第498話 豪快な食卓
羊丸ごと一頭分の肉が乗せられた巨大な皿の前で、思わず圧倒されるリクレールやサミュエルたち。
それだけでなく、レイは人数分の肉厚のナイフを配って回った。
「どうぞ、お好きな部位を切り取ってお召し上がりください」
「なんと! そのような豪快な食べ方が許されるとは、たまげたな!」
「好きに切っていいの!? な、なんだか楽しそう!」
「じゃあ遠慮なくっ! わたしはお尻から頂こうかしら!」
「ふふふ、貴族だからと言って畏まった料理ばかりだとつまらないものね。こんなふうにみんなで楽しむのも、いいものだわ」
巨大な肉塊を、自分の好きに切り分けて食べるという、ある意味貴族にあるまじき野蛮料理であったが、ここに居る者たちはそんなことを気にするはずもなく、各々手に持ったナイフで楽しそうに切り分けていった。
そして満を持して口に運べば……中からは芳醇な香りの肉汁があふれ、とてもマトンとは思えないしっかりとした弾力や、柔らかさが感じられた。
「……うまいっ! うまいぞっ! 食べるものなど、腹を満たせれば十分と考えておった某が間違っておった! 食べるだけで、このような幸福を得られるとは!」
特に本日の主役であるサミュエルは、西帝国の武人の常として、人生の大半を味気ない食事で過ごしてきたこともあり、「食事が旨い」と感じたことが非常に衝撃的だった。
噛めば噛むほど、羊肉の濃厚なうまみが口の中で踊り、香り付けに使われた自分の領地で産出するワインの匂いが、その濃厚さをさらに引き立てている。
「ご主人様は……お肉は若干苦手と聞いておりますが、いかがだったでしょうか?」
「凄いよレイ! お肉がこんなにおいしいなんて……これならいくらでも食べられそう!」
「本当ですか!? う、嬉しいですっ!」
『なんと、主様が肉類を無限に食べられるほどとは! やはりこの娘を雇って正解でしたわ! 今からでも、主様の身体をより頑強に育てるのも夢ではありませんわ!』
西帝国はとにかく食文化が壊滅的だったせいで、肉の保存も調理もよろしくなく、それが原因でリクレールも肉類に忌避感を抱いていたのだが、ここまでおいしいとなれば話は別だった。
小食なリクレールが、食べても食べても腹に入っていく……それだけでも、奇跡のようだった。
「んふふふ~っ♪ ホント、手も口も止まらないわ! けど、こんなにおいしいお肉料理を食べたなんて話したら、あの太っちょガムランが嫉妬しそうね」
「それについてはご心配なく、このお料理は、ガムラン様の奥方から教えていただいたものでございます。なので、ガムラン様はこのような美食を常日頃楽しんでいることかと」
「そうなの!?」
レイから聞いた話にヴィクトワーレは大いに驚くと同時に、「だからあんなに太るんだ……」と改めて納得した。
ガムランの妻は、夫と同じく料理に凝っているようで、家で雇っている使用人の半数が料理人だとうわさされている。
彼女自身も時々腕を振るって料理を振る舞うほか、独自のレシピを考案しているようで、レイとエレノアはその一部を分けてもらっていたのだった。
「皆さま、こちらはサミュエル様の領地で採れたブドウで造られたワインでございます。自家栽培している方に、特別に分けていただきました。また、こちらのチーズもお肉とワインに合いますので、どうぞお召し上がりください。ご主人様は、こちらのぶどうジュースを……」
「僕だけジュースなのは少し恥ずかしいけど、流石にワインはまだ早いからね……けど、このジュース、すごく甘いね!」
「おお! リクレール様の舌に合いましたか! 我が領地で採れるブドウは、量は少ないものの、他のブドウに比べて甘みが強いのが特色でしてな。あのガムランも、西帝国で採れるワインは我が領地のものしか飲まぬほどでございます」
「へぇ、そうなんだ……もっと詳しく聞かせて」
「では僭越ながら――――」
サミュエルの領地で採れたワインに使われたブドウの話題から、どんどん会話が生まれてくる。
おそらく、これもまたレイやエレノアの狙いだったのだろう。




