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第27話 そうだ、インサイダー取引をしよう!

 株式販売を始めてから1ヶ月。


 黄金の天秤の株は順調に売れ続け、出資者は600人を突破した。配当も予定通り四半期ごとに出すことでまとめた。市民の反応は上々。「"勇者サマ"に投資できる」というわかりやすさが相当信用を得られたらしい。


 税務省は案の定パンクしているみたいだ。配当所得の法整備は遅々として進まず、調査委員会は週3回の会議を重ねてもまだ条文の叩き台すらできていないらしい。お上の行動の遅さどこの世界も同じなんだなぁ。きっとダーツの野郎も今ごろストレスでヤケ酒でもキメているに違いない。……いや、あいつはそんなことしないか。


 なにはともあれ、全ては計画通りッ!

 

 あとは市民の皆さんにお任せするとして……俺たちはこの機会にさらに羽ばたいて見せるぜ!


「ジーコ。フランチャイズの1号店は今どうなってる?」


「『白銀の明星』か。絶好調もいいとこだな。月間の依頼達成数が独立ギルドの中で既にトップ3に入ってる。黒字も安定してきているし、常連客も順調に獲得できてる」


「いいじゃん! 評判は?」


「文句なしだ。カネスキの看板で始まったギルドだが、今はギルドマスター自身の実力と手腕で回ってる。冒険者からの信頼も厚い」


「……ほう」


「……今度は一体何を思いついたんだ? その顔」


 ジーコには既にお見通しらしい。なんだかんだんで付き合い長いからなぁ。



「白銀の明星も、株式化しちゃおうっかな〜……なんて」


「それはいいんじゃないか? 実際、黄金の天秤(うち)で成功してる事例もあるし。民衆の利にもなっている。まぁ、税も増えるのは癪だがな」


「いや、同じようにとはいかない。一つだけ明確に違う、《《悪いこと》》をするつもりだ」



 俺はテーブルに身を乗り出した。



「IPO……つまり新規で株式を上場――あぁ、この世界だと株式公開にあたるな。それをする前に俺たちで『白銀の明星の株』を大量に買っておく」


 ジーコが固まった。


 ゆっくりと椅子に座り直し、俺の顔をまじまじと見た。こいつがここまで反応に時間をかけるのは珍しい。


「……カネスキ。もう一度言ってくれ。聞き間違いじゃないことを祈りたい」


「呆けたのか? ジーコ。白銀の明星の株を発行する。で、公開する前に身内だけで大半を買い占める。俺たちとダイカン、場合によっちゃチンたちワルイカーネ・ファミリーの幹部に声をかけたやってもいい。そのメンツで大半を押さえる」


「……」


「十分に仕込んだところで一般にも開放。フランチャイズ1号店、勇者カネスキのお墨付き、月間トップ3の実績――この肩書きの銘柄が"市場で売買可能になったら”、どうなると思う?」


「買値は跳ね上がるな」


「つまり?」


「……俺たちだけが高値で売り抜ければ爆益、というわけか」


 ジーコが両手で顔を覆った。


「お前な……これこそリザードレースの時に言っていたインサイダー取引そのものじゃないのか? 規模も全然違うぞ」


「ま、そうなるな。公開前の内部情報を使って株を買い込んで、値上がりしたところで売る。まぁ……倫理的にはどの世界でもアウトだろうが、この国には|まだないんだろ?」


「ないな。インサイダー取引を禁止する法律なんてモンは」


「だろ〜〜〜?? つまり初回の関してはほぼ確実に犯罪ではない……というより有罪にはなり得ない」


 ジーコが額に手を当て天を仰いだ。机をトントンと指で叩き何かをボソボソと呟いく。そして、再度俺の顔を見た。彼の目は帳簿をいじる時の、あのイヤらしい目に変わっていた。覚悟を決めた時のジーコだ。


「……理屈は通ってる。通ってるのが腹立つがな。だが手順を一つでも間違えたら一発で終わるぞ。やるなら細心の注意を払え」


「OKだ! さすがジーコ。話が早い男は好きだよ俺」


「気色悪い褒め方をするな。……それと、白銀の明星はフランチャイズとかいうやつなんだろ? 株発行なんてできるのか?」


「ああ。それは完全に独立させれば問題ない。ロイヤリティはなくなるが、インサイダーIPOの方が数百倍儲かるからな。今の彼らなら『勇者の看板』がなくても十分やっていけるだろう」


「なるほどな」



 ◇ ◇ ◇



 白銀の明星のギルドマスターに連絡を取った。


 フランチャイズ1号店。片腕を失って引退した元B級冒険者で独立支援の時に真っ先に手を挙げたあの男だ。剣は振れなくなったが、実直で仲間からの信頼は厚い。ギルド経営もまじめにやっている。


 ……だからこそ、使える。


「株式化、ですか?」


 首を傾げた。


「ああ。黄金の天秤でやったのと同じ仕組みだ。白銀の明星の所有権を分割して、出資者を募る」


「でもこのギルドに勇者様はいないっスよ。看板を外すならなおさらです……出資する人なんて集まるのやら……?」


「大丈夫だ。月間トップクラスの実績と安定した黒字。それに"前例"がある。この三つで十分に食いつく層はいる。むしろお前はもっと自分に自信を持て」


「……勇者カネスキ様がそう言うなら。でも仕組みとかはうちのギルドのモンにはさっぱりで、そのへんは――」


「任せろ」


 ジーコがニヤリと笑いながら書類を広げた。もう株式の発行スケジュールが組んである。こいつ、いつの間にか準備完了しとるやないかい。つい最近まで怪訝な顔してたくせに、ゲンキンなやつめ。



 ◇ ◇ ◇



 ついに白銀の明星の株式の発行した。


 最初の販売は「関係者限定」。ギルドメンバー、俺、ジーコ、ダイカン・アクトク。とりあえずこの内輪だけで全体の7割をガッチリ押さえた。


 当然、俺とジーコで全発行株の51%は保有してある。独裁する気はないが念の為だ。


 ダイカンには事前に全て話してある。


「インサイダー……? 聞いたことのない言葉ですが、要は先に仕込んで後から高値で売る、ということで間違いありませんかな」


「端的に言えばそうですね」


「ふふふ。それは商売の基本ではないですか。安く仕入れて高く売る。至極当然のことで何も問題はありませんな!」


 そう単純な話ではないのだが、にしてもこの男……金が絡むと倫理のハードルが地面の底まで沈みやがる。だがそんなところが非常にイイ。頼もしい同志であり頼もしすぎる共犯者なのだッッ!!



 ◇ ◇ ◇



 仕込みが一段落した夜。拠点で帳簿の整理をしていると、コーダがお茶を持ってきた。


 その後ろからネキーンがのそっと現れた。


「……カネスキ。少し聞きたいことがある」



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