↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/12

第1章-第6話 廃寺での調査

 翌日。聞き込みに出ていた司が祓魔屋の引き戸を開けて入ってきた。


「朱華さん!」

「お、何か分かったか?」


 司に名前を呼ばれ、応接間の長椅子に寝そべって本を読んでいた朱華が身を起こした。


「えぇ、燎也さんと聞き込みしていたら奇妙な証言が取れまして」

「奇妙な証言?」


 朱華が訝しげに眉を寄せれば、遅れて入ってきた燎也が口を開く。


「そや。城下の外れにある誰もおらんはずの廃寺(はいじ)から、深夜に物音が聞こえるいう話が何人から上がっとってな。人影が見えるいうらしいねん」

「廃寺(はいじ)なんだから浮浪者(ふろうしゃ)の一人や二人いそうなもんだけどな」


 あぐらを掻いた上に頬杖をついた朱華が指摘する。


 この城下町には武士や百姓(ひゃくしょう)、町人の他に浮浪者(ふろうしゃ)が少なからず存在している。そういった者たちは、裏長屋(うらながや)や廃屋(はいおく)で生活していることが多いのだ。


「それがその人影っていうのが笠(かさ)と法衣(ほうい)を纏った僧侶みたいなんですよ。何度も出入りするのを見たって言ってました」

「場所は?」


 司の話にすかさず朱華が投げかける。


「証言してくれはった人の話やと南西橋(なんせいばし)の近くやて」


 燎也が答えると、朱華は視線を落として考え込む。南西橋(なんせいばし)といえば、昨日水死体が発見された場所だ。


「何か分かるかもしれねぇ。ちょっくら行ってみるとするか」

「せやな」

「はい」


 朱華が言うと、燎也と司は首を縦に振って応じた。


 ◇◆◇◆


 深夜。祓魔屋を出た三人は南西橋を渡って城下の外れにある廃寺へと向かった。


「ここか」

「みたいですね」


 提灯(ちょうちん)を持っていた朱華と司は寺の入口となる三門(さんもん)を見る。


 燎也が炎操作の巫式(ふしき)で手のひらに小さな火を出すと、三門(さんもん)に掲げられた看板を照らす。


 しかし、看板の上半分が無くなっており、寺の文字しかなく、肝心の寺号(じごう)が分からなくなっていた。


「んー、看板が剥がれとって読めへんな……」

「ひとまず、中に入りましょうか」


 燎也が唸る横で司が催促した。朱華たちは三門を潜って境内へと足を踏み入れる。


 中は人の気配がなく、何年も使われていないのか荒廃しており、邪気となる黒い霧が渦巻いていた。


「邪気のせいか梅の木が枯れてますね」

「一応、結界で漏れ出えへんようにはしてあるけど、この分やといつ割れるか分からへんな。俺の方で張り直すわ」

「あぁ、頼む」


 境内に植えられた数々の梅の木が枯れているのを目にしていた朱華が頷けば、燎也は印を組み始める。最後に燎也が拍手すると、寺の境内全体に張られた透明な結界の上から新たに結界が構築される。


 瞳に巫力(ふりょく)を回して視ると、結界には邪気が外へ出ないように縛る内縛(ないばく)と浄化作用に加え、庶民が中に入らないように認識阻害の効果が付与されていた。


 邪気の影響を受けないために三人は巫力で全身を覆ってから境内を見て回る。


「いつ廃寺になったかは分かりませんが、かなりボロいですし、見た感じ生活感もないですね……」

「それに今のところ妖魔の気配もあらへん」


 寺の中に入って手分けして中を見て回るが、荒らされた形跡以外これといった収穫はなかった。


 邪気があることから確かに妖魔がいたというのは間違いないのだろうが、それが辻斬り入道だという証拠もない。


 中庭にある枯れた大きな梅の木を見ていた朱華は燎也と司と共に廊下を歩いて先へ進むと、ツンッと鼻を突くような異臭がした。


「うわっ、何ですこの臭い……」

「裏の方からやな」


 司が指で鼻をつまめば、傍にいた燎也が話す。


 外に出た朱華たちが寺の裏手に回ってみると、幾つかの場所に小さな黒い塊が溜まっていた。その近くには四本指の小さな爪のついた足跡が連なってできている。


「なるほどな……」

 

 黒い塊を目にした朱華は腑に落ちたのかそう呟いた。


「よし、帰るか」

「え? もう良いんですか? まだ全部見て回ってませんけど……」


 踵を返して立ち去ろうとする朱華に対して、司は辺りを見渡しながら言う。


 境内に入ってからまだ三十分と経っておらず、未だ境内の半分も探索できていない。だというのにもう帰るとはどういうことだろうかと司は首を傾げる。


「あぁ、早くしろ。置いてくぞー」

「ちょっと⁉ 朱華さん⁉」


 司はそそくさと境内を後にする朱華を呼び止めるべく声を飛ばすが、彼女は聞いていないのかそのまま三門を出て行った。


「いつ敵が戻ってくるかも分からへんしな。ほら、はよ行くで~」

「うええっ⁉ 燎也さんまで⁉ あー、もう! お二人とも待ってくださいよ~!」


 燎也に背中を叩かれた司は嘆きながら、寺から出て行く二人を追いかけた。


 ◇◆◇◆

 

 祓魔屋の引き戸を開けて入ってきた司は、玄関から応接間へと上がる。


「はぁ……。結局犯人に繋がる手がかりは見つかりませんでしたね……」


 廃寺から戻ってきて早々、司はしけた顔で溜息を吐いた。

「ホンマにそうか?」

「……どういうことです?」


 後ろで立ち止まった燎也に問われ、司は眉を寄せて振り返る。いまいちピンと来ていない司を見て燎也は頬を緩めた。


「一見、関係ない思てることでもな、よう考えたら繋がってくるもんなんやで」

「んー、そういうもんなんですかね……」


 燎也の話に司が腕を組んで頭を捻らせる。と、一足遅れて戻って来た朱華が携えていた赤い刀を机に置いた。


「司、今回の辻斬り騒動に関する情報を洗いざらい調べて犯人を割り出せ。期限は二日だ」

「え、ちょっ⁉ たったの二日ですか⁉」


 朱華から告げられ、司は唖然として目を見開く。無理難題を押し付けた朱華は長椅子に腰を下ろすと、続けて言った。


「それだけあればできるだろ。というかやれ。じゃないと、次の辻斬りが発生することになるぜ」

「朱華さん、それって――」


 問答無用で口にした朱華に司は動揺する。


「――できないようなら、用済みとみなしてここから出てってもらう」


 司の言葉を遮るようにして朱華は容赦ない発言をする。


 突如、選択を迫られ、顔を強張らせた司は下を向く。そうしてしばらく沈黙の後、司は顔を上げて朱華をまっすぐ捉えた。


「……分かりました。やります」


 覚悟を決めた司に朱華はニヤリと笑みを浮かべる。


「頼んだぞ。おっと、くれぐれも燎は手出しすんなよ」

「分かっとる」


 朱華が釘を刺せば、燎也は百も承知だというふうに返した。


「それと、お前に一つ頼みたいことがあってな」

「……なんや?」


 朱華は燎也に向けて手招きをすると、寄って来た彼に耳打ちをした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。