第1章-第7話 調査報告と開花
二日後。祓魔屋の扉が開き、調査に出ていた司が帰ってきた。
「ただいま戻りましたー」
「お、来たか」
司の声に、長椅子に座って刀の手入れをしていた朱華が刀を鞘に納めて脇に置く。
「どうやった?」
「それが調べていくうちに重大なことが分かりましてね。お二人ともこれを」
朱華の横に座った燎也が訊くと、意気揚々と口にした司は紐で束ねられた数十枚の和紙を二部、机に置いて二人の向かいに腰かけた。
表紙には『辻斬り入道連続殺人事件に関する調査報告書』と書かれている。朱華と燎也はそれぞれ差し出された報告書を手に取った。
「辻斬りに遭った被害者たちの身元を全て洗った結果、一週間目に殺害された四人が四年前までともに『四方衆』という祓魔屋を経営していたことが明らかになりました」
「ほーん、それで?」
薄い反応をしてページを捲る朱華に促され、司は一瞬、不貞腐れた顔をして話を続けた。
「四人とも実力はあったみたいなんですが、依頼者たちへの対応や調査する上でのやり口が汚いと噂になっていたようで、それが原因で経営が厳しくなったのか、報酬を得るために見境なく祓わなくてもいい無害な妖魔まで祓っていたそうです」
巫術師は妖魔や幽魔、悪党から城下町の治安を守るために依頼をこなす。しかし、害のない人や妖魔、幽魔は原則、討伐・処罰の対象外となっている。
司の報告書によると、そんなある日、四人は朱華たちが先日行った廃寺に無害な妖魔がいるとのことで祓いに行った。
だが、『ここに祓うべき妖魔はいない』と年老いた和尚へ追い返されそうになったところ、それが気に食わなかったのか四人は和尚を殺害。妖魔たちを巫力由来の炎で焼き払い、報酬を得たそうだ。
「ですが、虚偽の妖魔討伐をしたことが巫守寮にバレ、余りの卑劣さに評判が悪くなって廃業したようです」
「はー、最低やな。とてもやないけど、俺らと同業者とは思えへん」
「えぇ本当、自業自得ってもんですよ。そういう巫術師にだけはなりたくないですね……」
『四方衆』の所業に燎也と司は顔を歪ませる。
「それで司、続きは?」
報告書を読んでいた朱華は顔を上げて司を見据えた。どこか測るような目で見られ、硬い表情をした司は口を開く。
「梅の花のような傷跡は廃寺の和尚が所持していた『梅花刀』が原因で、今回の辻斬り入道は、その和尚が巫術師たちに殺されたことによる逆恨みを理由に、妖魔となって仕組んだものだろうと思われます」
「なるほどなぁ。にしても、ここに来てばっかの新米やのにたった二日でそこまで調べ上げるとは、流石の俺も認めざる負えへんわ」
「えへへっ、ありがとうございます」
新米の巫術師が被害者全員の身元を洗うなど並大抵のことではできないだろう。並外れた情報収集能力を燎也に褒められて司は照れる。
一方、朱華は小難しい顔で首を傾げながら報告書をじっと見つめていた。そんな彼女には気づかず、司は再び報告書へ視線を落とした。
「それと、辻斬りにあった被害者に関して。最初は武力を持ってして悪さをする侍や浪士、傾奇者たちが中心でしたが、お二人もご存じの通り、最近では辻斬りの頻度も上がり、無関係の町人たちまでもが標的として殺されています。このことから、辻斬り入道は恐らく妖気に呑まれかかっているのではないかと」
司はそこで言葉を切り、朱華へ視線を移す。
「次の辻斬りが起こるって、朱華さんが言っていたのはそういうことだったんですね」
「まぁな」
司が言うと、朱華は得意げに口元を緩めた。
「せやけど、はよせんと手遅れになるな……」
「ですね。でも辻斬り入道が何処にいるか分からないんじゃ、祓いようが……あっ、妖気の痕跡を辿るとか?」
「それじゃあ時間が掛かりすぎる」
燎也の言葉に頷いた司が提案するも、朱華は食い気味にばっさりと切った。光の速さで却下され、司は不満そうに頬を膨らませる。
「もっと手っ取り早い方法があるぜ。なっ、燎?」
「あぁ、せやな」
朱華と燎也は笑って顔を見合わせたかと思えば、二人して正面にいる司へ視線を向けた。
「え? ちょっ、二人してこっち見て一体なんですかっ⁉」
ニヤつきながら見てくる朱華と燎也に、訳が分からず司は戸惑いの声を上げるのだった。
◇◆◇◆
翌日の夕方。通りを歩いていると、どこもかしこも悪党を罰する強者が現れたという話で町全体が騒がしくなっていた。
「準備は上々ってとこか」
周囲の様子に朱華が微笑を浮かべていると、向こうの方から多守が歩いてきた。
「まーた何かやってんな? お前ら」
不審そうに眉を顰めながらやってくる多守に朱華は上機嫌に声をかける。
「相変わらず鋭いねぇ、小守セーンパイッ」
「多守だ。それで今度は何をやったんだ?」
多守は呆れ気味に訊いてくる。
「んな大層なもんじゃねぇよ。ただそこらに蒔いた種が咲いてるってだけの話だ」
「どういうことだ?」
周囲を見渡しつつ話す朱華に、多守は問い詰める。と、朱華は声を落として多守にこれまでの調査報告も兼ねて事情を説明する。
「……なるほどな。お前らがやることには毎度驚かされる」
「そりゃどうも」
状況を把握した多守が溢せば、両腕を頭に回した朱華は満更でもない表情で返答する。と、朱華は両腕を解いて多守へと向き直った。
「んじゃま、ここいらでオレらがそっちに売った恩、返してもらうぜ」
そう言って朱華は妖しく笑った。
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