第21話 そうだ、ペーパーギルドを作ろう!
さて。表の顔は完成した。
各地に独立ギルドが8つ。節税相談窓口は毎日満員御礼。「冒険者を救う勇者」の評判はうなぎ登り。世間的には立派な社会貢献事業ってやつだ。
じゃあそろそろ、裏の顔を仕込むとしますかな。ウッフッフ……
「ジーコ。8つもギルドがあると、外から見た時の金の流れは相当ごちゃつくよな?」
「ああ。俺ら印の各ギルドが独自に依頼を受けて、報酬を受け取って、経費を使ってる。ダーツが俺らの関与を全部追うなら8組織分の帳簿を精査しなきゃならん」
「その8つの中に……実態のないギルドが何個か混ざっていたらどうなる?」
この言葉にジーコの目が光った。こいつもう全部わかったらしい。
「つまり……ペーパーギルドか」
「Exactly Yes! 話が早くて助かるよ。マジなギルドがこれだけ揃えば、中にハリボテが1つや2つ紛れこんでても、どれが本物でどれが偽物か、書類上じゃ見分けがつかないだろう?」
「そうだな。登記上の見た目は同じだ。事業所の住所があって、代表者がいて、活動報告が出てりゃ区別は不可能に近い。例の野郎でも真偽の判断には相当時間を食うはずだ」
「よし。じゃあ作ろう!」
「OKだ」
そうして俺たちは即刻ペーパーカンパニーよろしく、ペーパー冒険者ギルドを立ち上げた。
その数計5つつ。どれも名ばかりでなんの実態もない、まさしく「架空ギルド」である。まあ受付に何人か業務委託で置いてはいるが、どれも仕事熱心とは言えない、いてもいなくてもどっちでもいい存在を敢えて雇った。
つまるところ、いつでも飛べるのである。
前世日本でのプラ◯スゴールドやジュ◯リー◯ースを彷彿とさせるね〜
(※詳しく知りたい方はGoogle検索かけてみてね☆)
「で、代表者名なんだが――」
ジーコがリストを差し出した。
『聖竜騎士団』代表者:ネキーン・オイシ
『東方調査団』代表者:シャホ・オイシ
『蒼穹遊撃隊』代表者:コウセイ・オイシ
『鉄壁防衛連合』代表者:コヨウ・オイシ
『暁の剣』代表者:マサヨシ・オイシ
「なんこれ? 全部ネキーンの……」
「実在する血族だな」
「72歳の元冒険者。引退した大ベテラン。そのクラスの家族や親戚が後進育成のためにギルドを立ち上げた。経歴だけ見れば一番自然だ」
「ええ。お前……ないわ〜。それは流石にアレなんじゃねぇの? モラル的にダメというか……てか、本人に許可取ってんのかよ」
「バカか、カネスキ。そんなもん聞いたら、当然断られるだろ」
あちゃー
ネキーンも変なパーティに巻き込まれて可哀想なジジイだなぁ。(こいつが元凶である)
◇ ◇ ◇
数日後、拠点内に地響きみたいな声がして俺たちは飛び起きた。
「ジーコォォォォォッ!!!!」
ネキーンだ。どうやらことの顛末を知ったらしい。
「ワシの名前をッ!! 血族までもッ!! 勝手に使いおってからにッ!!」
「おっと。すまなかった。でも聞いたら断るだろう?」
「当然じゃッ!!」
「そういうことだ」
「おい小僧! それは合理的とは言わんぞッ!! 詐欺と言うんじゃッ!!」
正論がすぎる。だがジーコは全く悪びれていない。こいつ、いつか絶対に痛い目に遭ってほしい。神とやらがいれば、今ですよ! こいつに天罰を! さあ!!
「大体なんじゃこのギルド名はッ!」
ネキーンがリストを引っ掴んだ。
「『聖竜騎士団』ッ!? ワシは54年間冒険者をやっとるが聖竜なんぞ一度も見たことないわッ!」
「名前は――」
「『鉄壁防衛連合』ッ!! ワシの一族は皆攻撃型の大剣使いじゃッ! 防衛なんぞワシらの辞書にはないッ!」
「辞書の話では――」
「『東方調査団』ッ!! 東に何があるかなど知るかッ! 調査しようなどと思ったことすらないわッ!!」
爺さんの肺活がフルで稼働している。それはマジに激昂を体現していた。
コーダが横でお茶を飲みながら見守っている。こいつ完全にこのお怒りショーの観客と化してやがるな。
「……ネキーン。悪かった。だがもう登記しちまったんだ。取り消すと逆に怪しまれる」
「……ッ」
「お前はいつも通りにしてりゃいい。名前を使わせてくれるだけでいい」
ネキーンが天井を仰いだ。
すまんな爺さん。でもアンタの経歴が一番自然なんだ。恨むならジーコを恨んでくれ。本当に。お、俺は悪くない。絶対に。
◇ ◇ ◇
爺さんの怒りが収まったところで、本題だ。ペーパーギルドで何をするか。
ジーコが紙にサラサラと図を描いた。
「黄金の天秤が『聖竜騎士団』に装備修繕費200万リーフを払う。帳簿上はな。実際には1リーフも動かない」
「それで?」
「『聖竜騎士団』から『東方調査団』にコンサル費を払う。名目は冒険者指南でも節税でもギルド経営でもなんでもいい。そして『東方調査団』から『蒼穹遊撃隊』に業務委託費。ぐるっと回す。全部帳簿の上だけで完結させる」
「なるほど。全組織で架空の経費が増えるというわけか。実際の金は1リーフも動いてない」
つまりこういうことだ。存在しない仕事に、存在しない金を払う。帳簿の見かけ支出だけが太って、課税所得は痩せていく。
これこそまに錬金術である。賢者の石とは、もしかしてコレのことだったのか?
「闇市ルートで売上を減らして、ペーパーギルドで経費を増やす。攻めと守りの両面作戦だ。試算だとSランククエストを受けても、今期の課税所得は半分以下になる」
半分以下。
い、いいねぇ……非ッ常〜にいいじゃないのッ!!
「ただし、その分管理は大変になる。実態ギルド8つとペーパー5つ、合計13組織分の帳簿を矛盾なく維持しなきゃならない。一箇所でも数字が合わなかったらそこから崩れちまうからなぁ」
「お前一人で回せるのか」
「それなんだが……マージにも帳簿の整理を手伝わせる」
コーダの表情がピクッとなった。
「子供に犯罪の片棒を担がせるの?」
「……内容は帳簿の整理だけだ。中身が架空だということは伏せておく」
「……それは、それで……」
「コーダ」
ジーコの声が低く重くなる。
「子供たちに裏の顔は絶対に漏らさない。これだけは俺たち4人の間で守る」
全員が頷いた。
ここだけは、冗談じゃなかった。
いつか――彼らが独り立ちして、俺と同じく「税」への憎しみに染まったら……こちら側への立ち入りも検討するとしよう。
今のカネスキッズたちには清純無垢でいてほしいものだ。親心には無縁なはずなにだがな……
◇ ◇ ◇
王国税務省。臨時執務室。
ダーツの机に、各地から取り寄せたギルドの登記書類が積み上がっていた。
勇者カネスキの影響で独立ギルドブームが起きていることは把握している。生産性、独自性の双方で名を馳せるギルドが次々と生まれ、冒険者ギルド協会の中央集権に風穴が開き始めている。
その中に、気になるものがあった。
ダーツは5枚の登記書類を横に並べた。
設立日が全て同じ。年齢や住所こそ別だが、代表者が全て同じ「オイシ」の姓を持つ。
5つの組織が、短期間に、同じ括りともとれる名義で登記されている。
ダーツは書類を重ねて引き出しに仕舞い、代わりに白紙の紙を出した。
『オイシ名義 登記5件 実態確認の必要あり』
ペンを置いて、もう一度登記書類に目を落とした。
『聖竜騎士団』
……名前だけは"一流"だな。
ダーツの口元が、ほんの一瞬だけ動いた。




