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聖剣を継げなかった少年は、魔剣と契りて暴君を志  作者: 南木
第5章 家族のような存在
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第92話 4人目のメイド

「お帰りなさいませ、ご主人様♪ お食事にいたしますか? お風呂にいたしますか? それとも……?」

「ええええぇぇぇぇぇぇ!?」


 雇った覚えのない、アルトイリス家のメイド服を着た女性がリクレールを出迎えた。

 あまりにも想定外な事態にリクレールは度肝を抜かれたが……メイド服を着た女性は、腰まで届く麻色の髪に、なにより世界を見渡してもそうそうない大きさの豊かな胸を見て、すぐにその正体に思い至った。


「も、もしかしてエレノアさん!?」

「あらバレちゃった?」

「バレちゃったじゃないです! 何でエレノアさんがメイドの格好をしてるんですか!?」

「うーん、やっぱりリクの趣味でエレノアさんにこんな格好をさせていたわけじゃないのね」

「当たり前だよ、トワ姉まで僕を何だと思ってるの!?」


 リクレールはようやくヴィクトワーレが玄関の外で入りにくそうにしている理由を理解した。

 確かにこんなのをいきなり見せつけられたら、だれだって反応に困ってしまう。

 とりあえず、何とか心を落ち着かせたリクレールは、改めて二人にアルトイリス家の新しい使用人を雇ったことを話した。


「まあまあ、リクレール君も自分で使用人を探しに行っていたのね」

「エレノアさんは、何でそんな恰好を? そんな恰好をさせてるってミュレーズ家に知られたら、なんて言われるか」

「それは心配ないわ。だって私がメイドさんになるのは、ミュレーズ家公認だもの」

「えぇ……」


 エレノアの話によれば、ミュレーズ家がアルトイリス家の使用人を全員引き抜いてしまったことに罪悪感を覚えたセレネが、彼らをアルトイリス家に戻すべきじゃないかと言い始めたので、困ったミュレーズ家の関係者をエレノアが説得して、代わりに彼女がアルトイリス家の管理のために出向することで手打ちにすることを提案したのだった。

 セレネは反対していたようだが、エレノアがミュレーズ家にいても居候同然なので、賛成多数でエレノアの出向が決定したのだった。


「そういう話はせめて僕を通してほしかったなぁ」

「その……やっぱりリクレール君は、わたしじゃダメだったかしら?」

「そ、そんなことはないよ! むしろいてくれて助かるし!」

「本当!? ふふっ、じゃあ私も新人メイドさんということで、よろしくお願いしますねご主人様♪」

(しまった、つい押し切られてしまった!)

『英雄色を好むと申しますが……主様メーテルは年上の女性の方に押され気味ですわ。これはわたくしが何とかしなければ』


 一連の様子を黙って見聞きしていたエスペランサは、そういって思わず嘆息するのだった。

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