思っているのか?」
老古人は皇の目を睨みつけた。だが、その視線も受け流してしまうように、皇は笑っていた。
「魔協会と手を切りたくてな。
だが、手を切るとなればあれらも何かしら動いてくるものだろう?」
「わしらにあれらの世話をしろと」
「それなら専門であろう?神殺しよ」
老古人はガン付けていた視線を落とし、背後の若古人に目をやってから溜息を吐いた。
「仲良くしようではないか・・・ふふふ」
新たな皇は、嘲笑するかの様な不敵な笑みを、ずっと絶やさなかった。
「今日はお肉がいいな!」
イヴァルノンは、腹をペッタンコにすり減らして骨山を駆け抜けた。
そして、勢いよく扉を開け放ちながら言いかました。
「ああ、そう言うと思って」
唐突な来客に驚くこともなく淡々と料理をしている黒い古人店主、ウォルファロは
「・・・・」
何とも言えない間を空けてから言った。
「買ってこなかった」
「何て悪意!」
「けどもういい匂いがする!!」
「レシピを見つけて来たか?」
「もっちろん!」
イヴァルノンは嬉々としてレシピを書いたメモをカウンターの上に置き、それをウォルファロが手に取るのと引き換えに
「草飯だ」
「やっ―――草!?!」
お皿に盛られた二人分の料理の青さに二人を目と共に鼻を引ん剝いた。
小さな木の実のような粒が無数に、それがパラパラと解れる度に鼻へ触れる香ばしさ。
草と言っていたがとんでもない。細かく刻まれた果肉の詰まった葉肉が木の実と共に和えられていて、立ち上る湯気を見ているだけで涎の滝がカウンターに落ちていった。
空腹に理性を奪われそうになるが、なんとか堪えつつウォルファロの許可を仰ぐ。
「構わんぞ」
「「いただきます!!!」」
応えた瞬間、弾ける様に頬張る二人が満面の笑みで安堵する。
「やっぱり美味いねぇほんと!罪な味がするわ!!」
「美味い飯を作る奴に悪い奴はいない!!」
「イドラの砂が落ちたらしいな。町民の嘆きが風に乗って此処まで届いたぞ」
ギクッ、と思わず手が止まった二人。
「あそこのラジオニュースは細かい事まで言う。
古代のプログラムで動いていた機人の一人がBRAINに替えたとかな」
「・・・そっか」
再度草飯を頬に含んで解れる表情を横目に入れて、不動な顔つきのウォルファロが一瞬だけ口角を少しだけ上げた。
「ねぇ、ウォルファロ。
また食べに来てもいい?」
「俺は常に店を転々とする」
「そうなの!?!他にもあるの?!」
「すぐに会うことになる。お前がこの皇国周辺にいる限りな」
驚きと謎に満ちたカミングアウトに顔をふにゃり、と歪ませるイヴァルノンの耳に
「お前たちを見ているぞ」
低く、ドスの入った声が響いた。
だが、相変わらずなこの魔女は本気なのか適当なのか
舐めているのか真面目なのか分からない表情を返した。
「そりゃあいい
きっと飽きが来ないと思うよ」
ウォルファロは再度、そして先程よりも僅かに高く、口角を上げた。
「皇国まで長旅だろう。
これを持って行け」
出立直前、ウォルファロはひび割れから溢れる熱源を込めた手で、粒木の実を焼き握ってくれた。
「焼きおにぎりだあ!!!」
「山菜和えを中に入れておいた」
「やっぱりお肉はないのね」




