第4話 そうだ、業務委託で組もう!
翌日。
俺はギルドの掲示板に募集チラシを貼り出した。
【"あの"勇者パーティのメンバーを募集!】
『アットホームなパーティです。
報酬は実力や貢献度に応じて柔軟に対応可。
未経験歓迎。装備貸与あり
最低保証:月額30万リーフ
業務委託契約。福利厚生は応相談
勤務時間:日の出〜日没(応相談)
※完全週休2日制。※家族帯同可。※年齢不問。※風通しのいい職場』
うむ、完璧だな。最高のホワイト企業感が出ている。
しばらくすると、さっそく応募者が来た。
ギルドの酒場のテーブルにて。
窓から差し込む午前の陽光が、向かいに座る女冒険者の顔を照らしている。背負った盾が椅子の背もたれにぶつかってカタカタ鳴っていた。
真面目そうな顔つきだ。防御型か。
「コーダ・クサンです。戦闘能力は中の下、得意は盾です。ここで働かせてください」
「ふむ。コーダさん……君、家族構成は?」
「え? 戦闘スキルとか聞かないんですか?」
「ああ、それは問題ない」
「……夫とは離別して、子供が12人います」
――12人!? オホッ! いきなり大当たりだ!!
扶養控除が12人分。児童手当控除も12人分。家族帯同の冒険者支援制度も使える。こいつを業務委託で雇って、子供たちの養育費を一部負担すれば――
頭の中で数字がバチバチ弾けまくっているが、表には出さない。落ち着けカネスキ。ここは冷静に、紳士的にだ。
「……12人か。大変だな」
「はい……。それで、どこのパーティに行っても断られちゃいまして。『子持ちはいらない』って。夕方には帰らないと子供たちのご飯を作れないし、急に休むこともあるし……ご迷惑なのはわかってるんですけど」
コーダが俯いた。盾がまた小刻みに震える。
「夕方帰宅、全然いいぞ? 子供が待ってるんだろ」
「え……」
「急な休みも問題ない。子供はよく熱出したりするもんな。12人もいりゃ誰かしら体調を崩すものだ」
「……っ」
コーダの目が潤み始めた。
いやぁ! こいつはいい! 夕方帰宅OK=短時間勤務=報酬も抑えられるし、急な休み=稼働日数の変動=業務委託契約なら日割りで調整可能。経費効率だけが上がる最高の優良物件じゃないですか!! まさにこの俺のパーティに相応しい!!
「見たところ、その盾や装備もかなり使い込まれているな……とくに思い入れとかなければ俺が新調しておこうか? 貸与という形にはなるが」
「そんな……装備まで……ありがとうございます!」
はい、経費ー! チャリーン!!
なにやらコーダが鼻をすすっている。泣いているのか?
「あの……聞いてもいいですか? どうしてそんなに……家庭のことを考えてくれるんですか? 今まで面接したどのパーティでも、子供の話をした瞬間に顔をしかめられて……」
どうしてって? 扶養控除12人分がデカいから……とは言えないので。
「……冒険者だって人間だろ。家族のために戦ってんだ。それを大事にできないパーティなんて、長続きしない。それに……『子』は『宝』だ!」
コーダが椅子から立ち上がり、深く頭を下げた。
「ありがとうございます……ありがとうございます!! こんなに理解のあるリーダーは初めてです。一生懸命働きます。子供たちにも胸を張れるように……!」
「お、おう。とりあえず採用ってことで! 明日書類持ってきてね。子供全員の名前と生年月日がわかるやつ」
「……? 書類……ですか?」
「あー……福利厚生の手続きに必要なんだ。うん。そういうことだ」
ナイス判断だったな、俺。これで控除枠12人分ゲットだぜ。はーっはっは!
◇ ◇ ◇
午後。ギルドの掲示板前。
チラシが剥がされてないか確認しに来ると、一人の男が立っていた。
ボロボロの外套。目の下の隈。全身から漂う「金がない」オーラ。
だが目つきだけは鋭い。こいつ、ただの浮浪者じゃねぇな。
もしかしてアイツか? 噂で聞いたことがある。元天才商人。あらゆる商取引で名を馳せたが、取引先の夜逃げかなんかで連鎖倒産。今では借金まみれ。確か名前は――
「……ジーコ・ハサン?」
男がビクッと振り返った。
「な、何だ。借金取りか? 金ならないぞ。というか俺が借りたい側だ」
「いや違うわ! てかお前……この募集、気になるのか?」
「……別に」
嘘つけ。さっきからガン見してたくせに。
だが、こっちとしても都合がいい。
「お前の借金が欲しい」
「……は?」
ジーコが怪訝な顔をする。まぁそうだろうな。普通は意味がわからん。
「お前の赤字と俺の黒字を合算したら、俺の課税ショトク額が減るはずなんだ」
ジーコの目が変わった。浮浪者の目から、商人の目に。
「……お前、税の知識があるのか?」
「知識はないが……失敗経験が少しな」
「……で、俺に何のメリットが?」
「お前の借金、このパーティに入るなら俺が肩代わりしてやる。もちろん無期限無利子でいいぞ!」
「……本当か?! かなりの額だが大丈夫なのか?」
「……たぶん」
「『たぶん』か」
ジーコが苦笑した。だが、その目には諦めとは違う光が宿っている。
「……まあいい。どうせ今より悪くなりようがねぇ。乗った」
よし。赤字要員ゲットだッ! はーっはっはっはっは!
……と、笑っている場合でもない。
現状の戦力を整理しよう。
扶養控除12人分の盾使いコーダ。元天才商人で多重債務者のジーコ。
攻撃力がゼロだ。
いや、俺がいるから戦闘は問題ないか。――ただ、税制上の布陣としてはもう一手欲しいところ。
扶養控除、損益通算、ときたら次は――
「……高齢者控除、か」
ギルドの掲示板に目をやる。
夕暮れの光が差し込む中、俺のチラシの前で足を止めている人影があった。
白髪。深い皺。だが背筋はまっすぐで――腰の大剣は、柄の革が擦り切れるほど使い込まれている。
……匂うぜ。新たな勝ち筋の匂いがプンプンしやがる。




