第1章-第2話 新たな仲間
少年の制止を振り切って城下町の建物の上を飛んで移動していた朱華は瓦屋根から降りる。
「っと。お、いたいた」
地面に足を着けた朱華の視線の先には、右横に赤いメッシュの入った焦げ茶色の短髪の若い男がいた。
名を火守りょう燎也。薄梅鼠色の着物に黒袴、茜色の羽織を着た彼は近づいてくる朱華に気づいたのか、赤い目を向ける。
「燎、どうだった?」
「全員、切り傷やら刺し傷、全身強打の中傷っちゅうところで命に別条はなかったわ。念のため、医局の方に担ぎこむよう指示出しといたで」
「まー、手加減してやったからな。ともあれご苦労さん」
燎也の話に清々しい口調で言った朱華は、最後に彼の肩を軽く叩いて笑みを浮かべる。
「せやけど、昼間っからよう揉め事起こすなぁ」
「いや、今回に限ってはオレが原因じゃねぇよ」
燎也が呆れたような表情でぼやくと、朱華は真っ先に否定した。
「ホンマか?」
疑いの念が絶えないのか燎也は眉を顰める。
「ホントだって。野郎どもに追われてた若いのを助けようとしてあぁなったんだ」
「ほーん、なるほどな……」
朱華の話が信用ならないのか、燎也は目を細めながら溢した。
「ほんで、さっきから後ろにおるそいつは誰なん?」
燎也の指摘に朱華はすぐさま後ろを振り向く。と、そこには撒いたはずの少年が不満そうに口をへの字に曲げた状態で佇んでいた。
「って、着いてきてたのか……」
「だって他に行くとこなかったですし……。雇ってもらえるうちに戦い方の技術学べるかなって」
いつからそこにいたのだろうかと身を強張らせた朱華が慎重に訊けば、少年は視線を逸らしながら応えた。それに対して朱華は腕を組みながら溜息交じりにこう告げた。
「あのなぁ大体、うちは塾でも道場でもねぇ。プロの巫術師の職場なんだ――」
「――はいこれ!」
朱華の話を遮るように、少年は懐から一枚のカードを取り出して見せた。
朱華と燎也は揃って提示されたカードを凝視する。
彼の持っているカードは、巫術師が城下町並びにこの国で活動する上で必須となる許可証で、巫術師が所属する組織である巫守寮の登録番号と共に烏守司の名前と十六歳と年齢が記されていた。
「なんだお前、既に巫術師だったのかよ」
「えぇ、そうです。まぁ寮に登録したのはついさっきですけど……」
驚く朱華に司は苦笑交じりに頬を掻いて言った。
だったらそれを先に言えと朱華が内心で悪態を吐く傍ら、司は燎也へ事情を説明する。
「最近、田舎から出てきたばっかで、持って来てた金も尽きた上に行くが当てがないなぁ……。どないすんねん?」
「そうだな……」
困ったように問うてくる燎也に、朱華は顎に手を当てて考え込む。司が正式に巫術師と分かった以上、無碍に突き帰すわけにもいかない。
正直なところ、人手が足りていないのは事実だ。まずは何ができるのか、それが分からないと採用するにも不採用にするにも判断のしようがないだろう。
「じゃあ、巫式と得意なことは?」
「巫式は烏羽操作で、烏羽を用いての幻術も可能です。得意なことは主に情報収集と金銭管理ですかね。勿論、その他雑用もお任せください!」
司はこれでもかと自信満々な表情で答える。それを耳にした朱華は唸り声を上げながら思案する。
「なあ、烏守っちゅうことはもしかして暗摩山から来たんか?」
「はい、そうです。じいちゃんから立派な巫術師になりたいんだったら、山を出て城下に行って学んで来いって言われまして」
燎也の質問に司は遥か遠くにそびえ立つ山々を見ながら言った。
暗摩山とは霊山として有名で代々、烏守衆の管理下にある。
烏守は火守と並んで諜報に長けている他、巫力を用いた術である巫術の扱いを得意とする者が多いと聞く。
故に朱華が燎也に指摘されるまで存在に気づけないほど気配遮断に優れていたことも納得できる。
「よし、採用」
「はぁ⁉」
「本当ですかっ⁉」
朱華の言葉に燎也が唖然とする横で、司は嬉々とした表情で彼女へ詰め寄る。
「あぁ。シンプルに燎よりも使えそうだからな」
「おー、ちょお待て。どういうことやねん」
朱華の返答を聞いた燎也が食って掛かる。と、腰に手を当てた朱華は呆れた目を彼へ向けた。
「大体、お前はなんでそんなに嫌なんだよ」
「やって、俺と役割も得意分野も被っとるし……」
拗ねた物言いをする燎也に、朱華はそんな理由かよと呆れ返る。
確かに燎也の主な役割は諜報、得意分野は情報収集と司と似ている部分はある。しかしだ。
「別に同じようなやつが一人ぐらい増えたところでどうってことねぇだろ。それに情報を集めるなら人手は多い方が良い。つーかお前、オレに協力すんのはもう懲り懲りとか言ってなかったか?」
「あー、そないなこと言うてた時もあったっけな……。けど、それとこれとは別や」
シラを切るようにして呟いたかと思えば、燎也は司の参入は断固反対だと語気を強める。
「そうは言ってももう決まっちまったことだ。文句は後で聞いてやるから、ひとまず中入るぞー」
朱華に急かされた燎也と司は「侍衛・祓魔屋『朱守』」と木の看板が掲げられた二階建ての町家へと入っていく。
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