第五章 女刺客の純情と筋肉の福音
男の暗殺者たちが全滅し、翌朝には全員が笑顔でプロテインをシェイクしているという奇怪な報告を受け、隣国の肥満なる君主たちは激昂した。「おのれ、色仕掛けに引っかかりおって! ならば男の情欲など一切通用せぬ、我が国が誇る冷酷無比な女刺客を送り込め!」 そうして選ばれたのが、感情を完全に去勢され、ただ標的を屠るためだけに育てられた凄腕の女刺客であった。彼女は漆黒の装束に身を包み、いかなる美貌にも惑わされない氷の心を胸に、再び翠嶺国の宮殿へと潜入した。彼女の潜入ルートは完璧であった。深夜、警備の目を完璧にかいくぐり、麗蓮姫の私室へと続く長い回廊を音もなく疾走する。「美貌など、ただの肉のたるみに過ぎない。我が刃でその喉元を裂けば、すべては等しく物言わぬ骸と化す」 女刺客は冷酷に呟き、懐から細身の毒針を取り出した。だが、彼女が目的の部屋の扉を開けようとしたその瞬間、背後の筋力広場から、地響きのような重低音が響いてきた。「フン……ッ! フン……ッ!」深夜だというのに、広場では松明の明かりを浴びながら、英傑たちが狂ったように己の肉体を追い込んでいた。女刺客は一瞬だけ視線を落とし、その光景を文字通り凝視してしまった。
そこには、松明の赤い炎に照らされ、文字通り彫刻のように美しい陰影を刻まれた男たちの肉体があった。諸葛亮孔明が羽扇を優雅に仰ぎ、計算し尽くされた東南の風を送り込むことで、マッチョたちの筋肉に最適な立体感を生み出している。その風を受けながら、関羽が、張飛が、そして呂布が、深夜のパンプアップに励んでいた。極限まで絞り込まれた皮膚の下を、太い血管がまるで大河の如くうねり、鍛え抜かれた大胸筋が呼吸のたびに爆発的な存在感を放つ。
「な……ッ、何という、圧倒的な雄の機能美……!」
女刺客の胸に、かつて抱いたことのない激しい衝撃が走った。彼女が育った国には、贅肉を揺らして私利私欲を貪る肥満の官僚か、飢えに苦しむ痩せこけた兵卒しかいなかった。しかし、この翠嶺国にいる男たちはどうだ。ただ一人の姫の視線を得るためだけに、己の生命力を限界までバルクへと昇華させている。その純粋すぎる狂気と、狂おしいほどの肉体美は、感情を失っていたはずの彼女の心を芯から揺さぶった。「美しい……姫様だけでなく、この国に集う魂そのものが、あまりにも麗しすぎる……!」女刺客は毒針をポロポロと床に落とし、その場に崩れ落ちた。彼女の氷の心は、麗蓮姫の神罰級の美貌を見るまでもなく、その姫を囲む筋肉の福音によって完全に融解してしまったのである。
翌朝、麗蓮姫がテラスからいつものようにあくびをしながら筋力広場を見下ろすと、そこには元女刺客の姿があった。彼女は黒装束を脱ぎ捨て、タイトなトレーニングウェアに身を包むと、張飛の指導のもとで「おおお! いいカッティングだ!」と褒められながら、涙を流して熱心にスクワットに励んでいた。「……また一人、私のジャッジを乱す騒がしい子が増えたわね」姫は気だるげに髪をかき上げた。美しすぎる姫と、それを全肯定する筋肉の楽園。策略による暗殺が不可能であると悟った隣国は、ついに正攻法。すなわち圧倒的な暴力による蹂躙へと舵を切ることとなる。




