第17話 そうだ、研修旅行にいこう!
ドラゴンバスという乗り物がある。
巨大な飛竜が引く、空飛ぶ移動要塞だ。定員60名。レンタル料は1日で普通の冒険者の月収を超える。
当然、経費である。
「冒険者育成プログラムの研修費。ドラゴンバスのレンタル代。交通費49人分。宿泊費49人分。食費49人分……」
ジーコが帳簿に数字を並べていく。
「これぞ、数の暴力だな」
先日保護した難民キッズが30人。コーダの子供たち12人。黄金の天秤メンバーが4人。カン・リーニンと世話係2人で合計49人。この大所帯を丸ごと「外地研修」という名目で旅行に連れて行くことにしたのだ。保育園での生活も悪くはないハズだが、たまにはパァーッと羽を伸ばさなくてはな!
◇ ◇ ◇
街の外れにあるドラゴンバス発着場。全員が集合した。
ガキ共のテンションが天井を突き破っている。
「楽しみだなー!」
「ドラゴンって本当にいるの?」
「キャー様、まだー?」
もうすぐ来るから静かに待ってなさい!
そして、それは空から突然やって来た。
巨大な影がゆっくりと降りてくる。でかい。リザードの10倍以上だ。翼を広げれば30メートルは裕に超えるだろう。深い青色の鱗が陽光を受けて宝石のように輝いている。
こんなん従えられるなら、これで魔獣とか狩ればいいのに……
「「「う、うわああああッ! ドラゴンだッ!!」」」
子供たちが一斉に叫んだ。
飛竜が引いているのは、巨大な馬車だった。いや、馬車というより移動する屋敷だ。3階建てで、1階は革張りの座席が並ぶ客室。2階は大食堂と調理場。3階は個室の寝台車に展望デッキ。窓は全面ステンドグラスで色とりどりの陽光が差し込む。壁には金の装飾や謎の絵画。床にはなにやらただならぬ高級感を放つ絨毯が、隙間なく敷きつめられていた。
「こ、これ……いくらするの……」
コーダが震える声で聞いた。
「1日50万リーフだ。一人あたりな」
白目を剥いて気絶するコーダをよそに、キッズたちは歓声を上げながら乗り込んでいく。
「キャー様、ありがとう!!」
「キャー様最高!!」
「キャー様大好き!!」
いつのまにかあり得んくらい懐かれた。
ただ、君タチ勘違いをしてはいけないヨ? これは先行投資なのだ! 出世したらしっかりと俺を甘やかせてねっ♡
◇ ◇ ◇
離陸。
ドラゴンバスが空に浮かび上がると、子供たちは全員展望デッキに張り付いた。
「すごーい! 森が小さく見える!」
「雲に手が届きそう!」
「鳥さんと同じ高さだ!」
俺はというと、2階の食堂の席で領収書を整理していた。ドラゴンバスのレンタル料、燃料費(飛竜の餌代)、操縦士への報酬。諸々含めて全額経費にできるように詰めていく。
「カネスキ。お前は景色を見ないのか?」
「フッ。俺は大人なんだ。この程度でいちいち浮かれるわけなかろう。それに、やることがある」
「……そうか。帳簿なら変わってやろうと思ったが」
俺は弾かれたように3階へ駆け上った。
そうじゃん! ジーコが経理だった。ナァ〜イス!
にしても……絶ッ景であるッッッッッッッ!!!!
◇ ◇ ◇
最初の目的地、エルフの里。名目は「異文化交流研修」。
子供たちが目を丸くしている。森の中に溶け込むように建てられた美しい建築物。長い耳。透き通るような肌。
「耳が尖ってる!」
「髪がキラキラしてる!」
「きれい……」
ネキーンが子供たちにエルフの里の歴史を語っている。ここに来たのはこの前の視察が初めてだったくせに、噂で聞いた知識だけでそれっぽく解説していた。爺さんの知ったかぶり力はA級だ。
一番年上のモートが他の子供たちをまとめている。
「みんな、並んで! キャー様とエルフの人たちに迷惑かけるな! ほらチョー、お前の並べ」
「モート兄ちゃん、厳しい!」
こいつ、11歳で既に人をまとめる器がある。将来うちのギルドの幹部にしてもいいかもしれん。
◇ ◇ ◇
ドワーフの鍛冶場。名目は「装備技術研修」。
山の中腹にある巨大な洞窟。中に入ると熱気が肌を刺す。溶けた金属の匂い。ハンマーが鉄を打つ音。火花が散る。
「師匠! あれ何作ってるの!?」
「ふむ、あれはミスリル合金の剣じゃな。焼き入れの温度が命でな、熱すぎても冷たすぎてもダメなのじゃ」
ネキーンが張り切って解説している。泣き虫だったズートが、目を輝かせてドワーフの職人の手元を見つめていた。
「師匠! 僕も強い剣が欲しい!」
「まずは木の棒で修行じゃ。百年早いわ!」
「そ、そんなァ……」
ネキーンが嬉しそうにズートの頭を叩く。弟子の成長が嬉しくて仕方ないんだな。よかったね。
別の一角ではジーコがマージを連れて、鍛冶場の仕入れ値と販売価格を調べていた。
「この剣、素材費が15万リーフで加工費が7万。販売価格が50万だ。利益率は?」
「56パーセント!」
「正解だ。じゃあ、この鍛冶場が1日に剣を3本作って、月に22日稼働するとして、月間の最大利益は?」
「えーと……1848万リーフ!」
「……やるな」
ジーコが苦笑した。
と、そこでマージがジーコの帳簿を覗き込んだ。
「ジーコ先生。この3ページ目の数字、間違ってます」
「……なに?」
「ここ、ケタが一つずれてます!」
ジーコが帳簿を確認する。顔が青ざめた。
「……本当だ。お前、俺より計算が正確だな……」
将来の経理担当、もう確定だろこれ。
◇ ◇ ◇
三箇所目。名目は「物流と交易の実地学習」。
水の都アクアーレ。
運河が街を縦横に走り、建物が水面にせり出すように建っている。石造りの橋がいくつも架かり、その下を小舟が行き交う。潮風に乗って魚介の匂いが漂ってくる。異世界版ヴェネツィアだ。
「うわぁ……街が水の上にある……!」
「船がいっぱい!」
「お魚の匂いすごい!」
子供たちが運河沿いの遊歩道を駆け回っている。内陸の村で育った孤児たちにとって、海も運河も船も全部が初めてだ。
だが今日のメインはここじゃない。
「あっちだ。行くぞ」
俺が指差した先に、巨大な建物がそびえていた。
三つ星レストラン『エル・サウダージ』
この街の魚市場直送の海鮮を売りにした名店らしい。
「お待ちしておりました。勇者様、黄金の天秤の皆様」
半年後まで予約で埋まっているらしいが、ダイカンの口利きでスンナリ入れた。
やっぱり持つべきものは(権力のある)友デスヨネ〜!!
テーブルに次々と料理が運ばれてくる。
まず前菜。生牡蠣の盛り合わせ。レモンを絞って啜ると、海そのものが口に飛び込んできた。磯の香りと、芳醇なミルクみたいな甘み。前世で食った安物の牡蠣とはまるで別の生き物だ。
メインは炭火焼きの大海老。腕くらいある巨大な海老が、殻ごと焼かれて皿に乗っている。かぶりつくと、パリッと弾けた殻の奥から、プリプリの白い身が溢れ出した。甘い。旨い。脳がバグる。葡萄酒ともよく合うッッッ!
「キャー様、この白いの美味しい!」
チョーが手づかみで食ってる。白身魚のカルパッチョだ。コラコラ、もうちょい上品に食べなさい。
「こっちのスープもすごいよ!」
モートが差し出してきたのは魚介のブイヤベース。一口もらったら、エビと貝と白身魚の旨味が渾然一体になって押し寄せてきた。なんだこれ、本当に合法なのか!?
ネキーンは蟹の爪のバター焼きの前で涙ぐんでいた。故郷が山奥で、海の魚は一生に一度の贅沢だったらしい。好きなだけ堪能したまえ、爺さん。
マージはジーコと一緒に、メニュー表の価格と市場の仕入れ値を見比べて原価率を計算していた。こいつらはいつも忙しないなぁ。
デザートは冷製の果物ジェラート。口の中がさっぱりして、全員が幸せな顔をしている。
最高の昼飯だった。
店を出ると、運河沿いの遊歩道に午後の陽光が降り注いでいた。子供たちが腹をさすりながらのんびり歩いている。
前世では信じられないくらい穏やかな昼下がり。ちょいと昼寝でもして、この余暇を噛み締めたいものだ。
と、その時。
「おや。勇者様。こんなところで奇遇ですね」
聞き覚えのある声。
振り返ると、ダーツ・ゼイ・キライが立っていた。
私服姿。手には新鮮な魚が入った紙袋。
「またお前かッッッッッ!!!」
ちなみに子供達の名前ですが、苗字は里親のカネスキを引き継ぐので、
最年長のリーダー:モート・カネスキ
天才計算少女:マージ・カネスキ
泣き虫の男の子:ズート・カネスキ
その他:チョー・カネスキなどなど……(これから増えるかも?)
あと、ここま読んでいただだけたということは、皆さんも税金が大キライなハズ!!
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