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魔力量C評価のオレは、誰にも本当の実力を知られたくない  作者: 宗3
第一章 『魔術学園への入学』
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4話  『魔力測定とS評価の少女』

 入学式の後、昼食を終えたオレたちは、午後から魔力測定を行うため、もう一度教室に集まっていた。担任の声に合わせて、生徒たちがぞろぞろと教室を出ていく。オレたちもその流れに混ざり、C棟の廊下を歩き始めた。向かう先は本校舎らしい。C棟と本校舎をつなぐ渡り廊下に出ると、春の風が吹き抜けた。窓の外には、さっき通ってきた正門が見えた。


「魔力測定って、どこでやるんだ?」


 前を歩いていた花田が、担任へ声をかけた。


「本校舎の地下。中央魔力観測堂よー」


「地下?」


「そう。学園の真下には、かなり大きな地脈が通ってるの」


 地脈。地面の下を流れている、大きな魔力の流れのことだ。魔力は人間の体内にあるだけではない。森や湖、古い遺跡なんかにも、自然に魔力が集まる場所がある。そういう場所では魔法が使いやすくなったり、逆に魔力が乱れたりするらしい。この学園は、その中でも特に大きな地脈が交わる場所に建てられている。


「観測堂は、その地脈の真上にあるの。魔力測定の術式は、地脈の流れを使ったほうがずっと正確に出るからねー」


「へえ。じゃあ、魔力が多いやつは分かりやすく光ったりするのか?」


「そうよー。測るのは魔力量だけだからね」


 担任は、まるで大したことではないように言った。


「台座に手を置いて魔力を流せば、術式が体内の魔力量を測ってくれるわ。たくさん持ってる子ほど、派手に光るの」


「じゃあ、光ったやつが強いってことか?」


「魔力が多いのは、魔術師として大きな武器よ。でも、それだけで強いってわけでもないわ」


 担任は階段を下りながら、軽く肩をすくめた。花田は「難しそうだな」と言いながら、よく分かっていない顔で頷いていた。……今の会話に分からない要素があったのだろうか。


「ちなみにどこまで光ったかで、魔力量の評価が決まるわ。C、B、A、Sの四段階。Bがだいたい平均ね」


「じゃあCは?」


「少なめ。でも、入学できている時点で魔術師として最低限の力はあるわ」


「Aが出ればかなり優秀。Sまで行く子は、そうそういないわね~」


「じゃあ、Sが出たらすげぇってことか」


「そうね~。見ればわかると思うわよ」


 本校舎に入ると、空気が少し変わった。C棟よりも壁が古い。白い石壁には細かな魔術文字が刻まれていて、ところどころに補修された跡がある。学生用の校舎が明るく整えられているのに対して、こちらは長い時間使われてきた建物らしい。担任は本校舎の奥にある階段へ向かった。地下へ続く階段は、思っていたよりも広かった。生徒が何人も並んで歩けるほどの幅があり、壁には淡い光を放つ魔力灯が一定の間隔で埋め込まれている。下へ行くほど、外の明るさは遠ざかっていった。足音と話し声だけが石壁に反響して、妙に大きく聞こえる。


「先生」


 誰かが後ろから手を上げた。


「オリジナルの測定も、みんなの前でやるんですか?」


 その言葉に、何人かの生徒が反応した。オリジナル。生まれつき一人に一つだけ宿ることがある、固有の魔法。嘘を見抜く者もいれば、影の中を移動できる者もいる。その内容は人によってまったく違う。そして、同じ能力を持つ者は二人といない。もっとも、オリジナルを持つ者自体が珍しい。この学園にいる生徒の中にも、持っている奴と持っていない奴がいるはずだ。


「オリジナルの確認は個別よー」


 担任は階段を下りながら答えた。


「観測堂でやるのは、あくまで魔力量の測定」


「じゃあ、オリジナルを持ってるかどうかも分からないんですか?」


「測定結果から、持ってるか持ってないかは出るわ。でも、担当教員にしか分からないようになってる」


 担任は少しだけ振り返った。


「他人の能力を最初から全部知ってたら、面白くないでしょ?」


 何人かが笑う。冗談っぽく言っているが、たぶん本当にそうなのだろう。オリジナルは、強さそのものだけではない。何ができるのか。どこまでできるのか。どうすれば使えるのか。そういう情報が知られているだけで、かなり不利になる能力もあるはずだ。


「個別観測では、必要な範囲だけ学園に申告してもらうわ。危険な能力だった場合、授業で事故が起きないようにしないといけないからねー」


「じゃあ、全部話さなきゃいけないのか?」


「それは能力によるわね。本人の記憶とか、精神に関わるオリジナルもあるから。学園だって、何でもかんでも無理に聞き出したりはしないわよ」


 その言葉を聞いて、オレは少しだけ安心した。階段を下り切ると、目の前に巨大な扉があった。両開きの扉には、六つの紋章が刻まれている。火、水、風、土、光、闇。基礎魔法の六系統を表す紋章だ。その中央には、六つの紋章を囲むように大きな円が彫られていた。


「ここが中央魔力観測堂。生徒はだいたい観測堂って呼んでるわね」


 担任が扉の横にある魔導板へ手をかざす。淡い光が走った。低い駆動音とともに、重そうな扉がゆっくり開いていく。その向こうに広がっていた光景を見て、オレは思わず足を止めた。地下とは思えないほど広い空間だった。


 円形の床を囲むように、何段もの観客席が上へ向かって伸びている。体育館よりも広い。いや、下手をすれば小さな闘技場くらいある。高い天井には、白い魔力灯がいくつも浮かんでいた。中央には黒い石でできた円形の台座があり、その周囲の床には巨大な術式が刻まれている。六属性の紋章が、台座を囲むように並んでいた。壁際には、記録用らしい魔導板がずらりと設置されている。


 すでに別のクラスが観客席に座っていた。制服の胸元に付けられた徽章を見る限り、Aクラスらしい。その前方では、何人かの教師が中央の台座を囲んでいる。


「ちょうどAクラスの測定が始まってるみたいね」


 担任はそう言うと、オレたちを空いている観客席へ誘導した。


「Cクラスはあっち。静かに座って見ててねー」


 オレたちが観客席に腰を下ろしたときには、すでにAクラスの測定が始まっていた。中央の台座には、一人の男子生徒が立っている。教師の指示に従い、男子生徒が台座の中央にある石板へ手を置いた。


「魔力を流してください」


 石板の周囲に刻まれた術式が淡く光り始める。内側の輪が光り、その外側の輪も続けて光った。壁際の魔導板に文字が浮かぶ。――魔力量評価・B。


「次の方」


 教師は特に表情を変えず、記録板へ結果を書き込んだ。男子生徒も、何事もなかったように台座を降りていく。周囲の生徒たちも、ほとんど反応しない。B評価が平均だと言っていたが、どうやら本当にその通りらしい。


 次に呼ばれた女子生徒も、同じように石板へ手を置いた。今度は内側の輪だけが光る。魔導板に浮かんだのは、Cの文字だった。女子生徒は結果を見たあと、一瞬だけ唇を噛んだ。だが教師が次の生徒を呼ぶ前に、何も言わず台座を降りていく。この学園では、C評価でも入学できる。ただし、喜べる結果ではないらしい。


 その次の生徒は、三つ目の輪まで光らせた。――魔力量評価・A。今度は、さすがに周囲が少しざわついた。


「Aか」


「多いな」


 小さな声が、あちこちから聞こえる。台座の上に立っていた男子生徒は、わずかに口元を緩めた。教師から記録の確認を受けると、満足そうにAクラスの席へ戻っていく。A評価。あれくらいなら、周りから一目置かれる。逆に言えば、それより上はほとんど出ないということだ。


「次。九条冬花さん」


 教師が名前を呼んだ。その瞬間だった。さっきまで小声で話していたAクラスの生徒たちが、自然と口を閉じた。


「あれ、九条家の……」


 どこからか、そんな声が聞こえてきた。九条家といえば、この国でも指折りの魔術師の名家だ。代々、魔法省や魔術研究院などに人材を送り出してきた家だと聞く。そんな家の人間が、同じ一年生として目の前にいるらしい。女子生徒は、中央の台座へ向かって静かに歩いていく。腰まで届く銀髪を、背中で一つにまとめている。制服は他の生徒と同じもののはずなのに、なぜか別物に見えた。余計な動きがない。背筋を伸ばし、まっすぐ前だけを見て歩く姿には、これから行う測定に迷いがなかった。


「九条冬花さん。台座の中央へ」


 測定を担当していた教師が声をかける。


「はい」


 九条冬花は短く答え、黒い台座の中央に置かれた石板へ右手を乗せた。


「では、魔力を流してください。無理に強く出す必要はありません。普段どおりで結構です」


 教師の言葉に、九条は小さく頷いた。次の瞬間。石板の周囲に刻まれた術式が、淡く光り始めた。最初に光ったのは、内側の輪だった。C評価。続いて、その外側の輪が光る。B評価。ここまでは、さっき測定を受けていたAクラスの生徒たちと変わらない。


 だが、光は止まらなかった。三つ目の輪が白く輝いた。A評価。観客席のあちこちから、息を呑む音が聞こえる。


 それでもなお、術式は光を増していった。最後の輪。台座の最も外側に刻まれた円環が、一拍遅れて白く染まる。その瞬間、壁際に並んでいた記録用の魔導板が一斉に光った。中央の一枚に、大きな文字が浮かび上がる。――魔力量評価・S。会場が静まり返った。さっきまで小声で話していたAクラスの生徒たちも、誰一人として口を開かない。測定を担当していた教師も、魔導板を見つめたまま数秒動かなかった。


「……確認を取ります」


 教師が言う。


「もう一度、同じ条件で魔力を流してください」


「必要ですか?」


 九条冬花は、石板に手を置いたまま尋ねた。責めるような口調ではない。ただ、本当に必要なのか確認しているだけの声だった。


「規則ですので」


「分かりました」


 もう一度、九条が魔力を流す。結果は変わらなかった。四つの輪がすべて光り、魔導板には再びSの文字が浮かぶ。


「魔力量評価、S。記録します」


 教師がそう告げると、ようやく会場にざわめきが戻った。


「やっぱり……」


「九条家なら、あり得るってことか」


 九条は石板から手を離すと、何事もなかったように台座を降りた。歓声に応えることもない。教師に礼だけをして、そのままAクラスの席へ戻っていく。彼女が席に腰を下ろしたあとも、しばらく会場の空気は元に戻らなかった。


「すげぇな……」


 しばらく台座のほうを見ていた花田が、ぽつりと呟いた。


「俺もS、出るかな」


「出るわけないでしょ」


 すぐ後ろから、二見の声が飛んできた。


「まだ測ってもないのに即答!?」


「今までの話を聞いてたら分かるでしょ。Sはそうそう出ないって」


「でも、魔力だけなら俺、けっこうある気がするんだよな」


 こいつの自信はどこから出てくるのだろうか。花田は少しだけ考え込んだあと、オレのほうを見た。


「朔也はどう思う?」


「お前がSを出したら、この学園の測定器が壊れてる可能性を疑う」


「ひでぇな!?」


「安心しなさい。壊れるのは測定器じゃなくて、あんたの自信のほうだから」


「二見、さっきから俺に厳しくない?」


「普通よ」


 普通ではない気がする。だが、九条冬花の測定が終わったあとも重かった観測堂の空気は、少しだけ元に戻っていた。その後もAクラスの測定は続いた。B評価が続き、ときおりCやAが出る。九条冬花のSを見た直後だからか、A評価が表示されても、さっきほど大きなざわめきは起きなかった。それでも、三つ目の輪まで光るたびに、観客席のあちこちで小さく声が上がる。だが結局、九条のあとにS評価を出す生徒はいなかった。


「これでAクラスの測定は終了です。次、Bクラス」


 教師の声に、反対側の観客席が少しざわついた。Aクラスの生徒たちが席へ戻り、今度はBクラスの生徒たちが順に中央へ降りていく。Cクラスの測定までには、まだ少し時間がありそうだった。Bクラスの測定も、最初のうちは大きく変わらなかった。石板に手を置き、光った輪の数を確認し、教師が結果を記録する。その繰り返しだ。C評価が出た生徒は、やはり少しだけ表情を曇らせた。逆にB評価だった生徒は、ほっとしたように台座を降りていく。さっきまでAクラスの測定を見ていたせいで感覚が少し麻痺していたが、本来はBが平均だ。Bクラスの生徒たちにとっても、それは悪い結果ではないのだろう。


「次。鷹宮蓮さん」


 名前を呼ばれた瞬間、Bクラスの観客席がわずかに静かになった。後ろのほうの席にいた男子生徒が、深く腰を沈めた椅子からゆっくり立ち上がる。短く切った黒髪。背が高く、制服の上からでも肩まわりの厚みが分かる。だが、目を引くのは体格よりもその格好だった。ネクタイは緩み、制服の襟元も少し崩れている。さっきから腕を組んだまま、ほかの生徒の測定にもほとんど興味を示していなかった。


「……やっとか」


 鷹宮はそう呟くと、面倒そうに階段を下りていく。


「なんか、強そうなやつ出てきたな」


 花田が小さな声で言った。


「強そうっていうより、関わりたくないタイプね」


 二見が、はっきり嫌そうな顔をした。オレに向けてくる顔と一緒だ。


「いや、でも絶対強いだろ、あれ」


 花田の言いたいことも、なんとなく分かる。ただ体格がいいだけではない。前に出るだけで、周囲に妙な緊張を作るような雰囲気があった。鷹宮は台座の中央に立つと、教師に促されるまま石板へ手を置いた。


「魔力を流してください」


 術式が光り始める。一つ目の輪。二つ目。三つ目。白い光は、そこで止まった。――魔力量評価・A。一瞬遅れて、会場のあちこちからざわめきが起きた。


「Aか」


「Bクラスからも出たな」


 鷹宮自身は、表示を見上げたまま動かなかった。少ししてから、口元だけを歪める。


「……Aねぇ」


 満足しているようにも、不満そうにも見える声だった。鷹宮は顔を上げ、Aクラスの観客席へ視線を向ける。その先には、さっきS評価を出した九条冬花がいた。


「上には上がいるってわけか」


 独り言のような声だった。だが、悔しがっているというよりは、面白いものを見つけたような口調だった。


「魔力量評価、A。記録します」


 教師の声に、鷹宮は視線を戻す。


「……悪くねぇ」


 満足したというより、何かを試す前みたいな笑みだった。石板から手を離し、そのまま台座を降りていく。Bクラスの席へ戻っても、誰も結果を祝うような声はかけなかった。鷹宮も気にした様子はない。むしろ、周囲が自分を避けていることを分かっていて、それを面白がっているように見えた。


「Aクラスじゃなくても、Aは出るんだな」


 花田が感心したように呟く。


「Aクラスは名家や旧家の子弟が集まるクラスでしょ。実力だけで分けてるわけじゃないんだから、当たり前よ」


「分かってるけどさ。ああいうやつまでAだと、ちょっと焦るな」


「花田くんも、まだ測ってないのにですか?」


 橘が柔らかく笑う。


「いや。むしろ、負けてられないって思った」


「花田くんなら大丈夫ですよ」


「……だな!」


「橘さん。そいつすぐ調子に乗るから甘やかさないほうがいいわよ」


 二見は小さく息を吐くと、再び台座のほうへ視線を戻した。Bクラスの測定は、そのあとも続いた。石板に手を置く。術式が光る。教師が結果を読み上げ、記録板へ書き込む。生徒は台座を降り、次の名前が呼ばれる。やっていることはずっと同じなのに、結果が出るまでの数秒だけは、観客席全体が静かになる。


 B評価が出れば、ほっとしたように肩を下ろす生徒がいた。C評価が出れば、すぐに表情を作り直す生徒がいた。その違いを、さっきまで何人も見てきた。Bが平均。先生はそう言っていた。けれど、Aクラスの測定を見たあとでは、その平均という言葉が少しだけ頼りなく聞こえる。


 鷹宮のあとにも、A評価を出した生徒が一人いた。その生徒は、表示を見た瞬間に顔をくしゃくしゃにして笑った。隣の席にいた友人が立ち上がりかけ、教師に視線を向けられて慌てて座り直す。鷹宮の時とは、まるで違う空気だった。同じAでも、取った人間によってこんなに周囲の反応が変わるらしい。結局、BクラスからSが出ることはなかった。


 最後の生徒が台座を降りると、測定を担当していた教師が記録板を閉じた。

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