第508話 お幸せにっ!!
「あれ、わたし…………」
違和感を感じてヴィクトワーレが目を覚ますと……すぐに、自分が何かを抱きしめていたことに気が付くと同時に、その抱きしめているものが、何度も身じろぎして自分の身体に埋まっていることを知った。
「っ!? リクっ!?」
「はひゅっ!?」
おおよそ侯爵様に似つかわしくない声が、ヴィクトワーレ胸元から響いた。
一方のリクレールも、すぐに「エスペランサの警告を聞いておけばよかった」と後悔し、冷や汗が幾筋も体を伝っていく。
「あ、あの、その……トワ姉、これは、ちがくって」
「う、うわああああぁぁぁぁっ!!??」
『主様!?』
ヴィクトワーレは珍しく羞恥心全開の甲高い大声を上げたが、リクレールを突き飛ばすでもなく、何でそうなったのか、まるでリクレールに覆いかぶさるかのような態勢になり、上からのしかかるような形になってしまった。
「ご、ごめんなさいトワ姉っ! そ、そのっ、やましいことは……あったけどっ、いい匂いがしたから、つい、魔がさして……」
「う……ううん、こっちこそゴメンね、勝手に部屋に入って寝ちゃったのは、私の方だから」
リクレールはてっきりヴィクトワーレに嫌われるかと思ったが、逆に彼女の方から謝罪されてしまった。
ヴィクトワーレの言う通り、リクレールに断りもなく部屋に忍び込んだのは彼女の方なのだから、リクレールに何をされようが文句を言える立場ではない。
(それにしても、この状況……まるで、私がリクを押し倒してるみたいじゃない)
だが、少しだけ落ち着いたことで、今度はヴィクトワーレの心に、疚しい気持ちが徐々に湧きつつあった。
「えっと、トワ姉……僕はもう、平気だから、起きた方がいいかなって思うんだけど……」
「…………」
何しろ今はヴィクトワーレがほとんど上から覆いかぶさっている態勢なので、彼女が体をどけないと、リクレールは体を起こすことができない。
それに、彼女の豊かな双丘はリクレールの胸元に押し付けられたままであり、下腹部には何やら熱い鉄芯のような硬いものが当たっている。
(リク……怯えているのね、可愛い♥)
「と、トワ姉……なんか、目が怖い……」
「ふへへ、だいじょーぶよリク、私は怖くないから」
『ヴィクトワーレ様……流石にそろそろお止めになった方がよろしいかと』
「だって、自らの手で勝ち取れって言ったのはエスペランサでしょ?」
『それはそうなのですが……』
哀れ、リクレールはこのままヴィクトワーレの餌食になってしまうのか!
と、そんなとき、部屋の扉が猛烈な勢いでノックされた。
「ご主人様っ! 今、ものすごい声が! ご無事ですか!?」
「レイ!?」
なんと、たまたま近くを通りかかったメイドのレイが、部屋の中の声を聞いて駆け寄ってきたのである。
「鍵がかかっていない!? まさか、侵入者が!?」
「ちがうちがう、私よ、ヴィクトワーレよ!」
「あ、ヴィクトワーレ様でしたか、それなら何の問題も――――」
今部屋の中に入られるのは色々まずいので、ヴィクトワーレも必死に中にいるのは自分だと叫ぶ。
しかし、一瞬だけ遅かった。
昨晩鍵を開けたはいいが、閉め忘れていたせいで、ヴィクトワーレが声を上げた時には、レイはもう扉を開けてしまっていた。
そして……レイがそこで見たのは、ベッドの上でリクレールに覆いかぶさるヴィクトワーレの姿だったのだから、色々と手遅れだった。
どう見ても「真っ最中」のような二人を見て、レイはみるみる顔を赤くして……
「失礼しました、お幸せにっ!!」
「「ちょっと待って!?」」
逃げるレイを、二人は慌てて追いかけるのだった。
『やれやれ……英雄色を好むとは申しますが、主様ももっと堂々とすべきですわ。けど、面白かったのでヨシとしましょう』
そしてエスペランサは、このドタバタ劇を高みの見物と洒落込んでいたのであった。




