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第31話 そうだ、苦渋をなめよう!


 ――最後。


 ダーツが、今日一番ゆっくりとした動作で書類を取り出した。



「白銀の明星の株式取引について」


 インサイダーの件だ。


「白銀の明星の株式公開前に、カネスキ殿、ジーコ殿、ダイカン殿の3名が全発行株の過半数を取得されています。公開後、株価が8.25倍に上昇した時点で大半を売却。売却益は6億8400万リーフ」


 傍聴席がどよめいた。6億8400万。市民にとっちゃ一生かかっても見ることのない数字だ。


「この取引自体を規制する法律は現時点で存在しません。よって違法とは申しません」


 ダーツが傍聴席を見回した。俺に言ってるんじゃない。市民に語りかけている。


「しかし、この株式を購入された市民の皆様にお伝えしたい事実があります。カネスキ殿は上場前に株を取得し、皆様が買った後で売り抜けています。株価が8.25倍まで上がった利益の大部分は、カネスキ殿と関係者の懐に入っています。そしてその後、株価は3.5倍まで下落しました」


 大広間がざわついた。傍聴席の市民が顔を見合わせている。自分が買った株の話だ。


「極め付けは」


 ダーツが、最後の書類を開いた。


「ゴーマン・ワイロスキー調査官について」


 ……バレてた。


「ゴーマン調査官は昨夜、収賄の容疑で逮捕されました」


 大広間が凍った。


「彼の自宅から、カネスキ殿のギルド紋章が刻印された革袋が複数押収されています。中身は金貨。総額は調査中ですが……」


 ダーツの目が、俺を射抜いた。


 お尋ねの時と同じ目。だが今は、あの時より遥かに冷たい。


「カネスキ殿。ゴーマン調査官への贈賄について、ご説明いただけますか」


 ……言い返す言葉がない。


 闇市は証拠がない。ペーパーギルドは2週間の猶予を勝ち取った。インサイダーは法律がない。


 だが贈賄だけは、動かぬ証拠がある。金貨。紋章入りの革袋。ゴーマンの証言。


 全部、俺が自分の手で渡したものだ。


 ジーコが何か言おうとしたが、俺はジーコの腕を押さえた。


 ここで言い訳しても恥の上塗りだ。こいつにだけは、無様な姿を見せたくない。



「……言い訳はしません」



 自分でも驚くほど、静かな声が出た。


「ゴーマン調査官に金銭を渡したのは事実です」



 大広間が、ざわめきから悲鳴に変わった。


「勇者様が?」「賄賂?」「嘘でしょ……?」


 コーダが後ろで泣いている。声を殺して泣いている。


 ネキーンは黙っている。黙って、俺の背中を見ている。



「勇者カネスキ殿」


 ダーツが立ち上がった。


「贈賄の容疑により、あなたを拘束いたします」


 衛兵が両脇から歩み寄ってきた。


 俺は抵抗しなかった。チート勇者の腕力なら衛兵ごと建物を吹き飛ばせる。だがここで暴れたら、本当に全部が終わってしまう。そんな気がした。



 手枷がかけられた。冷たい金属の感触が手首に食い込む。


 大広間を連行される。傍聴席の間を通る。数百の目が俺を見ている。


 その中に、カネスキッズの顔があった。


 モートが立ち上がっていた。目を見開いて、口を開けて、俺を見ている。


「キャー様……?」


 チョーが泣きそうな顔をしていた。ズートが拳を握りしめていた。マージが唇を噛んでいた。


 ……こいつらに、この姿を見せたくなかった。


 これだけは、本当に。

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