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魔力量C評価のオレは、誰にも本当の実力を知られたくない  作者: 宗3
第一章 『魔術学園への入学』
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13話 『食堂の騒動』

 食堂が一段と静かになった。離れた席ではまだ話し声が続いているが、この周囲だけは誰も声を発していない。


「制服の洗浄に、そのような金額が必要なはずありませんわ」


「誰が洗浄代だって言った?」


「では、何の金額ですの」


「制服を汚された迷惑料だよ」


 鷹宮は当然のように答えた。女子生徒の頬が引きつる。


「そのような要求が通ると、本気で思っていらっしゃるの?」


「通すんだよ」


「支払うわけがありませんわ」


「じゃあ、どうすんだ」


「どうもしません。これ以上、お話しすることもありませんわ」


 女子生徒はそう言い切ると、床に落ちた鞄へ手を伸ばした。そのまま立ち去るつもりらしい。


 だが、鷹宮の取り巻きの一人が横へ動き、通路を塞いだ。女子生徒が顔を上げる。


「退いてくださいませ」


 取り巻きは動かなかった。


「聞こえませんでしたの?」


「鷹宮さんとの話、まだ終わってないんで」


「わたくしは終わったと言っています」


「鷹宮さんは終わったって言ってないっすよ」


 もう一人も反対側へ回った。二人に挟まれたわけではない。それでも、その場を離れるには、どちらかの横を無理に通らなければならなかった。女子生徒は鞄を拾った姿勢のまま動きを止め、やがてゆっくりと立ち上がった。


「さすがに、止めた方がよくないか」


 花田が声を落とした。椅子へ浅く座り直し、両足を床につけている。


「……もう少し見ましょう」


 二見も険しい顔で騒ぎを見ていた。


「でも、あいつら、道を塞いでるぞ」


「分かってるわよ。ただ、私たちは最初を見てない。今すぐ割って入れば、どちらがぶつかったかって話に戻されるわ」


 オレたちには、その答えがない。鷹宮たちが嘘をついている可能性はある。女子生徒が自分に都合のいい話をしている可能性も、今の段階では否定できなかった。ただ、百万を要求し、立ち去ろうとする相手の道まで塞いでいる。単なる事故の話ではなくなり始めていた。


 橘は携帯を伏せ、黙って女子生徒を見ている。いつもの笑顔は消えていた。


「わたくしが誰か、分かってそのような態度を取っているのですか?」


 女子生徒が低い声で言った。取り巻きではなく、鷹宮へ向けた言葉だった。


「知らねえよ」


「白鷺ですわ」


 女子生徒は背筋を伸ばした。


「白鷺家の人間にこのような真似をして、ただで済むと思わないことです」


 初めて聞く姓だった。だが、周囲から小さなざわめきが起こる。どうやら、それなりに知られた家らしい。


 鷹宮は何も答えなかった。白鷺の表情に、わずかに余裕が戻る。ようやく自分の言葉が効いたと思ったらしい。


「今なら、これ以上の問題にはいたしません。そこを退くよう、お二人にお伝えなさい」


「白鷺、ね」


 鷹宮が確かめるように繰り返した。


「ええ」


「覚えたぜ」


 白鷺の表情が止まった。鷹宮は笑っていた。家名を聞いて怯んだ様子はない。


「それが何だよ」


「……何ですって?」


「親が偉けりゃ、人の制服を汚しても謝らなくていいのか?」


「そのような話はしていませんわ!」


「してるだろ。金は払わねえ。謝りもしねえ。最後には家の名前を出して脅しか」


「脅しているのは、そちらではありませんか!」


「俺は弁償しろって言ってるだけだ」


「百万が弁償であるはずがないでしょう!」


 白鷺の声が大きくなる。口調は崩れていない。だが、最初に鷹宮を睨みつけていたときの余裕は、もう残っていなかった。


 鷹宮は白鷺のすぐ前まで歩み寄った。背丈の差はそれほど大きくない。それでも、白鷺は反射的に一歩下がる。踵が床に落ちた皿の破片へ触れ、乾いた音を立てた。


「金を払わねえなら、謝れよ」


「わたくしは悪くありません」


「お前からぶつかったって、二人が見てる」


「その二人は、あなたのお仲間でしょう」


「ほかに見てたやつはいない」


「だからといって――」


「だったら、お前が正しいって証明できんのか?」


 白鷺の口が止まった。自分がぶつかられたことは分かっている。だが、それを証明できる者はいない。反対に、鷹宮には二人の証言がある。最初から白鷺を悪者にするつもりの相手へ何を言っても、話は変わらなかった。


「先生を呼びますわ」


 白鷺は鷹宮から視線を外し、周囲を見回した。


「どなたか、先生を――」


「呼べよ」


 鷹宮が遮った。白鷺が振り返る。


「先生でも、親でも、好きなやつを呼べばいい。こっちには見てたやつが二人いる」


「……後悔なさいますわよ」


「何を?」


「このような騒ぎを起こしたことをです」


「騒ぎを起こしたのは、お前だろ」


 取り巻きの二人が笑う。白鷺は何か言い返そうとした。だが、唇が動いただけで声にはならなかった。


 家名を出しても、教師の名を出しても、鷹宮の態度は変わらない。周囲を見ても、手を貸そうとする者はいなかった。


 白鷺はしばらく鷹宮を睨んでいた。やがて、強く握っていた手をゆっくりと開く。


「……分かりました。謝ります」


 取り巻きの二人が顔を見合わせた。鷹宮は何も言わない。続きを待つように白鷺を見下ろしている。


 白鷺は唇を結び、一度だけ息を整えた。


「結果として、あなたの制服を汚してしまったことはお詫びします。申し訳ありませんでした」


 深くはなかったが、白鷺は確かに頭を下げた。数秒して、顔を上げる。悔しさを押し殺してはいたが、これで終わると思っているようだった。


 鷹宮は白鷺を見たまま、口元を歪めた。


「駄目だ。土下座しろ」


 白鷺の表情が固まった。


「……何を、おっしゃっていますの?」


「謝るんだろ?」


「今、謝罪したではありませんか」


「あんなので謝ったつもりかよ」


 鷹宮は足元を指さした。割れた皿と、こぼれた料理が散らばっている。


「そこに膝ついて、頭下げろ」


 白鷺の顔から、さっと血の気が引いた。床にはスープが広がり、砕けた皿の破片がいくつも落ちている。あそこへ膝をつけば、制服が汚れるだけでは済まない。


「そ、そのようなことを……」


 白鷺の唇が震えた。鷹宮はその顔を見て、ふっと笑う。


「何をそんなに怯えてんだよ」


 白鷺が息を止める。


「冗談に決まってんだろ」


 その言葉を聞いた瞬間、白鷺の肩から力が抜けた。強く握りしめていた指が、ゆっくりと開いていく。張りつめていた息を吐き、わずかに目を伏せた。


「……悪趣味ですわ」


 声にはまだ震えが残っていたが、表情には安堵が浮かんでいた。


 鷹宮は笑ったまま、指先を少し横へずらす。


「そっちでいいぜ」


 白鷺が顔を上げた。鷹宮が示しているのは、割れた皿とこぼれた料理のすぐ隣だった。何も落ちていない、床の空いた場所。安堵していた白鷺の表情が、ゆっくりと固まっていく。


「……何を、おっしゃっていますの?」


「破片の上じゃ危ねえだろ」


 鷹宮は何でもないことのように言った。


「そこなら膝ついても怪我しねえ」


 白鷺の顔から、先ほど戻りかけていた血の気が再び失われた。冗談だったのは、土下座をさせることではない。割れた食器の上に膝をつかせることだけだった。


「ほら」


 鷹宮が空いた床をもう一度指さす。


「そこで頭下げろ」


 白鷺は動かなかった。口を開いても、すぐには声が出てこない。周囲へ視線を向けることもできず、鷹宮の指した床を見つめている。


「……そのようなことをする理由はありませんわ」


 ようやく出た声は、かすかに震えていた。


「自分が悪いと思ってるから謝ったんだろ」


「違います。これ以上、騒ぎを大きくしないために――」


「じゃあ、さっきのは口だけだったんだな?」


「そ、そういう意味ではありません!」


「なら、できるだろ」


 鷹宮の声は大きくなかった。それでも、周囲の生徒たちが息を潜めるには十分だった。


 白鷺は床へ目を向けた。割れた食器の破片。その隣に、鷹宮が指した場所がある。すぐに顔を上げたが、先ほどまでの強さは残っていなかった。


「そのような要求に従うつもりはありません」


 声がわずかに震えていた。


 鷹宮が一歩近づく。白鷺も下がろうとしたが、すぐ後ろには取り巻きの一人が立っている。肩が触れる前に足を止めた。


「なら、選べ」


 鷹宮が白鷺の顔を覗き込む。


「百万払うか、土下座するか」


「どちらも――」


「選べって言ってんだよ」


 鷹宮の声が低くなる。取り巻きたちの笑みも消えていた。白鷺の逃げ道を塞いだまま、鷹宮の言葉を待っている。


 白鷺は答えなかった。唇を固く結び、床へ視線を落としている。両手は制服の裾を握りしめ、指先が白くなっていた。


 花田の椅子が鳴った。見ると、机へ手をついて立ち上がろうとしている。二見も今度は止めなかった。どちらからぶつかったかは、今も分からない。だが、謝罪した相手へ土下座を迫り、取り巻きに逃げ道を塞がせている。最初の事故とは、もう別の話だった。


 オレも手にしていたパンを盆へ戻す。


 そのとき、人垣の向こうから声がした。


「その辺にしておいた方がいいんじゃないかな」


 大きな声ではなかった。それでも、静まり返った食堂にはよく響いた。


 鷹宮が顔を上げる。取り巻きたちも、声のした方を振り返った。見物していた生徒たちが左右へ退いていく。


 開いた人垣の間から、一人の男子生徒が歩いてきた。三年生の徽章。整えられた黒髪に、穏やかな笑み。その左腕には、学生会の腕章が巻かれていた。


 鷹宮は先輩の顔を見るなり、わずかに目を細めた。


「学生会の先輩が、何の用だ?」


 口調は変わらない。ただ、その視線は一度だけ、左腕の腕章へ向けられた。


「騒ぎが聞こえたから来たんだ」


 先輩は人垣の中へ入ると、床に散らばった食器を見下ろした。それから白鷺、鷹宮、左右に立つ二人へ順に目を向ける。


「何をしているのかな」


「こいつがぶつかってきた」


 鷹宮が白鷺を顎で示した。


「制服を汚されたから、弁償の話をしてただけだ」


「違いますわ!」


 白鷺がすぐに声を上げる。


「この方が、突然わたくしの前へ――」


「待って」


 先輩が片手を上げた。強い口調ではなかったが、白鷺は言葉を止める。


「どちらからぶつかったのか、僕は見ていない。そこは今ここで決められないよ」


 先輩は取り巻きの二人へ顔を向けた。


「まず、そこを退いてくれるかな」


 二人は動かなかった。返事もせず、そろって鷹宮を見る。鷹宮の指示を待っているらしい。


「聞こえなかった?」


 先輩の口元には、変わらず穏やかな笑みが浮かんでいた。


「道を開けてほしいと言ったんだ」


 取り巻きの一人が、わずかに足を動かす。だが、鷹宮が何も言わないのを見ると、その場に踏みとどまった。


「学生会が、一年同士の揉め事にまで口を出すのか?」


 鷹宮が言った。


「生徒を三人で囲んで、百万か土下座かを選ばせている。そこまでいけば、ただの揉め事では済まないよ」


 食堂の静けさが、さらに深くなった。取り巻きの一人が周囲へ目を向ける。どこまで聞かれていたのかを確かめているようだった。


「弁償を拒んだから、選ばせただけだ」


「それを弁償とは呼べないね」


「先輩は、そいつの肩を持つのか?」


「どちらからぶつかったのかは分からないと言っただろう」


「なら、口を出すなよ」


「事故の責任には口を出していないよ」


 先輩は白鷺の前へ進んだ。鷹宮との間に、静かに割って入る。


「僕が見たのは、君たちが彼女の道を塞いでいるところだ」


 鷹宮は何も言わなかった。先ほど白鷺へ向けていたものと同じ目で、先輩を見ている。だが、距離を詰めることはなかった。


「それでも続けるなら、場所を移そうか」


 先輩が言った。


「君たち三人と白鷺さんから、学生会室で話を聞く」


「学生会室で?」


「一人ずつね」


 取り巻きの二人の表情が動いた。


「今のやり取りを見ていた生徒にも残ってもらおう。百万を要求したことも、土下座を迫ったことも、きちんと確認した方がいい」


「正式に扱うつもりか?」


 鷹宮の声がわずかに低くなった。


「君が続けるなら」


 先輩は淡々と答えた。


「事故の状況と、百万という金額の根拠。それから、彼女の道を塞いだ理由も記録する。必要なら、先生方にも報告するよ」


 鷹宮の口元から笑みが消えた。取り巻きたちも黙り込んでいる。先ほどまで白鷺の言葉にすぐ反論していた二人が、今は鷹宮の顔を窺っていた。


「君たちは、事故の瞬間を見ていたんだよね」


 先輩が二人へ尋ねた。


「……はい」


 一人が答える。


「そっちの女がぶつかってきました」


「分かった。その話も、別々に聞こう」


 二人のうち、もう一人が小さく息を呑んだ。


 鷹宮は先輩を見たまま動かなかった。食堂中の視線が集まっている。誰も話さず、次の言葉を待っていた。


「……そこまで大げさにすることかよ」


 やがて、鷹宮が口を開いた。


「大げさかどうかは、話を聞いてから判断する」


「たかが制服を汚された程度で?」


「それだけなら、すぐに終わるよ」


 先輩は一度、左右の取り巻きを見た。


「それだけならね」


 短い沈黙が落ちた。先輩は急かさない。笑みを浮かべたまま、鷹宮の返事を待っている。


 鷹宮が小さく舌打ちした。


「もういい」


 取り巻きの二人が鷹宮を見る。


「鷹宮さん?」


「聞こえなかったのか。退け」


 二人はすぐに左右へ動いた。塞がれていた通路が開く。白鷺の肩から、わずかに力が抜けた。


 鷹宮は白鷺へ視線を向ける。何も言わない。そのまま先輩の横を通り過ぎようとして、すれ違う直前に足を止めた。


「学生会ってのは、ずいぶん暇なんだな」


「そうでもないよ」


 先輩は笑みを崩さずに答えた。


「だから、余計な仕事は増やさないでもらえると助かる」


 鷹宮は鼻を鳴らした。


「行くぞ」


 その一言で、取り巻きの二人があとに続く。人垣が左右へ分かれた。三人はその間を通り、そのまま食堂を出ていった。


 三人の姿が扉の向こうへ消えても、食堂の空気はすぐには戻らなかった。白鷺はその場に立ったまま、鷹宮たちが出ていった方を見ている。しばらくして小さく息を吐くと、制服の裾を握っていた手を離した。


「怪我はない?」


 先輩に声をかけられ、白鷺が振り返る。


「え、ええ。問題ありませんわ」


 先ほどまでより、声が柔らかくなっていた。


 先輩は白鷺の足元を見る。床には割れた皿や椀の破片が散らばり、その間に料理がこぼれていた。


「まだ動かない方がいい。靴の近くにも破片があるから」


 先輩が片手を向ける。床を撫でるように風が流れた。細かな破片が一つずつ動き、料理を避けながら通路の端へ集まっていく。


 白鷺は足元を確かめてから、先輩へ向き直った。


「助けていただき、ありがとうございました」


 両手を体の前で重ね、深く頭を下げる。鷹宮へ謝ったときとは、頭を下げる深さも、声の調子も違っていた。


「気にしなくていいよ」


「いいえ。先輩が来てくださらなければ、あの場を収めることはできませんでしたわ」


「学生会として、必要なことをしただけだよ」


 白鷺が顔を上げる。


「あの、後日改めてお礼をさせていただけませんか?」


「お礼?」


「このまま何もしないというわけにはまいりませんもの」


「本当に必要ないよ」


 先輩はそう答えると、白鷺の右手へ目を向けた。


「手を見せてもらえる?」


「手、ですか?」


「転んだとき、床についていただろう」


 白鷺が右手を開く。手のひらの端が赤くなり、細い傷ができていた。本人も気づいていなかったらしく、わずかに目を見開く。


「この程度、大したことはありませんわ」


「食堂の床についたんだ。小さくても、傷は洗った方がいい」


 先輩は白鷺の手から視線を上げた。


「保健室まで連れていくよ」


「先輩が、ですか?」


「転んだばかりだからね。ほかにも痛めているところがあるかもしれない」


 白鷺は一瞬だけ目を見開いた。それから、先ほどまでよりも柔らかな表情で頭を下げる。


「ありがとうございます。では、お言葉に甘えさせていただきますわ」


 二人が歩き出す。白鷺は先ほどまで塞がれていた通路を通り、先輩の隣へ並んだ。見物していた生徒たちも、それに合わせて左右へ退いていく。


「あの人、久世先輩だよな」


「学生会の久世玲司先輩?」


 近くにいた生徒たちの声が聞こえた。


「鷹宮相手に、普通に割って入ったぞ」


「学生会なんだから、あれくらいするだろ」


「分かってても、できるか?」


 久世先輩は声をかけてきた生徒へ軽く手を上げながら、白鷺と食堂を出ていった。


 二人の姿が見えなくなると、止まっていた話し声が少しずつ戻り始めた。床に残った料理を片づけるため、食堂の職員もこちらへ向かってくる。


 花田が椅子へ座り直した。


「鷹宮、学生会が出てきた途端に引いたな」


「正式に問題にされたくなかったんでしょ」


 二見が答えた。


「学生会って、そんなに力があるのか?」


「あんた、入学したときの説明を聞いてなかったの?」


「学生会の話なんてあったか?」


「ありましたよ」


 橘が言った。


「この学園の学生会は、行事の運営だけでなく、生徒間の問題や校則違反の調査も任されています」


「学生が学生を調べるのか?」


「先生だけでは、すべての生徒を見ていられないからでしょうね」


 二見が通路の端へ集められた破片を見る。


「学生会が正式に報告すれば、教師も無視できないわ。内容によっては、訓練場の使用や大会への参加にも影響するらしいし」


「学生会だけで処罰を決められるわけではありませんけどね」


 橘が付け加える。


「調査の内容は、先生方が判断するときの材料になります」


「なるほどな」


 花田は腕を組んだ。


「だから鷹宮も、あそこで続けるのはまずいと思ったのか」


「取り巻きの二人から、別々に話を聞かれるのも困るでしょうしね」


 二見の言葉に、花田が頷く。三人とも、白鷺からぶつかってきたと話していた。その場では同じことを言えても、事故の状況を細かく聞かれれば、話がずれる可能性はある。


「それにしても、魔法も上手かったな」


 花田が床の端を指さす。


「細かい破片まで、全部集めてたぞ」


 床には料理だけが残り、破片は一か所へ寄せられていた。白鷺の靴の近くに落ちていた小さな欠片も残っていない。風が流れたときも、白鷺の髪や制服はほとんど揺れていなかった。


 オレは盆に戻していたパンを手に取る。


「今のを見たあとで、よく普通に食えるな」


「関係ないからな」


「そういう問題か?」


 花田が言っている間に、パンを口へ運ぶ。食堂には、いつもの音が戻り始めていた。

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