第7話 そうだ、爺さんの剣をぶっ壊そう!
ここま読んでいただだけたということは、皆さんも税金が大キライなハズ!
恐れ入りますが、途中でも「コメント」「ブクマ&☆評価」お待ちしております!
……エタらないですみます(土下寝)
翌日。ネキーンが俺たちを自分の倉庫に連れてきた。
「ここじゃ」
扉を開けると、中は武具の山だった。
年季は入っているが、どれも丁寧に手入れされている。刃は研がれ、鎧の革紐は張り替えられ、盾の表面には丹念に塗られた油の光沢がある。
54年間の冒険者人生で使い続け、そして大切に保管してきた装備たち。
「……すげぇな。全部現役で使えるんじゃねぇか?」
「当たり前じゃ。ワシの相棒たちじゃからな」
ネキーンが誇らしげに胸を張る。
「爺さん。この装備、帳簿に載せたことはあるか?」
「ちょうぼ? 何じゃそれは」
「つまり、資産として登録されていない。どこにも記録がない」
ジーコの目が悪徳商人の目に変わる。
「今から全部、固定資産台帳に登録する。現在の評価額で。手入れが行き届いた54年モノの武具なら、鑑定に出せばそれなりの値がつく」
「それで?」
「その後、これを全てぶっ壊す。登録した資産が破損して使用不能になれば、評価額の全額を『除却損』として一括で費用にできる」
……なるほど。登録したばかりだから減価償却が一切進んでない。つまり評価額がまるごと損失になる。
「ただし、自分で壊したら故意の損壊だ。それは通すのは無理だろうな」
「……じゃあ、実際にダンジョンでの戦闘で壊れたら?」
「業務中の破損だ。文句のつけようがない」
俺とジーコの目が合った。
同時にネキーンを見る。
「爺さん。Cランクダンジョン『鉄甲の洞窟』って知ってるか」
「知っとるぞ。アイアンゴーレムの巣窟じゃな。全身が鋼鉄の魔物で、剣で斬りかかったら刃の方が折れる。普通はハンマーか爆破魔法で挑む場所じゃ」
「そこに、この剣で突っ込みに行くぞ!!」
沈黙。
ネキーンが倉庫の武具を見つめた。54年間、共に戦い、共に生き延びてきた相棒たち。
「……ワシのカワイイ装備たちを、わざと壊しに行くということか」
「ああ。……まぁ思い入れがあるなら無理にとは――」
「もちろん、やるぞい!」
即答だった。
「思い入れはある。長年の付き合いじゃ。じゃがな――54年間ネンキンを搾り取られた怒りの方がデカいッ! ワシの相棒たちも、この国の税制の犠牲になるくらいなら税を殴り返す弾になった方が本望じゃろうッ!」
ネキーンの目に炎が宿る。このジジイ、本気だ!
「コーダ、お前もここにある盾を持っていけ」
「え、私も!?」
「盾でアイアンゴーレムの攻撃を受けたら一発でひしゃげるだろ。除却損がどんどん増える」
「そういう理由!?」
◇ ◇ ◇
その日の午後、爺さんの武器鑑定を済ませた俺たちは『鉄甲の洞窟』に突入した。
ネキーンが雄叫びを上げながらアイアンゴーレムに剣で斬りかかる。当然、剣の方が負け、刃がベキベキと折れていく。だが爺さんは止まらない。1本折れたら次の剣を引き抜き、また突っ込んでいく。
「うおおおおおッ! これはワシの20代の剣ッ! 我がネンキンの糧となれぇぇえええッ!」
「ネキーンさんが壊れてる……」
コーダが引きつった顔で呟く。
俺が聖剣で強そうなヤツを片付けつつ、ネキーンが次々と装備を破壊していく。壮絶な光景だった。思い出の武具が、次々と鉄の魔物に叩きつけられて砕けていく。
なんだか、そこはかとなくやるせない気持ちにならない俺でもないが……ま、本人がいいなら問題ないだろ!
2時間で全部終わった。
洞窟の入口に、折れた剣、ひしゃげた盾、割れた鎧の残骸が山積みになっている。
「……全部壊れたな」
「やってやったぞい。清々したわッ!」
ネキーンが晴れやかな顔をしている。本当によかったのかよ……
ジーコが帳面を広げ、破損した装備を一つ一つ記録していく。
「鑑定済み長剣80本、評価額750万リーフ……業務中破損により除却。鍛造大盾15枚、評価額220万リーフ……その他諸々、業務中破損」
「全部でいくらになる?」
「165件分の除却損、合計で……悪くない額だ。塵も積もればなんとやらってな」
ギルドに戻って『装備破損届』を全て提出した。
窓口のお姉さんが引きつった顔で対応してくれた。「1日でこの数は初めてです……」ってボヤいていたが気にしない。今更体裁など気にしてられるかっ!
◇ ◇ ◇
その夜。ギルド税務調査部。
ダーツの机の上に、一枚の報告書が置かれていた。
『勇者カネスキパーティ 活動報告』
新規結成パーティ。メンバー4名。結成からわずか3日でBランクダンジョンを攻略。
――だが、ダーツの目が留まったのは戦果ではない。
「装備除却届、165件。高級装備の一括購入。大型拠点の賃貸契約……短期間でよくもこれだけ」
ダーツは書類をめくる手を止めた。
「……やはり面白い」
部下が横から覗き込む。
「主任、これは……」
「見てください。パーティメンバーの構成を」
ダーツが指で一人ずつ示していく。
「コーダ・クサン。旦那とは離縁済み。子供12人。ジーコ・ハサン。事業の大赤字を抱えた元商人。ネキーン・オイシ。72歳」
「……まさか」
「戦闘力ではなく、税制上の属性でメンバーを選んでいる。この勇者は――冒険者パーティを、節税スキームとして設計している」
長い沈黙が部屋を支配する。
「……すでに手は打ちました。3日後です。楽しみですね」
ダーツは書類を閉じて、引き出しに仕舞った。
その口元に――かすかな笑みが浮かんでいた。
◇ ◇ ◇
――同じ頃。拠点で帳簿をまとめていたジーコが、満足げな顔で報告してきた。
「減価償却、除却損、経費を積み上げて……帳簿上は赤字にできたな」
「赤字?」
「ああ。しかも赤字は翌年に繰り越せる。このまま1リーフも稼がなければ、来年のショトク税はゼロだ」
――来年の税金がゼロ。
税金が……ゼロッ!!!!!!
なんたる甘美な響き! 俺、この日のために生きてきたと言っても過言じゃあねぇっすよ!!
「赤字なのに生活は豊か。帳簿と現実が凄まじいほど乖離しているな。非常に気分がよろしい」
「それが会計の美しさだ」
「美しさ……?」
「……まぁ、正直俺たちのやっていることは、きわどいと言えばきわどい。……相当グレーだ。もうあと一歩でアウトだな。だが帳簿上の数字に嘘はない。装備は実際に劣化してるし、減価償却の計算も前例に基づいている」
「グレーなのかよ!」
「この世界に白い会計なんてねぇよ。あるのは黒と、濃いグレーと、薄いグレーだ」
こいつ、本当に元商人かよ。詐欺師の間違いじゃねぇの?
ま、俺に得があるなら何でもいいがな!
「よっしゃあああああッ!!」
俺は立ち上がって拳を突き上げた。
「減価償却バンザイッ! 除却損バンザイッ! 繰越欠損金バンザイッ! 会計最高ォオオオッ!!」
こーりゃ、前世での『税理士』なんて仕事は儲かるワケですわ。だって需要しかないんだもん!!
「カネスキ、声がでかいぞ」
「おっと失礼。つい舞い上がってしまいました……ガーッハッハッハッハッハ!!!!!!」
ご覧の通り、この時の俺は、それはもう調子に乗っていました。あまりにも上手くいきすぎるもんでマジの天才かと錯覚しかけていたのです。
この後、まさかあんな恐ろしい事態になるなんて、誰も予想していませんでした。




