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第四章 不穏なる影と暗殺者の絶望

 中原の英傑たちが一人残らず武器を捨て、己のバルクを競い合うマッスル・キングダム翠嶺国。この異常極まる筋肉の桃源郷に対し、周辺の国々は凄まじい危機感を募らせていた。それもそのはずである。大陸最強の武力を誇る呂布や関羽、張飛といった化け物たちが、ただ一国の姫の美貌に狂わされ、一つの場所に密集しているのだ。「このままでは、あの筋肉どもが気まぐれに動いただけで我が国は圧殺される……!」恐怖に震える隣国の肥満なる君主たちは、密かに陰謀を企てた。彼らが導き出した結論は、あまりにも短絡的で、しかし確実なはずの手段「翠嶺国の元凶である麗蓮姫の暗殺」であった。



 ある漆黒の夜、翠嶺国の宮殿に、隣国が誇る一級の暗殺者たちが忍び込んだ。彼らは音もなく壁を登り、麗蓮姫が眠る寝所のテラスへと音もなく着地する。手にするのは、一滴で象をも即死させる猛毒が塗られた、鋭利な暗殺用の短剣であった。「ふん、筋肉バカどもがどれほど群れようと、主たる姫の首を獲ればその時点で終わりよ」暗殺者のリーダーが冷酷な笑みを浮かべ、音もなく寝所の帳を撥ね上げた。



 しかし、その瞬間に彼らの動きは完全に凍りついた。月光に照らされてベッドに横たわっていた麗蓮姫の姿は、彼らの想像を絶するほどに美しかった。透き通るような白い肌、夜の闇さえも嫉妬するような美しい銀髪、そして寝顔でありながら放たれる、圧倒的な気高雅。それはただの美貌ではない。見る者の魂を根底からねじ伏せ、ひれ伏させるような神罰そのものの美であった。「……つ、美しい……!」暗殺者のリーダーの口から、プロとしての意識を完全に忘れた驚嘆の声が漏れた。 あまりの美しさに、彼の脳内を支配していた任務という二文字が瞬時に消し飛ぶ。短剣を握る手は激しく震え、膝の力がガクガクと抜けていく。 「馬鹿な……この俺が、人を殺すことしか知らぬこの俺が、刃を向けることすらできんというのか……!」他の暗殺者たちも同様であった。彼らは麗蓮姫のあまりの麗しさに毒され、ただその美貌を拝むことしかできなくなっていた。神聖な絵画を前にした罪人のように、その場に崩れ落ち、涙を流して己の不敬を呪うことしかできない。



 やがて、その気配に気づいた麗蓮姫が、ゆっくりと、しかし気だるげにその美しい瞳を開いた。「……騒がしいわね。夜中に人の寝室へ忍び込んで、一体何の用かしら」姫はあくびをしながら、テラスに座り込む暗殺者たちを一瞥した。その冷徹な視線を受けた瞬間、暗殺者たちはあまりの歓喜と圧倒的な美の圧力により、脳のキャパシティが限界を迎え、泡を吹いてその場に卒倒してしまったのである。



 翌朝、宮殿の庭には、武器を捨てて「姫様、どうか我らをご奉公させてください!」と、関羽の横で真面目に腕立て伏せを始める元暗殺者たちの姿があった。美しすぎて暗殺できない。それは、どんな頑丈な盾よりも強固な、麗蓮姫という存在が持つ絶対的な防壁であった。だが、この失敗に怒り狂った敵国は、さらなる次なる刺客を送り込むことを決定する。今度は、男の情欲に左右されない、冷酷無比な女性の暗殺者であった。


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