第1章-第5話 医局訪問
五重塔までやってきた朱華たちは入口の引き戸を開けて中に入る。
「おーい白音。準備出来てるか?」
朱華は入ってすぐのところにある半円状の受付へ声を飛ばす。と、木製のカウンターに腰までのシアンのインナーの白髪をポニーテールにした朱華と同年代の女が出てきた。
藍白色の着物と黒袴の上から白衣を着た彼女は、朱華を見るや否やシアンの目をにっこりと細める。
「あら、いらっしゃい。勿論できてるけど、それにしたって貴方やり過ぎじゃないかしら? 結構な人数が搬送されてきてこっちは大変だったのよ?」
「あー、すまん。あれでも一応、殺さねぇようにって手加減はしたんだけどな……」
怒りを含んだ笑みを浮かべる彼女に詰められ、朱華はそっと視線を逸らしながら弁解する。
どうやら司を追いかけていた傾奇者たちを一掃したことによって医局が繁忙期を迎えているようで、周囲が騒がしくなっていた。
「あの、この人は?」
「俺らの同期でな。医局の中でもかなりの腕を持っとる治癒師や」
恐る恐る司が訊くと、燎也が説明した。紹介を受けた彼女は司へ視線を向ける。
「初めまして、医守白音よ。怪我したらいつでもここにいらっしゃい。すぐに治してあげるわ」
白音が軽く微笑むと司は一瞬、顔を赤らめて名乗りを上げた。彼の様子に朱華はそうしていられるのも今の内だと内心で毒を吐く。
「立ち話はここまでにして、さっそく案内するから着いてきてちょうだい」
そう言って白音から案内された先にあったのは検死記録室だった。朱華たちは先頭を歩く白音に続いて中へ入る。
すると、中の大きな長机には大量の書物が山積みとなって置かれていた。その数は五十にも及ぶだろう。
「また凄い量ですね……これ全部?」
「えぇ、そうよ。不自然な傷跡だったから、気になってまとめて残しておいたの。私たちも昨今の辻斬り被害者の検死で忙しいから、何か参考になれば幸いよ」
「わざわざありがとな」
白音の話を聞いた朱華が礼を口にする。
「ほな、始めよか」
「そうですね」
燎也が言うと、頷いた司は書物を手に椅子へと移動する。同じくして朱華と燎也も山積みなった書物の中から一冊を取り出して見ていく。
検死記録には遺体の氏名や年齢、検死結果の文面とともに写映器で取った写真が貼りつけられていた。
写真に写る遺体の傷跡にはやはり梅の花がなっており、血が抜かれていた。
「辻斬りが始まって一週目の被害者は計四人。一日おきに一人ずつ殺害か……」
朱華は検死記録を読みながら呟く。
東馬、西生、北郷、南室という名の四人の被害者も同様の状態で発見されたようだが、他の被害者よりも著しく損傷が激しかったと記されていた。
「どの被害者見ても同じような傷跡があるし、血が全部抜かれてるいうことはやっぱり精気が狙いで間違いなさそうやな」
「えぇ。何か共通点とかあったら良いんですけど、これを見るに殺され方と傷跡以外にはなさそうですね……」
記録と睨めっこしていた燎也と司がそう口にする。
「けど、そんなに精気を得て何がしたいんでしょう?」
「そりゃあ生きていくための栄養分が欲しいってのもあるだろうが、自分が力を得たいからだろう。妖魔や幽魔ってのは元来、強さを求めるもので、ここ二週間あまりの被害者は城下でも名のある奴らばかりだからな」
精気――つまるところ人間の生命力となるエネルギーを吸収することで妖魔や幽魔は生きていくことができるのだ。
司の問いに答えた朱華は、最初の四人の被害者の検死結果の書かれた書物を閉じて机に置き、次の記録を手に取った。そうして三人で手分けしてひたすら検死記録に目を通すこと二時間。
「よし、そろそろ出るか」
「そうやな」
朱華たちは書物を元あった場所へ戻し、検死記録室を出て白音に鍵を返しに行く。
「何か進展はあった?」
カウンターで受付対応をしていた白音が鍵を受け取るついでに訊いてきた。
「まぁ、一応はな」
「と言っても、被害者が全員同じ殺され方をしていて同じ傷跡が刻まれてるってのと辻斬りの頻度が増してるってことが分かったぐらいですけどね……」
朱華が返事をすると、司が疲れ切った表情で付け加える。その後、三人は白音に別れを告げて医局を後にし、大通りに出た。
「二人は引き続き聞き込みして犯人に繋がる情報を集めてくれ」
「分かったわ」
「分かりました」
朱華の指示を受け、燎也と司は揃って頷くのだった。
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