第10話 そうだ、借金して遊ぼう!
ダーツが来た。信じられん。
独立ギルドを作って一週間。せっかく逃げ切ったと思ったのに、あのサイコ野郎が自分から管轄替えを申請して追いかけてきやがったのだ。
はり倒してやりたい気持ちは山々だが――そんな暇はない。
黄金の天秤の拠点。テーブルを囲んで、今後の作戦会議を執り行う。
「あの男がいる以上、経費で攻めるのはリスクが高い。お尋ねで釘を刺された直後だ。同じ手は通じない」
ジーコが心底気だるげに腕を組む。
「じゃあどうすんだよ。稼いだ分だけ持っていかれんのは変わらねぇんだぞ」
「あの、それなら……稼がなきゃいいんじゃない……?」
コーダがぼそっと言った。全員が振り向く。
「いや、稼がないわけにはいかないだろ……税金回避のために仕事やめるって、そりゃ本末転――」
「あっ稼ぐのをやめるんじゃなくて……所得を増やさなきゃいいんじゃないかって……!」
コーダは自分でも何を言ってるかわかってない顔をしている。だが――俺の頭の中で、全てが繋がった。
「……待てコーダ。お前今、すげぇナイスなこと言ったぞ!!」
「え?」
「所得を増やさずに金を手に入れる方法……一つだけ、あるではないかっ!!!」
全員の目が俺に集まった。
「……お前、まさか……」
何かを察したジーコが怪訝な顔を向ける。
「そう、借金だ!!」
「……しゃ、借金!?」
一同これには仰天(ジーコ以外)。
「借金は所得じゃない。借りた金は負債だから課税対象外だ。つまり――借りた金で生活すれば、ショトク税ゼロで豪遊できる!!」
さっきまでやれやれムーブをかましていたジーコだったが、ついに俺の提案に乗ってきた。
「それだけじゃないな。借入の利息は、事業用なら経費にできる」
「ほほう?」
「ギルドの運営資金として借り入れれば、利息は丸ごとギルドの経費として処理できる」
はは〜ん! これは最高だぜ!
「つまり借金すればするほど、税金から逃げられるってことじゃねぇか!!」
俺は跳ねるように立ち上がった。
借金は所得じゃない。だから課税されない。借金の利息は経費になる。つまり課税所得も減る。
我ながら完璧すぎるッ!!!
――前世の俺は、借金に追われる側だった。今度は借金を使う側に回ってやるぜ。
◇ ◇ ◇
というわけで、翌日から俺たちは街中の金貸しを回り始めた。
『勇者』かつ『ギルドマスター』の肩書きは、こういう時に便利だ。個人じゃなく法人としての借り入れ。なにより、これまでブチのめしてやった数々のネームドの実績が俺の信用に色をつける。
最初に訪れたのは、大通りに面した立派な店構えの金融業者。多分チェーン店なんだろう。思い返せば街中にあった気がするその看板には『そこに愛はあるんか? アコフル』と書いてある。
非ッ常〜〜〜〜に既視感があるが、大人な俺はいちいちツッコまない。
「いらっしゃいませ! おや、勇者様ではありませんか! この度は当店に足を運んでくださりこの上ない光栄でございます」
さすが大企業。受付の女性まで丁寧な接客を徹底されている。
「先日、冒険者ギルドを新設してな。その運営資金をいくらか借りたい。貸せるだけ貸してくれ」
「それはおめでとうございます!! ぜひご融資させてください! 当グループの愛を持って、お手頃な金利でご案内いたします!」
「あ、ああ。助かるよ」
「では身分を証明できるもの。冒険者カードや王国在住票などをご提出ください」
言われるがままに手渡した。ちなみに冒険者カードは冒険者協会が発行するもので、ギルド・国問わず一貫している。要は、自動車免許証みたいなものだ。で、王国在住票は住民票ってわけだね。
「ありがとうございますッ! 確かに確認ができました! ではこちらを!!」
前世では50万くらいが限界だったが、軽く20倍はありそうな額をポンっと手渡された。勇者の信用、ハンパネェー……
「ありがとう! じゃ、俺たちはこれで」
颯爽と店を後にする俺たち。
……金利の説明は正直よく聞いていなかったが、ジーコが黙っているということは問題なさそうだ。俺としては借りられればなんでもいいんだが。
次に訪れたのは、少し路地を入ったところにある商会。看板には『どこまでもあなたに寄り添う レーク商会』
ここもお決まりの展開でスイスイ進んだ。
「勇者様のギルドでしたら、無担保で結構です! お気軽にご相談ください!」
「うむ。借りよう」
「ありがとうございます! 私たちはどこまでもあなたに寄り添います!」
それから何軒か回って、たどり着いた最後の店。
裏路地の奥。薄暗い建物の入口に、牛の角の看板がぶら下がっていた。
『モーモーファイナンス』
「おい、ここはやめとけ」
ジーコが小声で止める。
「え、なんでだ?」
「見ろよあの看板。どう見ても闇金だろ」
ふ〜む。確かに、雰囲気が全然違う。異世界にも闇金なんてモンがあんのか。物騒だなあ。
だが俺は構わず扉を開けた。
中にいたのは、いかつい男だった。坊主頭に傷だらけの顔。腕には闘牛の刺青。
「うちは金利が高いぜ。その代わり、審査はねえ。返せなくなったら……まあ、その時はその時だ」
男が低い声を向け、にやりと不敵な笑みを浮かべる。
「……かまわない」
「おい、カネスキッ!」
ジーコが悲鳴を上げる。
「大〜丈夫だって。ちゃんと返すから!」
「お前の『大丈夫だ』ほど信用ならん言葉はない」
え? 俺、曲がりなりにも勇者なのに? どこでそんなに信用を落としたんだッ!?
◇ ◇ ◇
――そして。俺たちは一時的に大金を手にしてしまった。
そう、大金を。それも何の努力もなく。
ここまでの流れで、この後どうなるかはもうお分かりですよね??




