お肉レス③
「フクジンヅケって何のことだろうな」
レシピを探せ、と言われて、東へ向かいながら早二時間弱。
今迄の闇は何処へ行ったのやら、目を覆う程に明るい陽射しを浴びながら、吹き付けて来る砂に目を細める。
骨山を抜け、丘を越えると眼下に見えて来た砂の国。
水面の様に真っ平らな大地にきめ細やかな砂を塗したような光景が広がる。その視界の端には、目に着く門構えがある。
店主ウォルファロの言っていたイドラへの入り口はあれのことだろう。
「この国は、地上に町を作らない。」
オセットは入り口に立てられた国の案内看板に書かれた文字を読みあげた。
「農業も産業も上手くいかない、痩せこけたこの大地に好き好んで国を有した理由は、地下に溢れるエネルギーの鉱脈を求めた為、と。
大昔は金属で出来た建物が密集していた町だったが、それが長年の風化で砕け散って体積。それがまた長い年月を掛けて結晶化した鉱脈となり、その上に後から風に乗った砂が被さってできた・・・んだとさ」
「ふーん」
「続きがあるぞ。
長い年月を掛けて結晶化した鉱脈からは、太古の金属は勿論、時には道具そのものが当時の姿を保って発掘されることがあり、考古学者や一攫千金を狙う者たちが夢を追い求める。また、その発掘を国そのものが支援しており、希少金属や太古の化石を見つけた者には多額の金品が贈られる。だと」
「・・・一発掘り当てたら億万長者・・・」
「甘いなあ。この制度は、砂国に住居申請を行った者にしか適用されず、また勝手に発掘を行うと罰せられるらしいぜ」
「まあ、国家資源を勝手に奪っちゃいけないよね」
粘土造りの門は砂国の至る所に作られていて、その門には『膜』が括りつけられている。極薄い膜は遠く先まで伸びてまた別の門に括りつけられ、この国全体を覆っている。
門をくぐるとすぐ長い下り階段になっており、砂地しか見えなかった視界が一変し、巨大で明るい地下空間が広がっていた。
「光だけは通過させているんだね」
仰ぎ見ると、膜と砂を透かした先の空が見えた。透明感のある水の下から空を見上げた時に似た光景に思えた。
巨大で明るい地下空間へ向かう階段を降りていきながらイヴァルノンは鼻を掻いた。
発掘で立てる漂う土煙に含まれる微小な金属が光によって可視化され、地下空間は常にきらきらと揺れ、擦れる度にシャラシャラと綺麗な音を立てている。
この光景を先程の誰かの様に美しいと形容するべきなのだろうが、この空気は呼吸をする者たちの肺を傷つける。
危険さ故に忌避すべきであるからこそむやみやたら手で汚されないありのまま、またそれ故に宿る冒険心を惹き付けるのかもしれないが。
「マスク買わなきゃ、くしゃみが止まらないや」
「ゴーグルも忘れるなよ。痒いって目を掻いたら痛い事になるかんな」
侘しい財布から湿気た金を出して、最もちんけな必需品を買った。すると露店の店主である機人が加えた油煙草の火を吹かせながら一つ目の焦点を揺らした。
「姉ちゃん古人だろ?
こんなチンケなもんじゃ垢だけじゃなくあんたの柔な皮膚までひん剥けちまうぜ?」
「心配ご無用」
ふふん、得意げに鼻を鳴らすと、紐の付いた布と透明板が張っただけの布二つを手に握った。
「ほいさっ!」
「おー」
すると、機能性と利便性に長けた店で一番高いマスクとゴーグルに化けた。
それを早速装着してゴーグルから自慢げに目尻をすぼめたイヴァルノンに、機人店主は加えた油煙草の先を揺らして高揚した。
「すごいな!そんな魔性は見たことがない!」
「ちょっとした余興にはなった?」
機人店主は金属な顎を突き出して、煙を吐いた。
「何が知りたいんだい?」
「フクジンヅケっていう料理かな?その作り方を知っている機人を探しているんだけど、知ってる?」
「フクジンヅケ?料理か・・・悪いな、機人は何せ、姉ちゃんたちと食うもんから違うからな」
「多分ね、古代の料理の一つだと思うんだ。
古典書籍を扱っているか、それらが『頭にある』機人を紹介してくれるだけでもありがたいんだけど」
「ああ、なるほど、そういうことか・・・それならイドラだけでも五万といるぜ。
なんてったってここは機人考古学者の巣窟みたいなもんだからな。」
「マジ?」「マジさ」
灰に埋もれる火種が燻るキセルの先にいい香りがする油を一滴垂らし、再びに吹かし始めた店主が後ろの棚から帳簿の様なものを取り出した。
「姉ちゃんは運がいい。俺はとある古機人の世話をしているんだがな。」
「ほう」
「人格マトリクスが大分いかれているが・・・ほれ、この新しいヒューズを渡してやりな。」
そう言って店主は指先程度の完全金属製の古めかしい電気部品を渡した。
「あの人の規格の大部分は古人時代の代物だから、替えの部品がなかなか手に入らないんだ。
だから、こいつを渡せば喜んで国家図書館レベルの一字一句誤りのない記憶装置を叩き起こしてくれるだろうさ」
「ありがと店主!」
「柑橘フレグランス活かしてるぜ!」
「ジェイリーだ。また御贔屓に」




