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第28話 そうだ、インサイダー取引をしよう!(2)

 ネキーンが背後から声をかけてきた。


「どうしたんだ? ネキーン。そんなに改まって」


「先日行っていた株とやら。あれは市民にも買えるのだったな」


「ああ。うちのは1口1万リーフから出してるぞ」


「……ワシにも買えるか」


 お茶を淹れていたコーダの手が止まった。


「……ネキーン。お前、株に興味あるのか」


「興味というか……」


 ネキーンが腕を組んだ。


「お前のパーティに入る少し前の法改正によってネンキンは85歳まで出なくなった。ワシは今72じゃ。あと13年。……13年、何の保証もなく生きろと言われてもな」


「……」


「だがこの株とやらの配当は四半期ごとに出るのだろう? ワシが生きてる限り、買った分に応じて定期的に金が入る。……これはワシにとっては実質、自分で作るネンキンみたいなものなのじゃ」


 なるほど。ネキーンにとっての株式は投資じゃない。老後の資産なのか。国が出さないなら自分で作る。なんかどっかの日本みたいで世知辛いなこの世界ホンマ。


「……それなら、俺たちのギルド以外に《《新しい方》》も買っておけ。確実に儲かるし、こっちは1口5000円で出すつもりだ」


「『確実に儲かる』……カネスキ、そりゃ詐欺師の常套句じゃぞ?」


「ハハハハハハ!! 言ってくれるなジジイ。だが、今回だけは違うんだよ。なんなら後払いでもいいぞ?」


 ネキーンが鼻を鳴らして笑った。……俺の態度を見て状況を悟ったらしい。


「かまわん。今ある全額、とりあえずこれで買えるだけ買っておいてくれ」


 なかなか賢いジイさんだ。いいねっ!!



「……あの」


 コーダが小さく手を挙げた。


「私も……買えますか」


「え、コーダが? お前はコンナコト無縁だと思っていたが……」


「子供たちの名義で、10口ずつ。62人分」


 つまり実子12人と養子50人。全員分か。


「持ってる限り配当が出るなら、少しずつでも貯まっていくのでしょう? この子たちが大きくなった時に、何か残してあげられるものがあるなら……」


 な、なんていいことを言うんだ……!!


 単純なカネスキくん。これには大感動。


「……620口で310万リーフ。なかなかの大金だぞ。本当に出せるのか?」


「討伐報酬の貯金から。……大丈夫……これくらいなら」


 嘘つけ。いくら爆絶ホワイト企業の勇者パーティにいるからといって、12の子を持つシングルマザーがポンと出せ得る金額ではない。


「なら、孤児の分は俺が出すよ。というより黄金の天秤の共有資産から出そう!」


 元々俺が引き取った子供たちだしな。カネスキッズが順調に成長してくれるためにも、ここは俺が持っておこう。という打算を込めた発言だったのだが、コーダは涙ぐんでいた。



 ◇ ◇ ◇



 白銀の明星の株式を一般に開放した。


 ギルド窓口の隣に、新しい看板が立った。


『白銀の明星 株式公開 1口5000リーフ 勇者様のギルドから完全独立 我々の実力に投資せよ』


 黄金の天秤よりも手の出しやすい価格設定にしたのはジーコの判断だ。入口を広くして頭数を稼ぐ。マーケティングの基本だな。



 反応は――バカみたいによかった。


 前回、俺たちのギルド株で「配当」の旨味を知った市民が、乗り損ねた者たちが、次の投資先を血眼で探していたのだ。渡りに船とはこのこと。


 初日で200人。2日目で1300人。3日目にはダイカンが例によって公の席で「白銀の明星にも出資した」と宣言し、またしても火がついた。あの男の求心力は異常だ。本人がステマという言葉を知らないだけで、天性の才能を発揮している。


 株価は、初値の3倍になった。


 ……そして1週間後。



 15倍。



「……今だ」



 ジーコの合図。


 俺たちは持ち株の大半を、市場に放出した。


 買値の15倍。仕込み値との差額が、そっくりそのまま利益になる。



「利益、総額で――13億2000万リーフ」



 13億2000万。


 前にチン・ピラデスに払うはずだった額は2000万だった。その66倍を、たったの数日で稼いだ計算になる。


 はーっはっはっはっは! 錬金術もビックリだろッ!!


 ……だが。


「カネスキ」


 ジーコの声が、少しだけトーンが低かった。


「株を売った後、白銀の明星の株価が動いてる」


「……どっちに」


「下だ。15倍から6倍まで落ちた。大口が一気に抜けたんだから当然だな」


 6倍。買値から見れば6倍だから、初期に買った人間はまだプラスだ。だが15倍の時に買った人間はどうなる。


 含み損だ。


「新しく買った市民の中には、高値で掴んだやつがいる」


「……何人くらいだ」


「わからん。ただ、3日目以降に入った連中は10倍超えの価格で買ってる。こいつらは今、半値以下だ」


 半値以下。つまり、100万リーフ突っ込んだ奴の手元に50万リーフ分の価値しか残ってない。


 白銀の明星自体は健全なギルドだ。実態がある。冒険者が所属して、依頼を受けて、報酬を稼いでる。業績が伸びれば株価は戻るかもしれない。


 かもしれない、だ。保証はどこにもない。


 ……あの片腕のギルドマスターの顔が浮かんだ。実直な男だった。俺を信じて株式化に同意してくれた。こいつのギルドの看板を使って、俺たちは13億を抜いた。


「ネキーンとコーダの持ち株は?」


「二人とも上場前に買ってる。含み益は出てるよ。損はしてない」


「……そうか」


 損はしてない。だが知らないうちに、俺と同じ側に立たされている。「上場前に株を持ってた内部者」だ。二人ともそんな自覚はないだろう。ネキーンは年金の代わりだと思ってる。コーダは子供の将来のためだと思ってる。


 純粋な動機で買ったものが、結果として「インサイダー」の証拠になりかねない。


 ネキーンの声が頭の中で響いた。『教えるだけ教えて、手は汚さん』。


 ……違う。今回は違う。今回は自分の手も汚したし、知らないうちに仲間の手まで汚させちまった。



「ま、稼いだことに変わりはない」



 ――カネスキは考えるのをやめた。



 俺はいつもそうだ。不都合な感情にはシャッターを下ろして見なかったことにする。直視したら動けなくなる。そうなりゃ、もう終わりだ。


 ……いいだろ別に。みんな儲かってんだから。な?



 ◇ ◇ ◇



 王国税務省。臨時執務室。


 ダーツの机に、見慣れない書式の報告書が載っていた。


 株式取引。この世界にまだ1年も経っていない概念だ。報告書の書式すら定まっていない。税務省の誰かが急ごしらえで作ったフォーマットに、数字だけがびっしりと並んでいる。


 白銀の明星。上場直後の株価急騰。大口保有者による大量売却。


 ダーツは大口保有者の名前を確認した。


 カネスキ・マドカ。ジーコ・ハサン。ダイカン・アクトク。


 3名とも、白銀の明星の設立に関与した人間。上場前に株式を取得し、上場後に売り抜けている。


 ダーツはペンを取った。


 『白銀の明星 株式売却益の調査開始を上申』

 『手法:上場前の関係者による株式取得→上場後の売り抜け』

 『該当する法律の条文は現状存在しない』


 ペンが止まった。


 条文がない。この取引を裁く法律が、この世界にはまだない。カネスキが持ち込んだ「株式」という概念に、法整備が追いついていない。


 課税もできない。違法とも言えない。だが13億が動いた事実は消えない。


 ダーツはもう一行だけ書き足した。


 『株式取引に関する税法の早急な整備を併せて上申する』


 引き出しからカネスキのファイルを出した。ペーパーギルド。闘市ルート。マルチとの関連。そして株式。


 点が増えていく。まだ線にはなっていない。


 だが、これだけの点が揃えば、いずれ線になる。必ず。


 ダーツはファイルを閉じて、引き出しに戻した。

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