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第15話 そうだ、養子を取ろう!


 ――Sランククエスト。


 冒険者協会が発行する依頼の中で、最高難度に分類されるやつだ。普通のギルドなら一生に一度受けるかどうか。報酬もその分、ケタが違う。



『南方のクルーズ地方において、「星喰らいのベヒーモ」が出没。

 複数の集落が壊滅。王国騎士団第三中隊およびA級冒険者パーティ5組が討伐に失敗。

 至急、高ランクパーティの派遣を要請する。

 報酬:応相談(王国特別予算より拠出)』


 ――応相談。つまり言い値で出すってことだ。この言葉ちゅき♡



「報酬交渉は俺に任せろ」


 ジーコの目が光った。こういう役柄はもう決まったな。弁が立つし、なにより俺にはない「即興での対応力」が異常だ。


「……星喰らいのベヒーモ、か」


 ネキーンが腕を組む。


「ワシも若い頃に噂だけは聞いたことがある。体長20メートル超え。星の魔力を喰らって成長する古代種と言われている。まさに厄災。まともに戦えば、A級パーティとて壊滅は必至じゃろうな」


「騎士団の皆さんも……」


 コーダが青ざめている。


「では行きますかッ! 金になるしね」


 軽い一言のつもりだったが、全員の顔が引き締まった。



 ◇ ◇ ◇



 クルーズ地方に着いた時、そこはもう戦禍の跡だった。


 焼け落ちた廃村。倒壊した塀。地面に刻まれた無惨な爪痕。一つ一つが家屋ほどある足跡が集落を横切るように続いている。空気には焦げた木材と血の匂いが混じっていた。


「……ひどい」


 コーダが口元を押さえた。


 集落の入口に、臨時の野営地が設営されていた。王国騎士団の天幕が並び、負傷した兵士たちが横たわっている。A級冒険者と思しき連中も、包帯だらけの体で座り込んでいた。


「おお! 黄金の天秤の皆様。来てくださったのですね」


 片腕を吊った騎士団の隊長が、俺たちに歓喜の声を向ける。


「厄災の魔獣は北の峡谷に巣食っております。あいつが出てくる度に集落が一つ消える。私たちは足止めするので精一杯でした」


「うむ。お疲れ! ここからは俺たちに任せて十分休むといい。で、被害は?」


「4つの集落が壊滅。生き残った住民の大半は避難済みですが……最後の集落だけ、まだ取り残されています。子供ばかりだ。大人は逃げる時間を稼いで全滅は免れないかと」


 子供ばかり。


 俺の頭の中で、一瞬だけ別の回路が走った。が、今はそれどころじゃない。


「その、ベヒーモ? の現在地は?」


「峡谷の奥。ただし途中に小型の魔物も大量に沸いています。奴の魔力に引き寄せられたのでしょう。下級の魔物ですが、我々騎士団の残存兵力じゃ突破できそうにも」


「了解だ」


 俺は聖剣を抜いた。


「ネキーン、コーダ。先行して道中の雑魚を片付けてくれ。子供たちの避難経路を確保するんだ」


「「承知!」」


 ネキーンが大剣を構えて駆け出す。峡谷の入口に群がっていた下級魔物の群れに突っ込んで、一太刀で3匹まとめて斬り飛ばした。

 コーダも聖盾を構えて後に続く。飛びかかってきた魔物の爪を盾で弾き、カウンターで叩き伏せた。


 うんうん、いいじゃないか!! やっぱり最高級装備の力は伊達じゃないねェ〜!!


「ジーコ。お前は後方で指揮を頼む。騎士団の残りと連携して退路を確保してくれ」


「任せろ」


 ジーコが騎士団の隊長と何か話し始めた。


 税制の観点から組んだ俺たちだったが、中々バランスいいんじゃないの〜? 「冒険者してる」って感じがして楽しいね!



 ――さて。


「俺は本丸に行く」


 峡谷の奥。星喰らいのベヒーモ。S級のネームドだ。


 騎士団とA級冒険者を蹴散らした古代種……か。俺の聖剣のシミにしてやるぜッッッ!!!



 ◇ ◇ ◇



 峡谷の最奥部。そいつは、いた。


 山のような巨体に、全身を覆う紫黒色の鱗。口元からは星の魔力(?)が霧のように漏れ出ている。六本の脚で大地を掴み、尾の一振りで岩壁を粉砕する。


 目が合った。


 厄災が咆哮する。空気が震え、足元の岩が砕ける。峡谷全体が揺れた。


 咆哮それが終わる前に、俺は聖剣を振り抜いていた。



 一閃。



 ベヒーモの首が、胴体から離れた。20メートルはゆうに超える巨体が、重力に引かれてゆっくりと崩れ落ちる。紫黒色の血が峡谷の壁を染めた。



 討伐時間――


 なんと1秒。


 俺の史上最高記録である。

 もしかしてこの俺様、ただえさえチート勇者だってのに……成長してる!?


 よかったな! 王国。

 俺が性格クソ悪だったら世界征服とか企てちゃうところだぞ。


 これを恩に感じて税制の優遇でもしてもらいたいモンだよね。



 ◇ ◇ ◇



 現場から戻ると、ネキーンとコーダが道中の掃除を終えていた。


「片付いたぞい。雑魚は全滅じゃ」


「こっちも。避難経路、確保できました〜」


「よし。子供たちを連れて――」


 騎士団の隊長が俺の方を見て固まっている。


「……ゆ、勇者様。ご無事でしたか。まさか……もう?」


「まぁね!」


「……あ、あの厄災の魔獣を?」


「ほれ」


 俺は引き摺って持ってきた"野郎"の首を投げ渡した。


 騎士団長が絶句した。周りの兵士たちもざわつき始める。


「嘘だろ……俺たちが何日もかけて足止めするのが精一杯だったのに……」


「ふふん。誠意は金貨の枚数で見せてくれたまえ。さ、子供たちの救出を急ごう」



 ◇ ◇ ◇



 最後の集落に辿り着いた。


 井戸の周りに、子供たちが集まっている。


 30人くらいか。最年少は3歳かな? 大きいのでも11か12歳といったところか。全員がボロボロの服を着て、痩せ細った体を寄せ合っている。


「大人は……全員……」


 コーダが声を詰まらせた。


「ああ。子供たちを逃がすために、足止めに回ってそれきりだ」


 ジーコが淡々と言う。だがその声にはわずかな震えがあった。


 俺は子供たちを見つめた。


 怯えた目をしている。親を失い、家を失い、明日の保証もない。当然だ。


「……俺たちが引き取る」


 気づいたら、口を開いていた。


「「「え???」」」


「30人全員。うちのパーティが面倒を見る」


「カネスキ……あんた……」


 コーダの目が潤んでいる。


「勇者様……なんと慈悲深い……」


 騎士団の兵士たちからも声が上がった。さっき厄災の魔獣を瞬殺して戻った男が、今度は孤児を全員引き取ると言っている。


「聖者だ……」

「勇者様は聖者様だ……」


 ジーコだけが、俺の目をじっと見ていた。こいつだけは俺の計算に気づいている。



 そう。


 これは単なる親切ではない。俺は聖人君主ではないのでね。



 ――答えはこうだ。



 『養子縁組』



 この言葉をご存知だろうか?


 まあ簡単に言えば、その子たちをウチの子として扱いますよってことで、この前ダイカンに教えてもらった「慈善事業」の一貫だ。


 扶養控除が30人分。養育費控除も30人分。控除額が……こりゃ相当なことになりますなァ!!



 しかもこの天才カネスキくん。さらに悪魔的なコトを思いついてしまったのだ。


 このキッズたちが一流の教育や環境の元で英才的にスクスクと育てば将来はどうなる?


 それはもう高明な冒険者ないし、職につくだろう。そこから、いくらか頂くのだ! 実家に金を入れる社会人みたいに。



 まさに、不労所得。


 さらに孤児や難民の"子"を段階的に受け入れて――これを繰り返していけば……



 永久機関の爆誕であるッッッッッ!!!!!



 俺の考えに気づいている様子のジーコだったが、何も言わなかった。結果的に子供が救われるなら、動機はどうでもいいと思っているんだろう。


 俺もそう思うことにした。


「……さぁみんな! お兄さんと楽しいところに行こうネ!」


 泣き出しやがった。


 コーダがのおかげでなんとかなったが、そんなに俺の顔、こわいのかなぁ?


 (薄汚いだけである)

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