5話 『また俺何かやっちゃいました?』
「これでBクラスの測定は終了です。次、Cクラス」
担任が、オレたちのいる観客席へ顔を向ける。
「呼ばれた子から順番に前へ出てねー。気負わなくて大丈夫よ。普段どおり魔力を流せば、それでいいから」
Cクラスのあちこちで、小さく息を吐く音がした。さっきまで花田と話していた生徒も、急に口数が減っている。中央の黒い台座が、急に近くなったような気がした。
「悪ぃ。ちょっとトイレ」
オレは立ち上がった。
「は?」
花田が横を向く。
「今から始まるぞ」
「すぐ戻る」
「緊張してんのか?」
「違う」
「じゃあ、怖くなったとか?」
「どうしても精神的な問題にしたいのか」
別に緊張しているわけではない。本当にトイレへ行きたいだけだ。花田の言葉は無視して、オレは観客席の通路を抜けた。背後で二見が小さくため息をつく気配がしたが、振り返らなかった。観測堂の扉を押し開ける。重い扉が閉まった途端、さっきまで耳にまとわりついていた話し声が遠ざかった。廊下には誰もいない。壁に埋め込まれた魔力灯だけが、一定の間隔で淡く光っている。
オレは近くのトイレへ入り、用を済ませた。洗面台で手を洗っていると、観測堂のほうから、かすかに教師の声が聞こえた。さすがに名前までは聞き取れない。まだ何人か前にいるはずだが、あまり遅くなるのもまずい。
オレは手を拭き、観測堂へ戻った。扉を少しだけ開けると、中央の台座では一人の生徒が石板から手を離すところだった。壁際の魔導板には、Bの文字が浮かんでいる。オレはなるべく目立たないように扉を閉め、観客席へ戻った。
「遅い」
席へ座る前に、二見が小さく言った。
「まだ呼ばれてないだろ」
「呼ばれたわよ」
「……誰が」
「あんたが」
オレは二見を見る。
「いつ」
「席を立った直後」
どうやら、さっき廊下で聞こえた教師の声はオレの名前だったらしい。
「返事がなかったから、私たちの列の最後に回すって」
「そうか」
「本当にトイレだったの?」
「ほかに何をしに行くんだよ」
「自分の名前が呼ばれる直前に、すごい偶然ね」
どうやらこいつも花田と同じでオレが緊張していると思っているらしい。ニヤニヤしながら見てくる顔がなんともうざい。二見はまだ疑うような目を向けてきたが、それ以上は何も言わなかった。
「で、今までにAは出たか?」
「いいえ、まだよ。今から橘さんの番」
ちょうどその時、教師の声が観測堂に響いた。
「次。橘紗良さん」
橘が静かに立ち上がった。さっきまで花田の相手をしていた時と同じ、柔らかい表情をしている。ただ、席を離れる直前に、制服の袖口を一度だけ指先で整えた。緊張していないわけではないらしい。橘はゆっくり階段を下り、中央の台座へ向かう。黒い石でできた床の上に立つと、さっきまで近くにいた時よりも少し小さく見えた。広い観測堂の真ん中では、誰でもそう見えるのかもしれない。
「橘さん。台座の中央へ」
「はい」
「石板に手を置いてください」
橘は小さく頷き、右手を石板へ乗せた。周囲に刻まれた術式が、淡く光り始める。一つ目の輪。二つ目。三つ目。三つ目の輪まで白い光が満ち、そこで止まった。――魔力量評価・A。一拍遅れて、観客席が揺れた。
「おい、Aだ」
「ほんとだ」
「橘さん、Aかよ」
さっきまで結果が出るたびに小さく息を吐いていたCクラスの生徒たちが、今度は隠しきれない声を上げる。花田など、完全に前のめりになっていた。
「うおっ、すげぇ!」
勢いあまって立ち上がりかけ、前の座席の背もたれに手をつく。
「花田くん。座ってね」
近くで見ていた雨宮先生が注意した。
「すみません!」
謝りながらも、花田の視線は台座の上から動かなかった。
「いや、でもAだぞ」
「見れば分かるわよ」
二見はそう返したが、いつもより少しだけ声が柔らかかった。橘は表示を見上げたまま、しばらく動かなかった。驚いているようにも見えた。やがて、張りつめていた肩がほんの少し下がる。
「……よかった」
小さく漏れた声は、近くにいた教師にしか聞こえなかったはずだ。
「橘紗良さん。魔力量評価、A。記録します」
「はい。ありがとうございます」
橘は我に返ったように頭を下げ、石板から手を離した。台座を降りる足取りは、行く時より少しだけ軽い。観客席へ戻る途中、あちこちから控えめな拍手が起きた。橘は気恥ずかしそうに笑い、何度か小さく頭を下げながら席へ戻ってくる。
「橘、すげぇな」
花田が、まだ興奮の抜けない声で言った。
「ありがとうございます」
「いや、普通にびっくりした。もっとこう……」
花田は言葉を探すように宙を見た。
「もっと、何ですか?」
「いや。落ち着いてるから、結果も落ち着いてる感じかと思ってた」
「結果が落ち着いてるって何よ」
二見が呆れたように言う。
「分かんねぇけど……」
「分からないまま喋るから、そうなるのよ」
橘は小さく笑った。
「花田くんも頑張ってくださいね」
「おう。絶対A出す」
「Sは諦めたの?」
「……とりあえずはAだな」
現実的になった。
「次。二見華憐さん」
教師に名前を呼ばれる。二見はすぐには立たなかった。ほんの一瞬だけ、中央の台座を見つめる。それから膝に置いていた手を離し、静かに立ち上がった。
「行ってくるわ」
誰に向けたわけでもない短い言葉を残して、二見は階段へ向かう。背筋はまっすぐだった。歩く速さも変わらない。けれど、台座の中央に立った時だけ、彼女は小さく息を吐いた。
「二見華憐さん。石板に手を置いてください」
「はい」
右手を石板へ乗せる。白い術式が、足元からゆっくりと光り始めた。一つ目の輪。二つ目。三つ目。光はそこまで届くと、白い水面みたいに揺れた。四つ目へ向かう気配はない。そのまま、光は止まった。――魔力量評価・A。観客席の空気が、今度ははっきりと動いた。
「またAだ」
「Cクラス、二人連続かよ」
「すごくない?」
さっき橘がAを出した時よりも、声が大きい。一人だけならともかく、二人続けばCクラスの席がざわつくのも当然だった。
「二見までA!?」
花田が、思わず身を乗り出す。その声は台座の上にまで届いたはずだ。だが二見は、反応しなかった。魔導板に浮かんだ文字を、じっと見上げている。A。悪い結果ではない。むしろ、誰が見ても十分すぎる結果だ。それでも二見の表情は、少しも緩まなかった。ほんの一瞬だけ、その視線がAクラスの観客席へ向く。九条冬花は、ほかの生徒たちのざわめきなど聞こえていないように、変わらない姿勢で座っていた。四つ目の輪まで光らせた、同じ一年生。
「二見さん。結果を記録します」
「……はい」
二見は石板から手を離した。台座を降りる時も、足取りは変わらない。観客席へ戻ってくると、橘が小さく言った。
「二見さん、おめでとうございます!」
「ええ」
二見はそれだけ答えて、自分の席に座る。Aで満足しているようには見えなかった。少し間を置いてから、橘のほうを見る。
「ありがとう」
二見はそう言うと、すぐに前を向いた。花田はまだ信じられないように、台座と二見を交互に見ている。
「Cクラス、どうなってんだよ!」
「まだ二人よ」
二見は前を見たまま言った。
「でも二人連続Aだぞ」
「だから何」
「いや、すごいだろ!」
「……そうね」
「次、俺だし!」
「急に不安になったわ」
「なんでだよ!?」
花田は勢いよく立ち上がった。
「次。花田恵さん」
「ほら来た」
呼ばれた花田は、なぜか一度こちらを振り返った。口元には、さっきからずっと同じ自信満々な笑みがある。
「見てろよ」
「何を」
「三人連続A」
「測定器に言え」
「言ってくる」
「やめなさい!」
二見の言葉を背中で聞きながら、花田は台座へ向かった。階段を下りる足取りまでやたらと軽い。中央へ立つと、教師に言われる前から石板へ手を置いた。
「花田さん。魔力を流してください」
「はい!」
返事だけは妙に素直だった。術式が光る。一つ目。二つ目。三つ目。光は、そこで止まった。――魔力量評価・A。
「よっしゃあ!!」
花田の声が、観測堂に響いた。思わず立ち上がりかけたCクラスの生徒までいる。三人連続。さすがに、さっきよりも大きなざわめきが起きた。
「本当に三人連続だ」
「Cクラス、どうなってるんだよ」
「これって、結構すごいんじゃない?」
花田は台座の上で拳を握ったまま、完全に気分を良くしていた。
「花田さん。早く戻ってください」
「すみません!」
教師に注意されて、花田は慌てて頭を下げた。だが、顔はまったく反省していない。むしろ、これ以上ないくらい満足そうだった。花田は足早に観客席へ戻ってくるなり、オレたちの前で両手を広げた。
「見たか!」
「見てたわよ」
「おめでとうございます。花田くん」
「やっぱり俺、才能あったぜ!」
「A評価でそこまで喜べるのが、ある意味才能ね」
二見は呆れたように言った。それでも、口元はほんの少しだけ緩んでいた。
「朔也。次はお前だな」
「そうだな」
「俺がA。橘も二見もA。ここで朔也までAだったら、四人連続だぞ?」
「なにがそんなにすごいんだよ」
「ほら。新入生の中でも、Cクラスだけ変に強いとか。絶対そういう噂になるだろ」
「勝手に噂を作るな。そもそもAクラスは、A評価を出したやつが何人もいただろ」
「S評価もいたわね」
二見が、さっきまで座っていたAクラスの観客席へ視線を向ける。
「そうだけど……だからこそだよ」
花田は一度だけ言葉に詰まり、それでもすぐに立て直した。
「朔也、お前がS評価を取ってこいよ。そうすればAクラスのやつらも、俺たちに一目置くぜ」
オレとしては、それが一番困るんだがな。
「大丈夫ですよ」
橘が、柔らかく笑った。
「桐原くんってただものじゃないって感じがします」
「……A以上は取ってきなさいよね」
二見が、まっすぐこちらを見る。
「なんで命令なんだよ」
「三人連続でAが出てるの。ここで一人だけCとかだったら、空気が悪くなるでしょ」
「縁起でもないこと言うな」
「だからA以上を取りなさいって言ってるの」
言い方はいつも通りだった。けれど二見も、少しだけ期待しているように見えた。その期待が、妙に心地よかった。
「次。桐原朔也さん」
教員の声が聞こえ、オレは席を立った。
「ま、行ってくるわ」
トイレに行っただけで、ずいぶん面倒な順番に回されたもんだ。観客席の階段を下りる。中央の台座へ近づくほど、さっきまでの会話が背中のほうへ遠ざかっていく。誰かに期待されるのは久しぶりだった。
「案外、悪くないな」
オレは誰にも聞こえない声で小さくつぶやく。台座の前で足を止める。黒い石でできた円形の台座。その中央に置かれた石板。橘も、二見も、花田も、数分前に同じ場所に立っていた。
「桐原さん。中央へ」
測定担当の教師に促され、石板の前へ進む。手のひらを乗せた。冷たい。石の奥から、かすかに脈打つような感触が伝わってくる。
「普段通り、魔力を流してください」
「はい」
短く返事をして、魔力を流した。石板の周囲に刻まれた術式が、淡く光る。最初の輪が白く浮かび上がる。壁際の魔導板に文字が浮かぶ。――魔力量評価・C。……まあ、知ってたけど。台座の外から、記録板にペン先が触れる乾いた音がした。誰かが小さく息を呑んだ。けれど、会場全体が騒ぐほどのことではない。C評価の生徒は、さっきから何人もいた。ただ――。背後にいる三人の空気だけが、一度に止まったのが分かった。
「……え」
最初に声を出したのは花田だった。さっきまであれだけ笑っていたのに、今は口を少し開いたまま固まっている。オレが振り返ると、花田はすぐに視線を逸らした。笑うべきか。驚くべきか。何も言わないほうがいいのか。その全部を、一瞬で考えた顔だった。
「今、笑っていいか迷ったでしょ」
「いや、ちが……いや、ちょっとだけ」
「……正直すぎる」
二見が呆れたように息を吐く。
「……魔力量だけで決まるわけじゃないって、先生も言ってましたし」
橘が、止まった空気を埋めるように言った。
「桐原さん。結果はCです。記録します」
「はい」
返事だけは、思ったより普通に出た。教師が記録板へ視線を落とす。オレは石板から手を離した。
「桐原さん。早く台座を降りてください」
「……はい」
教師に言われて、オレは台座を降りた。観客席へ続く階段が、さっきより少しだけ長く見えた。
「朔也」
席へ戻ると、花田が小さな声で呼んだ。
「悪い」
「何が」
「いや。さっき、Aとか言ったし」
「Sも言ってたな」
「それも」
「勝手に期待して、勝手に外したのは花田でしょ。あんたが気にすることじゃないわよ」
「お前もA以上を取れって言ってたけどな」
「でも、期待されて悪い気はしてなかったでしょ」
言い返そうとして、やめた。それは否定できない。誰かに期待されるのは久しぶりで、案外悪くないと思った。だからこそ、三人の反応に少しだけ堪えたのかもしれない。
「……別にいいだろ。Cでも」
「誰も悪いなんて言ってないでしょ」
二見は即答した。
「さっき、一人だけCだったら空気が悪くなるって言ってたけど」
「……言葉の綾よ」
「使い方が間違ってる」
「二見さん」
橘が、少し困ったように二見を見た。二見は一度だけこちらを見た。いつものように強い目だったが、さっきまでとは少しだけ違って見えた。
「……でも」
小さく息を吐いてから、二見は続ける。
「実技で取り返せばいいでしょ」
「何を取り返すんだよ」
「いろいろよ」
「そうですね。桐原くん、基礎魔法上手そうですし」
橘が言う。
「見たことあるのか?」
「見たことはないですけど……」
「じゃあ、なんで」
「……なんとなくです」
根拠がなかった。だが、橘はそれ以上、無理に励まそうとはしなかった。それが逆にありがたかった。花田は「でもさ」と言いながら、少しだけ笑った。
「朔也がCなら、俺のAってさらにすごくないか?」
「台無しだ!」
「ほら、元気出た」
「お前を黙らせたい気持ちは出た」
「それで十分だろ」
花田が笑う。
「次。森谷さん」
教師が、次の名前を呼ぶ。中央の台座へ、別の生徒が向かっていく。オレたちはまた前を向いた。石板に手を置く。術式が光る。結果が出る。その繰り返しだった。次の生徒はB。その次はC。さらにその次はB。Cという文字が表示されるたびに、さっきよりも少しだけオレの目が向く。別に、仲間を見つけて安心したいわけではない。ただ、三人ともAだったせいで、Cという文字を必要以上に意識してしまう。
「これで、魔力量の測定は終了です」
最後の生徒が台座を降りたあと、教師が大きな声で告げた。観客席に、張りつめていた空気が少しだけ緩む。周囲では、夕食の話をする声や、結果について話す声が少しずつ広がっていく。
「三人連続Aだったの、やっぱりすごかったよな」
「花田くん、まだ言ってるんですか?」
「だってすごいだろ」
観客席の生徒たちは次々と立ち上がり始めた。オレも席を立つ。
「朔也」
花田が、少しだけ声を落として呼んだ。
「なんだ」
「大丈夫か?」
「大丈夫だ」
花田は何か言いかけて、結局「そっか」とだけ答えた。観測堂を出る流れに混ざろうとした時、後ろから担任の声が飛んできた。
「桐原くん。ちょっとだけいい?」
振り返る。雨宮先生が、観客席の通路の近くに立っていた。
「はい」
「ほかの子たちは先に行ってていいわよー」
「じゃあ、先に食堂行ってますね」
橘が言う。
「逃げないでよね」
二見が、なぜか念を押す。
「夕飯くらい食う」
「分かってるわよ」
花田たちが観測堂を出ていくのを見送ってから、オレは雨宮先生の前へ向かった。
「何ですか」
「さっきの測定結果のこと」
言われて、少しだけ身構える。
「何か問題でもありました?」
「ううん。測定自体に問題はなかったわ」
「……そうですか」
どうやら測定が誤っていたというわけでもないらしい。
「それなら、何ですか」
「無理に平気なふりをしなくてもいいのよ」
突然、雨宮先生は優しい顔でそんなことを言ってきた。どうやら先生は、オレがC評価に落ち込み、それを必死に隠している可哀想な生徒だと思っているらしい。三人の反応には少し堪えたが、自分の魔力量が少ないことは前から分かっていたので、C評価であることは大して気にしていない。まあ、何かの間違いでAにならないかなぁとは思っていたが。
「別に、ふりはしてません」
「でも、測定が始まる直前に席を立ったでしょう?」
「トイレです」
「緊張してたのね」
「誤解です。ただトイレに行きたくなっただけで」
「うん。そういうことにしておくわねー」
「信じてください!」
雨宮先生はオレの訴えを笑顔のまま受け流した。
「念のため聞くけど、これまで、魔力が足りなくなったことはある?」
「その『念のため』はどこから来たんですか。まあ、足りなくなったことはないですけど」
「少ないなりに、大切に使ってきたのね」
「その言い方だと、オレがかなり可哀想に聞こえます!」
「褒めてるのよー」
「同情のほうが強くないですか」
「魔法を使う時、流す量は意識してる?」
「一応は」
雨宮先生は、少しだけ目を細めた。
「それなら、使い方が上手い可能性はあるわね」
「ようやく普通に褒められた気がします」
「可能性だけどねー」
先生は、観測堂の中央にある黒い台座へ視線を向けた。
「魔力量が多くても、魔力の使い方が雑な子はいる。逆に、少ない魔力を無駄なく使える子もいる」
「慰めですか」
「魔力量だけで強さが決まるわけじゃないのは本当よ」
「今のは教師としての説明ですか」
「半分はねー」
「残り半分を言ってください」
先生は答えず、いつもの間の抜けた口調のまま続ける。
「授業が始まれば、魔力の流し方や術式の組み方も見るわ。その時に、桐原くんがどれくらい上手く魔力を扱えるのかも分かる。だから、周りに合わせて無理に魔力を使わないこと。授業で困ることがあったら、ちゃんと相談してねー」
「分かりました」
「少しは元気出た?」
「最初から、そこまで落ち込んでません」
「うんうん」
「信じてませんよね」
「先生、そういう子には慣れてるから。ほら。そろそろ食堂へ行かないと、夕食に遅れるわよ」
雨宮先生は、話は終わりというように軽く手を叩いた。
言いたいことはまだあったが、これ以上否定しても、先生の中では逆の意味に変換されるだけだ。オレは雨宮先生に背を向け、観測堂の出口へ向かう。こうしてオレは、入学初日に担任から「C評価に傷つきながら健気に強がる生徒」という、身に覚えのない評価までつけられた。否定すればするほど「健気に強がる」の部分が補強されるため、訂正する方法がない。
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