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第504話 太陽を越える

 それはまさに「呪い」としか言いようがなかった。

 巨大な太陽のように周囲を照らしていた存在が、ある日何の前触れもなく消えてしまったことで、太陽の明るさになれていた人々は、闇の中でもがきながら、太陽が当た頃の思い出に囚われている。

 今必要なのは、失われた太陽の代わりに、仮に月ほどの明るさでも構わないから、自らが闇を明るく照らそうとする者なのだろうが……リクレールにはまだその自覚がない。


『主様はいまだに、マリア様の幻を追い続けております。それこそが、主様の最大の望み故……しかし、そう遠くない未来、主様は自らがお姉様のような存在にならなければならないことを、嫌でも自覚されるはずでございます。その時、主様はお姉様を思うあまり、あらゆることをお姉様を超えないよう、自らに課すかもしれません。そうならないようにするためにも、主様にはわたくしの他にも、目標となる人物が必要なります。…………ヴィクトワーレ様には、その大役をお任せしたく存じますわ』

「リクの目標……つまり、私がある程度マリアの代わりになる必要があると」

『いえ、それだけでは足りませんわ。ヴィクトワーレ様は代理ではなく、越えなければなりません。そうでなくては、主様はマリア様ではなく、ヴィクトワーレ様のことを真にお慕いすることができないかもしれません』


 マリアを越える――――自身も「呪い」に囚われているヴィクトワーレにとって、エスペランサの提案はかなりの難題であった。

 生前は一度も勝てなかった、あまりにも強すぎる親友……それも、もう天国に行ってしまったとなると、どうやって勝てばいいのかさえ分からない。

 単に生前のマリアより武で強くなればいいのか、知識の分野に切り替えるべきなのか、それとも魅力で落とすのか……どれもこれも正解とは言えないように思える。


『もちろん、それらの面でお姉様を越えることは目標となりません』

「ちょっ、だから、いきなり心を読まないでよ、もう…………けど、正直どうしたらいいかわからないわ」

『正直なところ、わたくしも明確な答えがあるわけではございません。ですが、成し遂げなければならない、と言うことだけは分かりますわ。そうですわね…………まずは、此度の婚約争奪戦において、ヴィクトワーレ様自身が勝ちをもぎ取る、というのはいかがでしょう』

「私が? リクとザイドリッツの競争に勝つ?」


 エスペランサの考えていることはよくわからないことが多いが、今回もまるで意味不明だった。


『ヴィクトワーレ様は政治的な都合で、男たちの競争の景品にされてしまいましたが、貴女様も一人の人間であられる以上、自ら勝ちをもぎ取るだけの気概は必要でございます。ヴィクトワーレ様ご自身は、主様と結ばれることをお望みであることは間違いございませんね?』

「ええ、もちろんよ。リクを昔から好きだったって言うのもあるけど……この前の都市同盟との戦いで、あっちは政治的な判断で、リクに一言も相談せず攻撃を中止して軍を引き上げたって聞いて、正直失望したわ。噂では、リクにこれ以上手柄を立てさせると、功績の差が開いてしまうからって言うけど、そんなことで国家の命運を左右する戦いをボイコットするのは、信じられないわ」


 兄のビュランやザイドリッツたちが軍を引いたのは、表向きはレオニス皇太子の意見を尊重したということと、キトレルが重傷を負い、戦いの継続が困難になったからとされているが、ザイドリッツはビュランやベンジャミンに説得されて意見を翻したという話が流れている。


 ヴィクトワーレとしては、ここで私情を捨ててでも、国家として何が最善かを見極めていれば彼らのことを見直したかもしれなかった。

 良くリクレールは乙女心を解さないと言われるが、対するザイドリッツ陣営が大局観を解さないという致命的な欠点に比べれば、問題にさえならないだろう。

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