第24話 そうだ、反社と組もう!
「はぁ? 飲みにきた?」
「あんたらの知恵のおかげで今回のシノギは絶好調だ。礼をさせてくれ」
マフィアのボスが勇者の拠点に酒持って仲良く遊びに来やがった。何なんだこの状況。こんなとこ市民の皆さんに見られちゃマズすぎるッ!!
俺が反社だと誤解されたらどうしてくれるんだ!
「は、早く入りなさいッ」
こうしてその夜、俺たちは誠に不本意ながらマフィアと酒を酌み交わすことになった。
チン・ピラデスは意外と話の面白い男だった。裏社会の成り上がりで、元は港の荷運びだったらしい。叩き上げの人間は、立場が違っても話が合う。気付けば謎にネキーンとの腕相撲が始まっていた。72歳vs元荷運びのマフィアボス。絵面はヤバいが二人ともなんだか楽しそうだった。
コーダは「子供に見せられない光景……」と呟きながらも賑やかなのが嬉しいのか、穏やかな顔を向けながらつまみを作っている。
で、問題はこっちだ。
メガネくんがジーコの隣に座って、嬉々として報告を始めやがった。
「あの仕組み、1週間で会員が300人も超えましたよ」
「300人。早いな」
「で、少々面白いことが起きまして」
ボウがモノクルの奥で目を輝かせている。酒が入ると結構喋るタイプなんだな。
「会員の何人かが気づいたんです。『これ、商品なくても会員から会費とれば紹介だけで回せるんじゃね?』って」
「……あー」
「おいメガネくん、まさか入会金以外に会費とか取っちゃったりして……?」
「ええ。もちろんですよ勇者殿。商品売上をなくしたのですから、分配する金を”どこからか”調達しなくては。原価ゼロなので利益率も段違いになりましたよ」
……あーあ。終わっとる。
まだオフホワイトだったマルチが、完全に真っ黒のネズミ講になっちまった。まぁ反社に「合法でやれ」って言う方が無理な話だったか。
「あとセミナーも大好評でして」
「知って――あ、いや。セミナー?」
「ええ。旧集会場を借りて、成功体験の共有会を開催しているんです。会員の結束力を高めつつ、新規会員の獲得も同時に行える。実に合理的でしょう?」
合理的。うん。確かに合理的だ。構成員が壇上で泣きながら「人生が変わりました」と叫んで騙すのが倫理的にいかがなのかは議論の余地があるが。
「次回は『ファミリー感謝祭』と銘打ちまして。ボスが直接登壇する予定です」
「え」
俺はチンの方を見た。腕相撲でネキーンに負けて悔しがっている強面が、次回のセミナーで壇上に立つ。いや、無理だろ。どう見ても反社丸出しじゃん!
「チン。お前もあれに出るのか」
「おう。『家族のような組織です』って挨拶するんだと。ボウが原稿書いてくれてな」
家族のような組織。元締めがマフィアのファミリーだから、ある意味間違いではないが……
「ボスには『スーツではなく白シャツで。清潔感が大事です』と申し上げました」
「顎の刀傷はどうすんだよ」
「『苦労人の証』として演出に組み込みます」
メガネくんのプロデュース力が怖い。ヤクザなんてやめて広告代理店にでもいった方が楽に稼げるだろうに。
そこから、うちの経理とメガネくんは延々と数字の話をしていた。帳簿の組み方だの裏金の効率的な動かし方だの、聞いてるこっちが不安になるような話題で盛り上がっている。
途中、ボウがジーコにちらりと視線を向けた。
「……ジーコさん」
「なんだ」
「あなたほどの方が、なぜこのビジネスに入らないんです? あなたが参加すれば、ダイヤモンドランクも時間の問題でしょう。なんなら我々と同じ運営幹部に入りませんか?」
おっとこれはいかん。メガネくんがうちの悪徳ナイスガイに引き抜きをかけはじめやがった。
俺が剣に手をかけようとしたその時、ジーコは酒をひと口含んで静かに言い放った。
「俺は仕組みを作り、欺く方が性分でな。軌道に乗ったものを擦ることほどつまらないものはない」
「……ッ」
ボウの片眼鏡が光った。
「……か、かっこいい……ですね」
惚れんなよ? お前。
「いつかあなたと同じ側に立ちたいものです」
「フっ。精進するといい」
ジーコがにべもなく返す。だがメガネくんの目はますます輝いていた。この2人の関係性、ヘンな方向に発展しないだろうな……?
さらにもう一つ、いい副産物があった。
「そういえばジーコ。最近ダーツの野郎を全然見ないな。あのサイコストーカーにっしちゃ珍しくないか?」
「ああ、それな。税務省の目がチン・ピラデスの新ビジネスに向いてるらしい。急拡大が目立ったんだろう。まだワルイカーネ・ファミリーや裏社会との繋がりは掴めてなさそうだが、金の流れについてはかなり重点的に調べ始めてるな」
「……ってことは」
「俺たちへの監視が、ほんの少しだが緩んでいることは事実だな」
棚ボタだ。狙ったわけじゃない。マルチを教えたのは2000万を帳消しにするためであって、ダーツの目をそらす意図は微塵にもなかった。
昨日のセミナーを思い出す。壇上で泣く構成員。拍手する大勢の一般市民。街中に広がるピラミッドの図。「今日だけ5万リーフ」に手を挙げる人たち。
あれが全部、ダーツの捜査リソースを吸い上げているのだ。
俺たちが撒いた種で。
……ネキーンの声が脳裏をよぎった。『教えるだけ教えて、手は汚さん』。
うるせぇ。考えるな。よく考えるとなんか俺が悪いやつみたいではないか! 悪は勝手にネズミ講にした反社どもなのである! ここは一旦思考停止に徹しよう。
……はーっはっはっはっは! 結果オーライってことでッ!
「てことで勇者殿、黄金の天秤の皆さん、これからも末永いお付き合いをよろしくたのむ! なにか面倒なことあったらいつでも言ってくれ、力になるぜ!」
図体の割にニッコニコで手を出すチン・ピラデス。
ええ。まじで嫌だな……反社と関係をもつと絶対ロクなことにならん。とはいえ、億が一にも戦闘力で負けることはないから、まぁいいか。よかった! 勇者で!
手を取り深い握手を交わした。
――こうして俺たちは、ダイカン・アクトクに次ぐ第二の権力者を味方につけてしまったのであった。
表にダイカン。裏にチン・ピラデス。
勇者パーティの交友関係が、だいぶヤバいことになってきた気がするが……
ま、いっか。人脈は財産ってやつだ! なんなら次は聖女か魔王でもゲットしちゃおっかなァ……ウフフフフフ。
――この後しばらくして、まさかこの言葉が本当に実現することになるとは、この時のカネスキは毛頭知る由もなかったのでッッッ!!!




