第八章 爆縮のショートフック
鎧をパージし、己のバルクを完全に覚醒させた英傑たちの突撃は、十万の敵軍を文字通り紙クズのように引きちぎる地獄の無双乱舞へと変わっていた。なかでも、戦場の中央に立つ呂布奉先の動きは、敵の将兵だけでなく、後方で見守る曹操や諸葛亮孔明をも驚愕させる異次元の領域に達していた。「馬鹿な……。かつて力任せに馬上から方天画戟を振り回していた、あの呂布が……!」敵の副将が、恐怖に声を震わせながら前線の戦況を凝視していた。 呂布の巨体は、完全武装した敵兵の十倍以上の質量があるように見える。しかし、その動きには一切の無駄がなく、恐ろしいほどにコンパクトで繊細であった。武器を持たない呂布は、敵が放つ鋭利な槍や大剣の軌道を、左足を基軸にした最小限の体幹移動「スリップイン」だけで紙一枚の差で避け続けている。鎧を脱ぎ去り、極限まで軽量化されたその肉体は、風を切り裂く残像となって敵の懐へと滑り込んでいた。「呂布のやつ、左足を軸に完璧なステップワークを展開していやがる!前の中原の戦いでは見られなかった、恐るべき新技術だ!」本陣の審査員席で、曹操が思わず立ち上がり、そのシックスパックを緊張で強張らせた。敵の重装歩兵たちが、総がかりで呂布の隙を突こうと槍を突き出す。その瞬間、呂布の左肩が一瞬だけ、破裂せんばかりに激しく隆起した。「次は左だっ――!!」 敵の兵卒たちが一斉に盾を左側へと構え、防御体制をとる。しかし、それこそが鬼神の仕掛けた、肉体による絶対的な罠であった。
「甘いぞ、贅肉どもが」
呂布が低く笑う。左肩の凄まじい隆起は、筋肉の収縮を自在に操る呂布が放った視覚的な囮に過ぎなかった。 敵の視線が左側に釘付けになった刹那、呂布の右広背筋が爆発的に収縮し、その莫大なバネのエネルギーが、右肩から肘、そして拳へと一瞬で伝播した。放たれたのは、大振りの一撃ではない。誰よりもデカい体から放たれる、誰よりもコンパクトで繊細な、最小軌道の右ショートフックであった。ドゴォォォンッ!!空気が爆縮するような凄まじい衝撃波が戦場に吹き荒れた。直撃を受けた敵の最前列の兵士たちは、頑丈な鉄の鎧ごと肉体を文字通り粉砕され、後方に控えていた何百人もの味方を巻き込みながら、木の葉のように遥か彼方へと吹き飛んでいった。拳一つで、敵の戦列に巨大な空白地帯が削り取られる。「馬鹿な……右のショートフックだと!? これほど巨大な体を、これほど繊細に、かつ合理的に使いこなすというのか……!」敵の将領たちが腰を抜かし、ガチガチと歯を鳴らした。呂布の肉体は、ただデカいだけの肉塊ではない。麗蓮姫の瞳に留まるため、一ミリの狂いもなく肉体の稼働効率を突き詰めた、人類史上最高峰の格闘芸術へと昇華されていたのである。




