表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/32

第12話 そうだ、八百長に乗ろう!


 豪遊のツケは、思ったより早く回ってきた。


 朝。拠点のドアの下に、一通の手紙が差し込まれていた。封筒には牛の角のスタンプ。モーモーファイナンスだ。


『ギルドマスターさん。来週が返済期限だ。遅れたら……わかってるよな?』


 短い文面。だが、その短さが逆に怖い。


「やべえ。マジでやべえ」


 俺は頭を抱えた。節税にもなってない借金の上に、闇金の取り立てまで来やがった。

 別に戦ったところでチート勇者の俺が負ける可能性は皆無なんだが、そういう問題ではない! 俺は税金が嫌いなだけであって、犯罪がしたいワケではないからな。


「だから言っただろ。あそこだけはやめとけって」


「今さらそれを言われてもなァ」


「で、いくら足りないんだ」


 ジーコが帳簿を開く。数字を追って、顔をしかめた。


「……残っているダンジョン報酬は全部突っ込んでも足りない。利息がデカすぎる。十日で五割……さすが闇金といったところだな」


 くそぅ! 前世でやらかしてから契約には細心の注意を払っていたのに! あの時の俺は、完全に浮ついていた。


「そうだ!……また借ればいいのだ!」


「カネスキ。借金を返すために借金するのは、それこそ破滅の始まりじゃぞ」


 まぁそうですよね。俺もそこまでバカではない。言ってみただけだ。


 爺さんもこれまでの冒険者人生で、何人もそういう奴を見てきたんだろう。いつになく口調が重い。


「ど、どうしましょう……?」


 コーダが不安そうに俺を見る。12人の子供たちの顔が脳裏をよぎった。


 そ、そんな目で見るな。本当に金がないのだ。


 だが、俺はこのパーティのリーダー。なんとかしなくては……



 ◇ ◇ ◇



 そんな時だった。


 一件の依頼が拠点に舞い込んできた。


 独立ギルドになったからには、自分で仕事を取ってこなきゃいけない。街中を駆けずり回って営業する覚悟でいたんだが、ありがたいことに『勇者』の看板は強かった。ちょっとした難事案が、向こうから転がり込んでくる。


 差出人はレース場の運営委員会。


『リザードレース場において、不正が行われている疑いがある。

 特定のリザード「赤雷のヴォルト」のレースを調査し、

 証拠を押さえていただきたい。

 報酬:300万リーフ』


 300万リーフ。悪くないが、モーモーの返済には全然足りない。


「とりあえず……行くしかないか」


「ち、ちゃんと仕事してくださいね? 遊びに行くんじゃないんですからね?」


 コーダが釘を刺す。


「わかってるって」


 雑に言い放った俺の目は、依頼書の『リザードレース場』という文字に釘付けだった。



 レース場=競馬。



 ムホッ!!!!



 胸の奥で、何かがざわつきやがる。前世の記憶が、疼いているのだッ!!!



 ◇ ◇ ◇



 (くだん)のレース場に着いた。


 小型ドラゴン――リザードが走る競走場。観客席は熱狂に包まれ、賭け屋が声を張り上げてオッズを叫んでいる。


 砂埃と興奮と、わずかな絶望の匂い。前世の競馬場と、同じ空気だ。


 毎週土曜日、わずかな給料を持って通ったあの場所。馬券と希望を握りしめて叫んだ直線。外れた時の虚無。当たった時の狂喜。



 ……やめよう。今日は仕事だ。仕事。調査に専念しよう。


「まずはヴォルトとやらの出走レースを確認するぞ」


 出走表をめくる。赤雷のヴォルトは8レース目に出走予定。まだ時間はある。


「それまでどうする?」


「パドックを見て回る。不正の手口を見極めないと」


 俺は今、まともだ。ギャンブルをしに来たんじゃない。仕事だ。


 ――だが。


 パドックに足を踏み入れた瞬間、体が勝手に動き始めた。


 リザードの脚の筋肉の張り。目の輝き。調教師の表情。装蹄の状態。前世で10年間、毎週培ってきた目が、自動的に起動してしまう。


 止められない。いや、止める気もない。


 ……5レース目のパドック。3番『翡翠のリーゲル』に目が止まった。


 前走は最下位だが、脚の仕上がりが違う。調教師が先月変わってる。装蹄も新しい。前走の惨敗でオッズがアホみたいに跳ね上がっている。


「……いい脚してんな、こいつ」


 思わず声が漏れた。


「おいカネスキ。目が据わってるぞ」


 ジーコに見透かされた。


「ち、調査だ。調査の一環だ」


「嘘つけ」



 ◇ ◇ ◇



 8レース目が近づいてきた。いよいよヴォルトの出走だ。


 パドックで赤雷のヴォルトを観察する。赤い鱗。鋭い眼光。確かに立派なリザードだが――。


「……あれ」


 俺は思わず声を漏らした。


「どうした?」


「こいつの目、なんかおかしいぞ」


 瞳孔が異常に開いている。興奮状態。だが、それだけじゃない。目の充血。微かな痙攣。筋肉の張りが不自然に均一。


 前世で何度か見たことがある光景だった。レースの世界では、度々問題になる。


「ドーピングだ」


「ドー……? なんだそれは?」


「興奮剤か何かキメて身体能力を異常に上げる行為だ。見てみろこいつ、目がバキバキだ。あんな状態で走ったらそりゃ速ぇよ。タガが外れて痛みも疲労も感じないんだからな」


 つまり、依頼書の「不正」の正体はこれだ。どうやったのかは知らんが、ヴォルトにドーピングして勝たせている。


 本来なら、ここで証拠を押さえてレース場の運営に報告するのが仕事だ。



 ――本来なら。



 俺の頭の中で、全く別の回路が発火した。


「……ジーコ」


「何だ」


「ドーピング野郎のオッズ、今いくつだ?」


「……150倍だな。成績にムラがあるのか人気が割れてる。お前の言う通りなら、ドーピングの日だけ勝つから、一般客には読めない。同レースには人気リザードもいるから、この倍率も妥当だな」


 150倍。

 

 パーティの手元資金を全額突っ込めばオッズは下がるだろうが、それでもモーモーの返済額程度、5回払ってもお釣りが来る。


「……おい。まさか」


 ジーコが俺の顔を見て、悟った。


「お前、クエストの情報で賭ける気か!?」


「……エ、エヘヘヘヘヘヘ」

 

 やれやれ、といった顔を見せるジーコ。いや、お前のその目、裏で完全にノリ気なのバレてっからな!?


「こいつは”今日勝つ"。どっかの反社が不正で勝たせてるんだから当たり前だ。依頼書にもそう書いてあるしな。俺のご慧眼でもドーピングは確認できた……これで賭けない方がバカだろ」


「……それ、ほぼインサイダーなんだけどな」


「え? この世界ってインサイダー取引を規制する法があるのか?」


「…………」


 ジーコが黙った。


 はっはぁ〜ん! ないんだァ!? 少なくとも、リザードレースに関してはそうらしい。


「コーダ、ネキーン。手元の金を全部出せ。一攫千金の大チャンスだぜ!?」


「え、えぇっ!?」

「カネスキよ、正気か?」


「フハハハハハハ!!! この勇者様を信じるが良いぞッ!!!!」


「……乗ろう」


 ジーコがまっ先に財布を出した。


「お前……さっきまで反対してなかったか?」


「当然だ。危険すぎる。だが……理屈は通ってる。誰かが不正で勝たせてるなら、こいつは勝つだろう。あとは倫理の問題だが――モーモーの返済期限を考えると、そんなことを気にしてる余裕はない」


 元商人。いや、絶対詐欺師。やっぱりこいつ、追い詰められた時の判断がブッ飛んでいやがる。


「コーダは?」


「……子供たちのご飯代だけは残して……あとはリーダーに任せようかな」


「ナイス判断だ! ネキーンは?」


「……ワシの金はネンキンから搾り取られた残りカスじゃ。好きに使え。ネンキン制度への復讐の一環と思えば安いもんじゃ!」


 爺さんならそう言うと思ってたぜ! 動機が常に年金への怒りなのは執着強すぎて少々恐いが。


 とにかく全員分の手元資金をかき集めた。賭け屋の窓口に向かう。



「8レース、1番赤雷のヴォルトに全額」



 賭け屋が目を丸くする。


「た、単勝に全額!? 正気ですか?」


「当然だ。俺は、やる時はやる男なんだッ!!!」


 賭け屋が何とも言えない顔で賭け券を発行した。



 ◇ ◇ ◇



 ファンファーレが鳴る。第8レース、スタート。


 ゲートが開いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ